スモールサンニュース論考

[特別論考]
「緊急提言」への質問に答える

スモールサン主宰、立教大学名誉教授山口義行


去る4月9日にスモールサンのホームページ上に掲載した「緊急提言:“永久劣後ローン”で『返さなくてもいいお金』を中小企業に」には驚くほどの大きな反響があった。この記事に付せられた「賛同します」ボタンを通して、多くの方々が意思表示をされただけでなく、マスコミからの取材も相次いだ。
そんな中、「賛同しますが、いくつか質問があります」というメールも多く寄せられたので、以下で、典型的な「質問」を紹介して、私の「回答」を記すことにしたい。

質問1 なぜ「永久劣後ローン」なのか。

――(答)「損失」を「融資で賄え」という「支援策」はそもそも不合理。

「永久劣後ローン」は借り手である中小企業が自分で返済期を決められるローンである。余裕ができてから返済するというのでもいいし、「金利」さえ支払っていれば「永久」に借りたままでいることもできる。これは、「配当」さえ支払っていれば「返済」の必要がない「株」と同じである。だから、金融機関が「永久劣後ローン」を実行するということは、中小企業の「株」を買って「資本を注入する」というのと同じ意味を持つ。
いま、なぜそれが必要なのか。「売上8割減が2か月も続いているんです」という企業がいる。この企業で起きていることは「資本」の喪失である。投下した資本の多くが回収不能となって「消えて」しまった。だから、「永久劣後ローン」を使って「資本」を補給する。これはもっとも理に適った支援策である。それを「融資」で賄えば、コロナで負った「損失」が「返済」という重荷になって借り手企業の足をひっぱることになる。中小企業経営者が「融資」による支援に腰が引けるのはそのためである。
私の提案は、①まず金融機関が「永久劣後ローン」によって中小企業に「資本注入」をする、②そして、その債権を政府と日銀の「公的資金」で金融機関から買い上げるというもの。結果として、「公的資金」が(金融機関を介して)中小企業に「資本注入」される仕組みである。
銀行がバタバタつぶれた金融危機の時期に、政府は不良債権の増加で債務超過に陥りかけた金融機関を「公的資金」による「資本注入」で救った。私の提案は、これを中小企業向けでやろうということにほかならない。不良債権は金融機関が自ら過剰融資によって作り出したものだが、「コロナ禍」による損失は中小企業が経営の失敗でつくりだしたものではない。「公的資金」を中小企業に「資本注入」して救うことに、国民の理解は得られるはずである。

質問2 「ゾンビ企業」まで救うことになりはしないか。

――(答)一部の「ゾンビ企業」の生き残りを懸念して、多くの「健全な中小企業」を見捨てるような政策選択は正しくない。

リーマンショックの時に「金融円滑化法」が施行され、政府は金融機関に「経営が悪化した中小企業」の返済を一時猶予するように促した。その結果、本来「淘汰」されるべき企業が生き残り、かえって日本経済を弱体化させる結果になったという議論がある。そのことが「脳裏に浮かんだ」のか、「永久劣後ローン」を使った支援策で「ゾンビ企業」まで救うことになりはしないかという懸念が寄せられてきた。
 しかし、新型コロナウイルスで経済活動が事実上ストップされるような事態が長引けば、経営危機に陥る中小企業は広範囲に及ぶ。一部の「ゾンビ企業」の生き残りを懸念して「資本注入」を躊躇し、結果として多くの「健全中小企業」を見捨ててしまったとしたら、それこそ元も子もない。けっして賢い政策選択とはいえないだろう。
もちろん、今回提案した施策がもともと問題を抱えた中小企業の一時的な「延命策」とならないように工夫する必要はある。たとえば、「永久劣後ローン」債権を公的資金で買い上げる際買い上げ額を「ローン債権の9割まで」と制限し、少なくとも1割分は引き続き金融機関に保有してもらうことで、中小企業の面倒を見続けるインセンティブとするといったやり方もその一つである。

質問3 破たんする企業が出て「公的資金」が回収できなくなりはしないか。

――(答)多くの中小企業を救うためのコストとして容認すべき。

たしかに、金融機関が取引先について慎重に検討して、「ウイルス問題さえ片付けば回復できる企業」だけに「永久劣後ローン」を実行したとしても、そのうちの何%かが経営破たんに陥り、金利支払いの継続が困難になるということは十分考えられる。いわゆるデフォルト・リスクである。
しかし、政府・日銀がこの施策のために10兆円を投じ、仮にそのうちの2割がデフォルトによって回収不能になったとしても、損失は2兆円に留まる。2兆円の支出で広範な中小企業を救うことができれば、それはむしろ「効率的な政策」だといえないだろうか。ちなみに、今回の個人向け現金給付のために一方的に政府が放出する財政資金は9兆円である。

質問4 「資本注入」に使われる「永久劣後ローン」の金利が高くならないか心配だ。

――(答え)政府・日銀による「買い上げ保証」付きのローンだから、金利は既存の「劣後ローン」より低くなるはず。また「返済の負担がない」ことを考慮すれば、通常の借入金利より高くても、「永久劣後ローン」に伴う企業の負担は小さいはずである。

たしかに「劣後ローン」は一般的に通常の借入金利よりも高い。「劣後ローン」の「劣後」というのは返済の優先順位が低いという意味で、金融機関からすれば「取りっぱくれる」リスクの高いローンであることを意味する。したがって、リスクが高い分、金利が高くなる。しかし、今回提案されている「永久劣後ローン」は、政府・日銀がそれを買い上げることを保証している。その意味で、銀行は「とりっぱくれる」心配がない。だから、既存の「劣後ローン」よりも金利は低くなってしかるべきである。また、金融機関が実行した「永久劣後ローン」債権のほとんどを「公的資金」で買い上げるという前提に立てば、金利は――当面は無利子、その後経済情勢に合わせて少しずつ金利を引き上げるなど――政策的に設定できるはずであり、金利水準を政策的配慮で低めに抑制することもできる。
とはいえ、「公的資金」をたとえば25年程度で回収しようとすれば、最低でも金利は4%ほどに設定されなければならない。「今時4%の金利なんて、高いよ」と感じる経営者もいるかもしれないが、「永久劣後ローン」には年々の「返済義務」がないことを考慮する必要がある。たとえば、1000万円を金利1%で借りて10年間で返す場合、年々の支払額は110万円になる。これは借入金額の11%に相当する。これと比べたら、金利4%であっても、「永久劣後ローン」に伴う年々の支払い負担は低いといえる。

――2020年4月19日筆


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