スモールサンニュース山口恵里の”現場に行く!”

「第62回 株式会社ケーエス」(ゼミKYOTO会社見学会)


皆さん、こんにちは!スモールサン事務局の山口恵里です。
「山口恵里の“現場に行く!”」第62回は、前回に続きゼミKYOTO会社見学企画での取材です!滋賀県野洲市にある株式会社ケーエスの代表取締役、野﨑 就平さんにお話をお聞きしました!

滋賀県で和紙製品の企画・製造・卸売をされているケーエスさん。その創業は1974年、色紙や短冊の卸売業からのスタートでした。
そこから人気の御朱印帳をはじめとする様々な和紙製品の製造・販売、そして自社ブランドでの商品展開など、日本の文化をベースに伝統を受け継ぎつつ、変化と進化を遂げてきました。
見学会の様子とともに、そのレポートをお届けします!


【会社概要】
名称:株式会社ケーエス
創業:昭和49年(1974年)
代表取締役:野﨑 就平
所在地:〒520-2423 滋賀県野洲市西河原824-1
業務内容:和紙製品の企画・製造・卸売
取扱商品:御朱印帳・折帖・書画料紙・和本・経本・軸装・額装・扇子・団扇・色紙・短冊
従業員数: 18名(パート含む)
オフィシャルサイト:https://ks-ltd.co.jp/
ブランドECサイト『和紙のお店 ni-wa』:https://ni-wa.net/

和紙製品の卸売から、企画・製造・販売へ!
〜御朱印帳の反響をビジネスチャンスに〜

野崎:私は1973年に京都の宇治で生まれまして、当社はその翌年1974年に創業しました。私は大学卒業後はアパレルメーカーに就職して、3年ほど営業部に勤めていました。それでブティックや百貨店を回って服を販売する中で、「お金稼ぐってこんな大変なんや」みたいなことがだんだん分かってきました。それまで「何か色紙を扱ってるな」ぐらいの認識だった家業のことを考えるようになりました。家が京都で会社は滋賀なので、事業のことは全く知らない状態だったんです。それで「長男が生まれた時は嬉しかったやろうな」とか「ここで会社を潰したらいかんよな」とか色々と考えて、1999年に当社に転職をしました。

ゼミメンバー:今年で創業50年ですね。

野崎:今年11月で50年になります。現在の事業内容は和紙製品の企画・製造・販売となっていますが、創業当初はすぐ近くに色紙を製造している会社がありまして、そこから仕入させて頂いた色紙や短冊を、書道の専門店さんや額縁屋さん、画材店さんなどに販売していくという卸売業から始まりました。ただ先代がモノづくりが好きということもあって、「サンプルぐらいやったら自分でつくってしまえ」と作ったサンプルを売りに回って、注文が取れたら近くの工場で製造してもらうというような形になっていきました。それでも私の入社当時は機械も少なく、一週間の内に稼働しているか何日あるかといったぐらいだったんですが、徐々に値段が釣り合わなくなってきたり、お客様の要望が複雑になり当社でしかできないものになって製造も請け負うことが増えてきて、現在では毎日機械と人が動いているという状況です。

ゼミメンバー:卸売から業態を拡げられたんですね。


野崎:取扱商品としては、御朱印帳、書画用紙、和本、経本、軸装、額装、扇子・団扇、色紙・短冊と多岐にわたります。実際に当社で製造しているものの多くは御朱印帳ですね。2016年に私が代表になり、2018年にはHPを新しく立ち上げました。そこから問い合わせもたくさん来るようになったんですが、それというのも2019年は平成から令和に変わるタイミングだったんですね。それで社員から「これをビジネスチャンスとして捉えませんか?」と意見が上がってきて、「それええな、やろう!」ということで天皇陛下ご即位記念の御朱印帳を作ることを企画しました。紅白でおめでたいデザインのものを作ったところものすごい反響を頂きました。通常は有名な寺社さんでも年間販売数1万冊を超えるかなぐらいのところが、半年で1万冊を超える注文を頂いたんです。で、色々と試行錯誤をしたおかげで良い結果につながっています。
そんな感じで2016年の代表交代から2〜3年は良かったんですが、コロナ禍では坂道を転がり落ちるように売上が8割落ちました…。そこから上るのがもう大変で、3年間は補助金の申請ばかりでそれが「仕事」みたいになっていました。そういう最中でも「とにかく今何かしないと」と必死で東京ギフトショーといったイベントにも出展させて頂いて、それが今ようやく何とか形になり、前期と今期に関しては過去最高に近い売上というありがたい結果になっています。



手作りの現場を見学!


