スモールサンニュース山口恵里の”現場に行く!”

「第59回 水谷養蜂園株式会社/株式会社松治郎の舗」


皆さん、こんにちは!スモールサン事務局の山口恵里です。
「山口恵里の“現場に行く!”」第59回は、三重県松阪市にある水谷養蜂園株式会社の専務取締役、そして株式会社松治郎の舗の代表取締役社長の水谷俊介さんにお話をお聞きしました!

先月号で取り上げた世界で起きる「ミツバチの大量消滅」。その記事でお名前が出てきたのが、今回取材させていただいた水谷さんです。
大正元年創業の水谷養蜂園は、西洋ミツバチの養蜂技術を確立させた養蜂業のパイオニア的存在。そんな老舗養蜂園の技術やこだわりを受け継ぎながら、一方で販売を担う「松治郎の舗(まつじろうのみせ)」はインスタで若者にも評判のお店です。
三重県の養蜂協会会長など「重い」肩書を持つ一方で、ご本人は「はちみつマイスターおしゅん」としてYouTubeチャンネルを持つなど、国産蜂蜜の美味しさを広めると同時に減っていく蜜蜂の警鐘を鳴らすために変革を続けています。

今回はそんな知っているようで知らない蜜蜂のことや、業界のフロンティアとして走り続けるその挑戦の精神についてお聞きしました!

【会社概要】
社名:水谷養蜂園株式会社
住所:三重県松阪市松ヶ島町430-1
代表者:代表取締役社長 水谷友彦、専務取締役 水谷俊介
事業内容:蜂蜜・ローヤルゼリー・プロポリス・花粉等製造販売、食品卸販売、菓子類製造販売
オフィシャルサイト:https://www.mizutani.co.jp/
オンラインストア:https://mizutani.shop/

店名:はちみつ屋 松治郎の舗
会社名:株式会社松治郎の舗
店舗:
松坂本店(〒515-0083三重県松阪市中町1873番地)
伊勢おはらい町店(〒516-0025 伊勢市宇治中之切町7)
取扱商品:はちみつ・はちみつ加工品・健康食品・化粧品
オフィシャルサイト:https://www.matsujiro.shop/

「はちみつマイスターおしゅん」YouTubeチャンネル

意外と知らない蜜蜂のこと
〜完成されているミツバチの社会性〜


山口:蜜蜂って思ったより小さいんですね。一匹で飛んでたら「蜂だ!」って思わないかも・・・。

水谷:そうなんですよ。皆さんが普段見ているのは蜜蜂じゃなくて、恐らくアシナガバチとかスズメバチですね。多分蜜蜂って皆さんの生活では殆ど見たことがないんじゃないかな。それにアシナガバチやスズメバチは肉食ですが、蜜蜂は花の蜜しか食べません。また、基本的に蜜蜂は余程のことがない限り刺さないです。服に止まったりしても、ぱっと払うようなことはせずにじっとしていれば大丈夫です。同じ「蜂」ではあるけど、日本人は蜂の種類を理解していない人が意外と多いんです。

山口:この巣箱にはどの位の蜜蜂がいるんですか?

水谷:巣箱の中に蜜蜂たちが実際に巣を作る「巣枠」というものが複数枚入っていて、この巣枠1枚に大体1,000匹程の蜜蜂が住んでいます。今この箱は巣枠が4枚なので、この巣箱一つで4,000匹ぐらいいることになりますね。うちの「従業員」はトヨタよりもはるかに多いです(笑)。

山口:本当ですね(笑)。

水谷:これから春に向けてどんどん群数が増えていくので、今は一番少ない時期です。女王蜂って毎日1,000匹ずつ卵を産むんですよ。だから毎日1,000匹ずつ増えて、だんだん家族が大きくなって、この巣箱がいっぱいになっていきます。蜜蜂の寿命は春から夏の活動期だと約1カ月しかないので、それくらい卵を産まないといけないんですね。

山口:女王蜂はどうやって増えるんですか?

水谷:女王蜂は一つの巣箱に1匹いて、働き蜂と違い4年程生きることができます。それで、一年に一度新しい女王蜂をつくろうという機運が群れの中にできてくると、蜂たちがローヤルゼリーという特別に栄養価の高い餌を特定の幼虫に食べさせるんです。すると、そのローヤルゼリーを食べた蜂だけが女王蜂に成長します。他の働き蜂との違いはローヤルゼリーを食べたかどうかだけなんですよ。

山口:だからローヤルゼリーが健康食品として注目されたんですね。それで新しい女王蜂が出ていって新しい巣を作るんですか?

