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山口恵里の“現場に行く!”2023年12月号
「第58回 たつみ工業株式会社(ゼミYOKOHAMA)」
皆さん、こんにちは!スモールサン事務局の山口恵里です。
「山口恵里の“現場に行く!”」第58回は、スモールサン・ゼミYOKOHAMA第12期第1回に参加させていただきました!
この日は、ゼミ長であるたつみ工業株式会社の代表取締役、岩根弘幸氏のフルアテンドにより今年7月にオープンしたばかりの「木更津プラント」の工場見学!というスピンオフ企画です。
たつみ工業は神奈川県川崎市で業務用プレハブ冷蔵庫、誰もが目にする“コンビニの冷蔵庫”を製造する会社で、断熱パネルの専業メーカーとして創業62年目の老舗。事業拡張のための木更津プラントは、千葉県木更津市のかずさアカデミアパーク内に今年竣工されました。日本では初となる連続ライン生産方式を導入、また外観デザイン「和モダン」にもこだわり、かずさアカデミアパーク内のシンボル的な工場にもなっています。
岩根氏はゼミYOKOHAMAの立ち上げから常に謙虚に学び続け、問い続けています。その集大成ともいえる木更津プラントで、「チャレンジングな中小企業から学ぶ『小オペ・省エネ・最新設備』でワクワクする未来を語る」をテーマにその力の本質に迫りました!今回はその様子をレポートいたします!
<スモールサン・ゼミYOKOHAMA開催予定>
【会社情報】
社名:たつみ工業株式会社
所在地:〒212-0054 神奈川県川崎市幸区小倉4-1-13
資本金:7,000万円
創立:1962年4月
代表者:代表取締役 岩根弘幸氏
営業品目:
業務用プレハブ冷蔵庫の設計、製造、組立・施工、プレハブ冷凍冷蔵庫、業務用冷蔵庫、クリーンルーム、シールドルーム、冷暖房工事一式
木更津プラント
所在地:〒292-0818 千葉県木更津市かずさ鎌足2-8-1
竣工:2023年6月
営業品目:不燃断熱パネル
木更津プラントに集合!
〜外観やオフィスデザインのこだわり〜
この日はゼミYOKOHAMAメンバーがたつみ工業の木更津プラントに集合し、岩根氏のプレゼンテーション後に工場内部を見学というスケジュール。
全員の到着が待つ間、そのこだわりの外観デザインやまるでカフェのようにゆったりとしたオフィススペースを見学。早くもそのデザインや設計について質問が飛び交っていました。
なぜ町工場が世界初処方の断熱パネル生産工場を竣工できたのか
全員が揃ったところで岩根氏のプレゼンテーションのスタート!
岩根:私たちたつみ工業の会社概要としては、本社が神奈川県川崎市にある、本当に小さい町工場です。主にコンビニ向けの、基本的にはウォークイン冷蔵庫といわれるペットポトルなど飲料が入っている冷蔵庫をつくっております。
オーダーメイドタイプの冷蔵庫で、東京、神奈川、千葉で100%、他にも群馬や茨城、長野、新潟、静岡など関東甲信越のセブンイレブンはほぼやらせていただいています。また、ローソンやファミリーマート、ミニストップ、それから駅にあるニューデイズもやらせていただいておりますし、かつてはam/pmやサークルKサンクスもやっていました。断熱パネル専業メーカーとして小さいもの専門でずっとやり続けて、今年で62年目になります。
そして62年で初めて拠点を一つ増やしまして、それがこの木更津プラントです。ここに来る途中で「海ほたる」に寄っていただいたと思いますが、そこのセブンイレブンと隣のスターバックスにもうちの冷蔵庫を入れています。そんな感じであまり目立たない部分ですけど、裏方では頑張っています。
新たな挑戦“木更津プラント”
〜少子高齢化時代の省人・省エネのものづくり〜
岩根:この木更津プラントですが、その基本コンセプトが二つあります。まず一つが「少子高齢化時代の省人・省エネのものづくり」ということ、もう一つは「地球環境に配慮した製品とものづくり」を目指す工場という二本柱を基本コンセプトにしています。
まず「少子高齢化時代の省人・省エネのものづくり」ということで、日本の人口ピラミッドのシミュレーションを見ていただければ分かると思うのですが、日本の人口増加率はずっと減少していて2010年以降はついにマイナスになりました。これからどんどん減っていくばかりで、2060年のシミュレーションになると日本の総人口は1億人を割っちゃうんです。これはもう日本が先進国ではいられない人口ですよね。2100年には7,500万を切ると言われています。
これからより一層採用ができなくなっていく状況というのは、火を見るよりも明らかです。我々はそれに対応したものづくりをしなきゃいけないというところで、この木更津プラントは経験スキルがなくても高品質な製品がしっかり製造できる工場として、「職人さん」ではなく「オペレーター」という形で採用をしています。
また、離職率の対策や新規募集の確保も含めて、建物のデザインやオフィス等の居心地の良さ、ここで働いてみたいと思ってもらえるような「選んでもらえる工場」を目指しました。
デザインのコンセプトは「和モダン」です。工場のラインがドイツ製なので、世界中から見込みのお客さんがそのラインを見たいと来るんですよ。中東やアメリカ、アジアなど海外から見に来られた時にも、ダサい工場じゃなく「日本の工場って格好いい」と思わせるようなデザインにしたい。それで例えば入口は、京都の町屋のように「一段上がることで世界が変わる」というイメージで小上がりのデザインになっています。日本の方はみんな靴脱いで入っちゃったりするので、「脱がないでそのまま入ってください」というシールを貼っておきました(笑)。外観も周りの自然に融け込むようなデザインにしていて、建築中にも「あそこ何できるの?」と噂になったりもしました。おかげで採用の方も、この時代に関わらず、スムーズに来てくれたので非常によかったかなと思います。