野崎:この後現場を見て頂こうと思います。一部断裁機やのり付けの機械なんかも使いますが、基本的には人間の手で紙を貼り合わせたりカッターで紙を切ったりと手作業であることがほとんどです。

ということで、早速製造現場へ。
最初に見えたのは、「表装」の現場!

野崎:ここではお客様の作品を巻物や掛軸に仕立てる「表装」の仕事をしています。これは小学生が書いた書道作品で、折り目やしわを綺麗に伸ばし裏から紙を当てて補強する「裏打ち」をして軸表装をします。

ゼミメンバー:くしゃくしゃになってても、こんなにぴしっと変わるんですね。

野崎:
彼は18歳ぐらいからうちでこういう仕事をしてくれていて、多少の破れや穴開きなんかは継ぎ合わせて分からないように直してしまうぐらいの技術を持っている職人です。書かれた方が端っことか「うまくいかへんかったな」という箇所を筆ペンとかでちょっと補修したりすると、裏打ちの時にぶわっと滲んでしまうんですが、彼はそういうのもちゃんと判別して事前に対処してくれます。



続いては、台紙ののり付けの工程。

野崎:ここがのり付けです。そのローラーに紙を通すと、片面だけのり付けをすることができます。彼女がローラーに紙を通して、それを受け取った彼女が厚紙を貼り合わせていきます。

ゼミメンバー:
これは額に使われる紙ですか?

野崎:そうですね、簡易な作品を飾るためのベースの台紙です。人間の手ですのでどうしてもズレたりもするので、一回り大きい状態で貼って、プレスをしてから指定のサイズに裁断します。ちなみにこれは和紙ではなくて洋紙ですね。紙によって伸縮率が違うので、長いこと置くとしわくちゃになってしまうものは早めにプレスを入れますし、そうでもないものはある程度ためてから入れたり。言ったらここの作業が一番時間のかかる作業なので、自動化の機械を入れたいと考えているところです。



こちらは紙の裁断機。
ちょうど今、御朱印帳の中の用紙を切っているところだそう。野崎さんの実演も見せて頂きました!



そして、ここからが御朱印帳の工程!
職人さんがひと工程ずつ手作業で作っています。

野崎:ここは御朱印帳の中の蛇腹をつくるところです。墨の乗りや発色が良く、厚手で裏写りしない伝統製法を用いた奉書紙を使用しています。二つ折りにした用紙を何枚も重ねて、階段状にずらしたところに刷毛でのりを付け、反対側も同じように貼り合わせる。そうすると、どちら側からも開ける蛇腹の中紙ができます。

ゼミメンバー:実際に刷毛とのりで手作業でやっているんですね。

野崎:
季節によってのりの乾きも違いますので、職人がその都度のり加減を考えながら作業します。これは今、表紙を付けているところですね。

ゼミメンバー:これ格好いいですね! 戦国武将の家紋ですよね。

野崎:
これはアマゾンで1位になった御城印帳です。「兵どもが夢の跡」と英語で書いてあって、戦った武将の家紋が対角線上になっています。表紙も手作業で付けているんですが、これ漬物石で押さえているんですよ。本当はプレス機にしたいところなんですけど、それだと強すぎてのりが浸透してしまうんです。また、のりで作っている以上どうしても不要なところがくっついてしまったり、逆に必要なところがくっついていないといったことも起きてしまうので、それぞれの工程で常に検品しながら進めていきます。



そして最後に検品の工程。

野崎:ここは最後にでき上がったものを検品する場所です。これはお客様からのお預かりしたものなので、途中段階の検品ですが。破れてたり折れてたり、黒い点が入っているとかそういったものを弾いていきます。

ゼミメンバー:
すごいスピードですね。偽札見破る人みたい(笑)

野崎:できるかもしれないですね(笑)



進化していく御朱印帳・御城印帳
〜難易度の高いものを受けることで自社も成長していく!〜


野崎:御朱印帳の製造を始めたのは、今から15年ぐらい前です。それまでは需要もそんなに無かったので、それこそ製造されている会社さんから仕入させてもらって販売していました。そのためデザインなど非常にオーソドックスなものしか扱っていなかったのですが、だんだん御朱印帳ブームが起きてきて、あるお得意先からの依頼で紙を漉くところから作ることになったんです。