水谷:いえ、それが逆なんです。新しい女王蜂が生まれると、基本的にそれまでいた古い女王蜂が兵隊を連れて外へ出ていきます。まさに「承継」ですよね。蜜蜂の社会というのは、群れを存続させていくことを最優先に、非常に合理的なシステムが完成されていて、常に若い者を守ったり残していこうとする。例えば「日齢分業」といって、寿命の1ヶ月の間で年齢ごとに仕事の役割が決まっています。巣の中で作業しているのは若い蜂で、外に出て餌を取ってきたりするのは残りの寿命が1週間ぐらいの蜂たちなんです。外に出るのは危険なことなので、万が一若い蜂がたくさん死んでしまったらその群れは途絶えちゃうでしょう。だから日齢ごとに完全な分業制になっているんです。

山口:凄い。群れとしての取捨選択が完璧にできているんですね。

水谷:そうなんです。蜂の社会システムというのは、人間の社会やそれこそ中小企業にとっても見習うべきところがたくさんあると思っています。



実は多い?若者の養蜂家志望


山口:こういう風に巣箱を置いている場所がたくさんあるんですか?

水谷:そうですね。松阪市内で50程の場所を借りて蜂を置かせてもらっています。日々巣箱を見回って、蜂たちが病気になっていないかチェックしたり対策したりといったことやるのが養蜂業の仕事です。でも、ほとんど蜂がやってくれているのでね。あとはトラックに積み込んで、夜の間に次の場所に移動させたり。

山口:大変ですが、やりがいありそうですね。

水谷:産業としては本当に楽しいというか、やりがいのある仕事です。今養蜂業に興味のある学生さんも増えてきているんですよ。蜜蜂をビルの屋上で飼うテレビ番組なんかもあって、そういうものの影響もあるようですが、うちに弟子入りしている若い子たちもいます。

山口:水谷養蜂園さんでは従業員の方もたくさんいらっしゃいますよね。

水谷:そうですね。養蜂業は農家などと同じで家族や一族でやっているところも多いですが、当社は規模も大きくやっているので、従業員を雇って養蜂の部という形で働いてもらっています。それとは別に、いずれ独立するために養蜂の技術を学ばせてほしいという事で僕の弟子みたいな形で学んでいる人もいるんです。

山口:養蜂家って個人でもなれちゃうんですね。

水谷:もちろん修行をすればできます。養蜂業って規模を大きくしなければ自分と家族を食べさせていく程度には稼げるんですよ。それに養蜂するのに土地を買う必要性はなくて、例えば今日のこの場所も材木組合の空いている土地に置かせてもらっています。大きな設備投資も要らないですし、ちゃんとやる気があって蜂を育てる技術さえ身に付ければ、個人レベルでもそこそこできるんです。

山口:蜜蜂のニーズは蜂蜜だけでなく、農家での受粉など絶対に必要な存在ですもんね。

水谷:農家の人たちも高齢化してきているので、今後もっと受粉など昆虫を頼ってくるようになるので、どうしても需要に対して蜂の方が少ないという状態ですね。

減っていくミツバチ
〜正しく知ってもらうことが何よりも大切〜

山口:蜜蜂というのは身近なものだと思ってましたが、こうして伺ってみると知らない事の方が多くてとても興味深いです。

水谷:意外と知られていないんですが、蜜蜂って本当に凄いんですよ。例えば蜂箱は冬でも夏でも常に35度程度に保たれています。夏になると、働き蜂は川やため池などから水を運んで巣を濡らし、自分たちの羽を扇風機のようにして上がり過ぎた巣の温度を下げるんです。一方冬場になると、今度は密集して熱を起こし、逆の羽操作で室外機のように温風を出して巣を温めるんですよ。

山口:すごい!ちゃんと快適な温度を理解して、それを維持するための仕組みができてるんですね。

水谷:長い歴史の中で気温の変化に対応するための機能を備えてきたわけです。蜜蜂の生態をみると本当に完成されていると感じます。そんな蜜蜂が今いなくなっているというのは、温暖化などそういった機能では対応できないような環境の変化を人間が起こしてしまっているからという可能性がありますよね。

山口:先月の別刊ニュースで蜜蜂が大量に消滅してしまう「蜂群崩壊症候群(CCD [Colony Collapse Disorder])」はダニが原因とありましたが、それもそういったダニがわきやすい環境を人間が作ってしまっているからかもしれないですよね。

水谷:養蜂家として、そういったことに対する警鐘を鳴らすことも大切だと思っています。皆さんに美味しい蜂蜜を食べてもらうという部分の裏では、こういうことも起きているんだよと。最近はそういった問題も色々な方が紹介してくれるようになってきたので、以前より少しずつ認知されてきつつあります。それこそ世界的に見ると、国連で「World Bee DAY(世界蜂の日)」が制定されたり、発信力のある海外セレブが自ら養蜂を始めたりもしています。それは商業目的かもしれませんが、そういう人たちが発信する事で、蜜蜂や養蜂というもの自体を知ってもらうことができます。

山口:水谷養蜂園では専門の販売店として「はちみつ屋 松治郎の舗」を展開されていますが、そのPR動画を見て驚きました。そういうのって一般的には「こんな商品があって、こういうこだわりがあって・・・」という内容になると思うのですが、松治郎の舗の動画は今蜜蜂がどういう環境に置かれていて、どんな危機に直面しているのか、というところに主軸が置かれていて流石だなと思いました。



水谷:僕らは蜜蜂にご飯を食べさせてもらっていますからね。もちろん商業として蜂蜜を売ることも目的だし大切ですが、それをやってきた結果として蜜蜂の変化や環境の問題があり、ここで守っていかなかったら未来はないよねということを、僕らの世代が伝えていかないといけない時期に来ていると思っています。そうして知ってもらうことで、例えば今まで家のベランダに蜜蜂が飛んできたら怖くて殺虫剤をかけてしまっていたのが、「このまま放っておけばどこか飛んでいくから大丈夫」と思ってもらえるかもしれない。そういう小さな活動が、最終的には凄く大きなものへと繋がるんだと思います。それこそ「庭に少しお花を植えようか」とか「ベランダにプランターを一つ置いてみよう」といったことをたくさんの人がしてくれたら、蜜蜂にとっては大きな花畑くらいの蜜源になりますから。

山口:地道に知ってもらうことがそのまま未来に直結していくんですね。こうしてお話を聞いていると、老舗や伝統というだけでなく、常に第一線で蜜蜂の未来を見ていらっしゃるのを感じます。

水谷:ありがとうございます。アメリカやニュージーランド、ヨーロッパは1人当たりの蜂蜜の消費量が1キロを超えています。でも日本の蜂蜜の消費量は300グラム程度なんです。それでも長年かけて産業として成り立つくらいに増えてきました。すると今度は蜜蜂自体をどうしていくかという問題が出てきた。この二つの問題が、大きな軸としてあると思っています。


時代と共に変化していく“課題”
〜淘汰を乗り越えて磨いた技術と高付加価値化〜


山口:消費量の話が出ましたが、蜂蜜って安い輸入品がとても多いですよね。それ自体は脅威ではないんですか?

水谷:今現在ではあまり脅威とは感じていないですね。というのも、蜂蜜の輸入が解禁された昭和40年代ぐらいに、日本の養蜂は一度崩壊しているんですよ。

山口:そうなんですか!?

水谷:安い輸入蜂蜜が大量に入ってきて、先代の頃は非常に苦しかったと思います。でもそこで「もっと美味しい蜂蜜を採るにはどうしたらいいか」とか「どうやったら蜜蜂がもっと大きくなるか」と、その時まだ残っていた養蜂家たちが血の滲むような努力をしました。その結果、国産蜂蜜と外国産蜂蜜の歴然とした味の違いを生み出すことができたんです。そうすると「値段は高いけど国産の蜂蜜は美味しい」というのが浸透して、高くても良い蜂蜜を食べたい層と、蜂蜜だったら何でもいいという層とで完全な二極化が進んだんです。国産蜂蜜は前者のお客様をターゲットにしていて、外国産はスーパーやドラッグストアで後者に向けて安価で販売している。

山口:現在は同じ蜂蜜でも国産と外国産でマーケット自体が完全に分かれているんですね。

水谷:そうです。40年程かけて、それこそ多くの養蜂家が泥水を啜りながら耐え抜いたことによって、僕らは国産蜂蜜が普通に売れる時代を生かさせてもらっています。当社でもやっぱり先代たちが苦労して、養蜂だけは食べていけないということで、蜂蜜の販売にもシフトしたんです。その頃に先代が始めたのが、瓶詰で花の種類ごとに販売する方法で、今では当たり前になっていますが当時非常に画期的なものでした。

山口:え!そうなんですか?!