ゼミメンバー:それは向こうから「こういうのを作ってほしい」という指定があって…。

野崎:
はい。色や墨の入り具合など事細かに注文があって「この紙じゃないと駄目だ」と。そこから始まって、当初は年間に1,000冊ほど製造していましたが、ブームと共にだんだん需要が高まってきて、今は24万冊ぐらいになっています。なので、200倍以上ですかね。需要に対して応えていく為に必死でやってきました。卸売業から始まったので、製造体制を見直すといったことも全くできていなくて、これではいかんということで紙を折れってくるところを探したり…。それこそ内職さんに出したこともあるんですが、人間の手で折ったものはふわふわでとても商品にはできません。それで色々探してやっとお願いできるところを見つけてきたり。でも、基本は当社でやっているので、外に出しているのは折るぐらいですかね。当社は比較的難易度の高い御朱印帳のご用命が多いので、必要に駆られて当社も成長してきました。扱いが難しい厄介なものを受けることで、どうやって作るのか、どんな工夫をするのかを必死に考えるため成長ができると前向きに捉えて引き受けています。

ゼミメンバー:デザインも自社でやってるんですか?

野崎:外部に委託する場合もありますが、当社にもデザイナーがいるので自社でもデザインしています。例えば「お社と蛇を入れてほしい」などある程度の要望をもらって、何案か考えた中から一番良かったものを採用します。でも、そういったことができるようになったのもここ数年ですね。それまでデザインできる人なんていなかったので、たまたま学校の先生とつながりがあって「誰かいい人いませんか」と紹介して頂いたり…。当社はそういう採用の仕方がほとんどですね。うちに出入りしていた内職さんが入りたいと言って入社してくれたり。
それと、今期良かったのはこの御朱印のおかげですね。御朱印って普通は寺社さんで書いてもらうじゃないですか。これは切り絵が御朱印になっているんです。インスタ映えもするので、今めちゃくちゃバズっています。

ゼミメンバー:すごく凝ってるし綺麗ですね! これなんか二重になってる。



野崎:これはレーザーカットの機械を持っているところにお願いしています。これに寺社さんで日付を書いたり、朱印だけ押されたりする感じです。季節によって変えられるところもあるし、イベント限定の御朱印を出したり、お社が何社かあったらそれぞれのお社限定であったり、積極的なところはそうやって集客にものすごい工夫をされてますね。

ゼミメンバー:でも御朱印って寺社さんごとに従来の印章と墨書きだったり切り絵だったりする訳ですよね。そうすると、御朱印帳も従来のものとポケットがついているものと2種類持ってないといけないですよね。

野崎:ところがですね、当社の製品はポケットが付いている面の反対側は、従来の墨書きができる用紙になっているのでどちらにも対応できるんです。神社やお寺ってコンビニの数よりも多いんですよ。なので、倍の厚さのものなんかもすごく売れています。


コロナ禍を経て生まれたブランド『ni-wa』

野崎:先ほどコロナ禍で売上が激減したと言いましたが、そこで生まれたブランドがあります。仕事が無くなってしまったので最初は工場の整備とかしていたんですが、それもいつまで続くんだと。それで「とにかく何かしないといけないよね」ということで、それならブランドを立ち上げようと皆で話しました。天皇陛下ご即位記念の御朱印帳の裏側にデザインした紅白2羽の折り鶴がとても評判が良かったので、そのデザインをマークにして『ni-wa』というブランドネームにしました。これには「日本の和」とか「人間の輪」という意味も込められていて、「真心をこめて和心を」そして「和紙製品で人の心にいろどりを」というブランドコンセプトに基づいてものづくりをしています。商品のコンセプトとしては、和の色、和の柄、それから和の技法、素材、どれかを取り入れてつくりながら、ただ昔ながらのものではなく、現代にもマッチしたようなものを作っていこうと決め、オンラインストアを立ち上げました。



実はオンラインでの販売については、従来のお客様の迷惑になりかねないことは止めた方がいいんじゃないかという迷いがありました。当社は基本的にはBtoBなので、BtoCには販売をしないというスタイルで来ていましたから。ところが、社内からは「定価販売をすればお客様の邪魔にはならないんじゃないか」という意見が出てきました。確かに当社がディスカウントすればお客様の迷惑になってしまいますが、あくまでブランドとして商品を差別化するなら問題ないだろうと思い、ECサイトを立ち上げて販売を始めました。勿論ただECサイト立ち上げただけでは、砂漠の真ん中に店をぽつんと立ち上げたのと同じで、何の宣伝もしなければ売れないんですよね。ところが、ブランドを立ち上げたことで新たな販路開拓ができて、逆にBtoBのお仕事がすごく増えるという結果になりました。


ゼミメンバー:ブランドづくりは自社の旗印になりますからね。

野崎:実は今日お配りしている会社案内が入っているクリアファイル。これ、墨で書けるんですよ。

ゼミメンバー:え、乾くんですか?

野崎:ちょっと時間かかりますがちゃんと乾きます。独自のラミネート技術でOPPに極薄和紙を貼っているんですよ。なので、見た目や手触りは和紙で、使い勝手は普通のクリアファイル同様に強くて破れることもありません。墨や絵具は勿論、ペンや色鉛筆などで絵や文字をかけますし、水平給紙式インクジェットプリンタでの印刷もできます。

ゼミメンバー:色んなところで需要ありそうですね。自社で作ってるんですか?

野崎:これは自社製品ではないんですが、特殊な技術を持つ会社さんとご縁があって当社で販売させて頂いています。元々色紙などの商品のパッケージはオーダーでPPの袋を使うことが多くて、それで「和紙貼った袋作れますよ」と営業に来てくれたんです。「これ墨で書けるんじゃない?」と聞いてみたら「ああ、確かに書けますね」となって、とても面白いものだったのでクリアファイルにして販売しようと。今は主に墨汁屋さんに販売しています。墨汁屋さんのお客さんにアニメを描いたりしている若い人たちがいて、描いた人にSNSに投稿してもらうようなキャンペーンをするとそれだけで凄い宣伝効果があります。

ゼミメンバー:全国展開できそうな商品ですよね。それこそお寺さんにも需要ありそう。

ゼミメンバー:会社のノベルティにも良いかも。後日じっくり相談させてください(笑)。

野崎:それはもう是非(笑)。



新たな取り組みも続々!


野崎:お配りした資料の中に『ええ滋賀』という案内があるかと思いますが、これは当社のデザイナーがデザインした滋賀にちなんだモチーフ柄のシリーズで、ブックカバーやしおり、レターセットなどのアイテムがあります。滋賀の魅力を発信する小さな企業の新事業を応援するという滋賀県の補助金を活用させて頂いて、滋賀県のスーパーや道の駅、サービスエリアなどで販売していけたらなというので作りました。実際に道の駅や平和堂さんの何店舗かで置いて頂いています。これを作ろうと思ったきっかけは、東京の日本橋に『ここ滋賀‐COCOSHIGA‐』という滋賀県の物産ばかりを置いている店がありまして、そこで販売応援しませんかと声をかけて頂いたんです。時期もコロナ真っ最中で、「滋賀の物産店にそんなに人が来るのか?」と思いながらマスクと眼鏡して販売応援に行ったんです。そしたら、もう開店前からお客さんが並んでるぐらいで、「こんなに人が来るものですか?」と言ったら「コロナじゃなかったら、もっとすごいですよ」と。人気の中心は赤こんにゃくとか鮒寿司とか食べ物がメインですが、お客さんと話していると昔滋賀に勤めていたとか学生時代滋賀に住んでいたという方も多くて、皆さん懐かしいって喜ばれている。「ああ、そういう人たちにも需要があるんや」と思って作ってみました。



ゼミメンバー:これもオンラインストアで販売されてるんですか?

野崎:
はい。そして、さらにブランドをブラッシュアップさせたのが『ni‐wa PREMIUM』で、これは墨で書いた作品にデザインを加えてアート作品にした「和紙アートパネル」です。額縁と同じような感じで壁を彩るアート作品を販売したいなと思っていて、例えば書家さんに掛けたいイメージを依頼して、そこから上がってきたものに当社のデザインを加えて、和紙で装飾をしてアートパネル作品にするという感じです。BtoCでの販売も勿論ですが、例えば設計事務所や宿泊施設、飲食店なんかで「こういった作品を設計の一部に取り入れませんか」というような提案ができたらなと思い、今少しずつ進めています。

ゼミメンバー:和モダンが流行ってますから、墨と和紙のアートというのは良いですね。

野崎:僕の知人が京都で飲食店を経営しているんですが、お客さんに書家さんがいて、その展覧会に行くことになって作品を購入したんだそうです。それで店に飾ったところ、客層がガラッと変わって客単価も上がったんだそうです。食事などのサービスそのものだけでなく、そういうところでも売上が好転するんだと感じました。まだ初めて間もないのですが、先日初めてオーダーメイドの注文を頂きました。

ゼミメンバー:墨の部分はお客さんが書いたものでもいけるんですか?

野崎:勿論それもできます。当社の既存のお得意先、書の専門店さんなんかには「お客さんの書いたものがこういうアート作品になりますよ」というような案内をしていきたいなと思っています。



その後も質問や販路の提案など様々な意見が飛び交い、見学会は盛会のうちに終了しました。引き続き、これからもゼミKYOTO会社見学会のレポートをお届けしますので、ぜひご期待くださいませ!



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