水谷:あの時代には「蜂蜜」という括りでしか販売されなかったんです。でも、養蜂家の間では花の種類によって味が違うのは当たり前で、売買の段階でこれは○○の蜜だから高いとか安いといった感じで取引はされていたんです。そういう値付けのためだけの情報だったものを、当社の先代が「味が違うんだから、商品を分けてちゃんと説明をしよう」とやったんです。今でいう高付加価値化ですよね。

山口:専門家の間で当たり前だったものに着目して、商品の付加価値として説明する。後から真似するのは簡単ですが、最初にそれをやるのって凄い事ですね。

水谷:やっぱり歴史で学ぶことって多くて、どこにも大変な時期は絶対にあって、それをどう生き残ってきたのかが今の自分たちが生き残っていく力になりますよね。おかげで僕らは先代のような苦労はしなくて済んでいますが、逆に環境変化や蜜蜂自体が減っていくという新しい問題に直面しています。今度は僕らがそれを乗り越えていかなくてはいけません。

「製造」と「販売」を分けることで先鋭化する
〜老舗養蜂園のはちみつ専門店「松治郎の舗」〜



山口:「松治郎の舗」は、水谷養蜂園直営のはちみつ専門店として別会社でやられているんですよね。

水谷:はい。製造部門に関しては水谷養蜂園で行い、「松治郎の舗」は国産蜂蜜をしっかりブランド展開して売っていくための会社です。

山口:なぜ販売と製造を分けようと思ったんですか?

水谷:実際効率が悪い部分はあるんですが、製造部門はモノづくりとして品質や生産効率などこだわって徹底的に極めていくというのがアイデンティティーですよね。一方で販売部門は、いかにお客さんとの距離を近くして、どうやって面白く、楽しんでもらえるような小売ができるかというのがアイデンティティーです。全く異なるアイデンティティーが一緒になってしまうと従業員が迷っちゃうんですよね。それでちょっとイレギュラーなんですが、このように会社を分けることにしました。

山口:今店舗はいくつあるんですか?

水谷:松阪市中町の松坂本店と伊勢おはらい町店の2店舗です。この2店舗が「蜂蜜にはこんな可能性があるよ」とか「こういうお客さんがいるよ」といった事をダイレクトに感じとるための場にもなっています。そうした体験を商品開発に活かしていかないと、やっぱり時代とズレてきちゃうんですよね。その中でできたのが、伊勢おはらい町店限定商品の「ハニポテ®」です。大学芋を蜂蜜でコーティングしてあって、表面はかりっと、中はしっとりふわっとしている人気商品です。

山口:これ凄く美味しいですね!普通の大学芋って結構すぐに飽きちゃうんですけど、これは表面の蜂蜜が自然な甘味と食感で、無くなるまでずっと食べ続けちゃいます。


水谷:もう10年になる人気商品なんですが、当初は「蜂蜜大学芋」という名前で出していて、まぁそこそこは売れているという感じでした。ところが商品名が言い難いってことで、現場スタッフの間で「ハニポテ」が社内用語になってたんです。それならもう「ハニポテ」にしようとパッケージなども一新したところ、インスタグラムで一気に人気が出て、現在は多い時で1日1,000個売れる人気商品になりました。

山口:同じ商品でも売り方や見せ方でそこまで変わるんですね!

水谷:国産蜂蜜の消費者って40代以上の方が多いので、やっぱり若い人たちにどうやって国産蜂蜜を身近に感じてもらうかというのが大きなテーマとしてあります。伊勢おはらい町店では他に蜂蜜をたっぷり使ったハニーレモネードの「ハニレモ®」だったり、ハニポテにソフトクリームを乗せた「神宮パフェ」も人気です。このパフェは店頭で蜂の巣をカットしてそのまま上に乗せるんですよ。

山口:蜂の巣ってそのまま食べられるんですか!?


水谷:所謂「巣蜜」というもので、蜂蜜を絞る前のものですね。巣の部分は「蜜蝋」といって、体に無害なので口紅などに使われたりもするんですよ。ちょっとシャリシャリして美味しいでしょう。これも社員が「絶対面白いですよ!」とか言いながら動画を撮ったりしていて、昨年末からインスタで大人気になっています。松阪本店では「はちみつ最中アイス」が人気で、こうした商品を本当の蜂蜜に行き着く一歩手前の段階として展開するようにしています。
(話題のインスタグラムはこちら

山口:大学芋もレモネードも食べ慣れた物ですよね。それを「蜂蜜だとこういう風に違うんだ!」という体験をすることで、「蜂蜜そのものも食べてみたいな」と自発的にステップを登ってみたくなりますね。

水谷:小さなステップなんですけど、それがある事がとても大事です。いきなり3000円の国産蜂蜜を使ってくださいと言うのはハードルが高すぎる。でも、ハニポテやハニレモで「あ、蜂蜜って美味しいんだ」と感じてもらったら、次までのハードルがグッと低くなります。ここを繋げていく作業が凄く大事なので、商品開発も「蜂蜜を使うことで今までよりも美味しくなる」というのが基本テーマですね。こういった取組みを続けてきたことで、今は航空会社や百貨店、成城石井さんなどから松治郎ブランドの商品を扱いたいというお話を頂くようになってきました。

山口:BtoBだけでは苦しくなってBtoCへ展開した結果、ブランディングが進むことでBtoBもまた広がるようになったんですね。

水谷:あくまでも個人のお客さんとどう向き合っていくかを考えてきた結果ですが、それを見た企業の方たちが興味持ってくれたというのはとても嬉しいですね。

老舗企業が受け継いでいるのはベンチャー魂!
〜「まずはやってみる」ことの大切さ〜

山口:インスタグラムの話が出ましたが、水谷さんYou Tubeやってらっしゃいますよね。「はちみつマイスターおしゅん」という名前で、何とチャンネル登録者数1.2万人という。

水谷:それだけ蜂蜜が身近になってくれているということで、やって良かったなと思っています。今年からは大学と「松治郎の舗」で協力して、実際に大学の中で蜜蜂を飼って、「養蜂と社会」と言ったテーマで学生さんに蜜蜂に触れてもらう活動なども始めています。やっぱり養蜂の地位を上げていかないと結局は広がっていかないので、そういった発信をすることも心がけています。

山口:多方面への取り組みがすごいですね。「はちみつマイスターおしゅん」という名前は自分で付けられたんですか?

水谷:はい。老舗養蜂園とか養蜂協会とかってちょっと重たいので、動画をやるときには「蜂蜜に詳しい知らないおっさん」という感じでいきたかったんです。それで「はちみつマイスターおしゅん」としたところ、「おっさんが何か喋ってる」というのがとっつきやすいのか、結構ハードルが下がってたくさん見ていただけてますね。これって社内とかでもそうで、若い子からすると僕らはやっぱり話し難いんですよ。でもそれってやっぱり良い事じゃなくて、僕らにとっても若い子から教えてもらうことって多いじゃないですか。例えばそれこそSNSだったり、自分で使えればコストもかからず便利なものを、「よく分からないから」で知らないまま終わっちゃうのは勿体ないですよね。でも、僕と同年代の50代の経営者なんかは、「これ凄いよ、やってみたら?」と説明しても、「いいなぁ、凄いなぁ」とは言っても実際やる人はまあいない。

山口:上の世代になる程、自分で新しいものに触れようとする経営者さんは少ないですよね。

水谷:でも僕はある程度のところまでは、まず自分でやってみるようにしています。これやったらどういう反応が来るんだろうとか、分からないままだとスタッフの子と会話にならないですから。だから上手いとか下手とかそういうことじゃなくて、「まずやってみる」ってすごく大切だと思います。

山口:自分でやってみることで、共通言語にもなりますもんね。こうしてお話を聞いていると、大正時代から続く老舗の養蜂園なのに、いい意味でその重さや古さを感じさせなくて本当に凄いなと感じます。何というか、変わっていくことに対する忌避感のようなものを全く感じないというか・・・。

水谷:ああ、それは自分たちが老舗としてやっている感覚は全くないからですね。よく言われます(笑)。先ほどお話しした花の種類ごとに付加価値をつけて売るというのも当時とても画期的なものでしたが、実は日本で初めて「はちみつ飴」を販売したのも水谷養蜂園なんですよ。


山口:え!そうなんですか!

水谷:昔は蜂蜜屋さんが水飴使うってNGだったんです。「混ぜ物をしてる」と見られてしまうんですよ。でも先代がたまたま海外で蜂蜜のキャンディーを食べて、「美味しいからうちでも作りたい!」とみんなの大反対を押し切って作り始めたんです。売り出した時には同業者から相当色々言われたようですが、実際にお客さんが食べてみるとやっぱり美味しいのでどんどん売れるわけです。今では「はちみつのど飴」とか定番の商品ですよね。今年で112年になるので老舗と言われればそうですし、確かに受け継がれてきた養蜂技術に対しては誇りとこだわりがありますが、それ以外の部分はベンチャーと変わらないと思っています。

山口:確かに、いかに知ってもらうかという考え方であったり、そのために抵抗なく変化していく姿勢には、老舗というよりむしろベンチャー精神を感じます。伝統や歴史よりも、その変革の精神こそが受け継がれているんですね!今日はとても良いお話を聞くことができました。ありがとうございました!


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