“選んでもらえる”企業づくり
〜地球環境に配慮した製品とものづくり〜
岩根:もう一つは「地球環境に配慮した製品とものづくり」ということで、私達たつみ工業がつくっている「ウレタン断熱パネル」というのは、そもそもエコな製品なんです。断熱してエネルギーロスを防ぎましょうというコンセプトの製品なので。そこで、そもそもエコな製品を、さらにそれをつくる段階から環境に優しいことをしましょうということで、「ものづくり三本柱」として①自然エネルギーの活用、②工場生産設備の排熱活用、③世界初となるウレタン反応熱(放熱)の再活用を掲げています。
自然エネルギーの活用で、太陽光発電というのは皆さんやっていると思うんですが、当社では井戸水を利用した熱交換システムで温度調節をしましょうと。地下水って大体18度から19度ぐらいですごく冷たいんです。そのお水自身を使うのではなく、汲み上げた水の冷たさの「熱」を使って、水はそのまま返して循環させる。熱だけを使用するので地下水量にも影響はありませんし、こうすることで電気代が非常に安くなるんですね。このフリークーリングシステムいうものを導入しています。それから工場の中の排熱を活用したり、まだこれはチャレンジなんですけど、化学反応を起こすことで高熱が発生するウレタン反応熱を暖房など色んなところで再利用できないかと考えています。
地球の温度って1980年代ぐらいまではプラマイゼロで、そこから加速度的に上昇しているんですよ。我々みたいな小さい会社でもちゃんと環境に配慮したものづくりをしないと、これから選んでもらえない世界になってくるんだろうなというところで考えてつくりました。それこそスモールサンニュースで熱エンジニアリングの専門家である株式会社MDIの岩澤さんを知って、「これだ」と思って電話したんです。それでシミュレーションしてもらったところ、フリークーリングシステムで熱リサイクルすることで、汎用エアコンを使うのに比べて電気代を62%削減、CО2も76%削減できるというデータが出てきたので導入を決めました。
こういったことでSDGsの認定なども取得できますし、また圧倒的に電気代を使わないということは製品価格にもちろん反映してきますので、我々の製品自体にも優位性が出てくるというところもあります。これは木更津の市長さんにも「ぜひやってください」と非常に賛同していただきました。
ここでしか生産できない製品づくり
〜日本初導入の連続生産ライン、世界初のウレタンのレシピ〜
岩根:これから見ていただく木更津プラントのラインは「連続生産ライン」といいまして、コの字型で長さ130メーターほど、奥行が30メーターほどのラインになります。私たちがこの木更津プラントで製造する断熱パネルは「金属サンドイッチウレタンパネル」というもので、断熱材であるウレタンの両サイドを鉄板が挟んでいるものです。建材の壁のような形で、大きな冷凍冷蔵倉庫、物流センターだったり食品工場やクリーンルームなど、大型の建物にこれから納品していく製品になります。
この連続ライン式というのが、当社が日本で初めての導入になります。先ほど設備はドイツ製と言いましたが、実はグローバルに4カ国からパーツを調達しています。メインはドイツとイタリアの機械で、ベルトコンベアなど何か物を動かす部分は中国、原料を入れるタンクなどは日本のパーツ。それをバラバラの状態で運んで、ここでガッチャンコするみたいな感じなので、1年半ぐらいかけてやりました。
さらにサンドイッチするウレタンについても世界初の処方をしています。料理でいうレシピですね。BASFという世界でも屈指の総合化学メーカーの大企業が全面協力してくださって、かなり環境に良いものを使って世界初となる調合レシピを作ってもらいました。
断熱パネルは厚さや長さで表現されるのですが、厚さは50ミリから250ミリまで製品の幅があり、250ミリのものは日本で我々しか製造できません。長さも2メーターから国内最大といわれる12メーターまで製造できます。なので、大きな物流センターや大型の冷凍冷蔵倉庫に、1枚でボンと貼り付けて壁を作ることができるわけです。今まではどうやっていたかというと、3メーターから4メーターの壁を数枚立ててくっつけていたんです。そうすると継ぎ目に補強を入れなきゃいけなかったりするので、施工するときに目地が出たりと色々大変でした。それが我々なら一発で12メーターまでできる。しかも世界初の処方なので、世界で唯一の製品になるんですよ。
新しいもの尽くしで産みの苦しみもかなり味わっているのですが、先ほども言った空冷却システムの代わりに自然エネルギーを活用したフリークーリングシステムを使っていることなど、これは私たちの大きな武器になると思っています。これからは「環境に優しいつくり方をしています」ということが、人に選ばれていくために必要な要素になっていきますので。他にも、大きなパネル製品を運ぶときに使用する木のパレットを廃止してEPSといわれる発泡スチロールの硬いものを代用したり、出荷時のラッピングを工夫したりすることで産業廃棄の処理量を減らして環境に少しでも負荷をかけない方法を採用しています。
ここで質疑応答に
ここでゼミは一旦質疑応答に。真剣に耳を傾けていたゼミメンバーからたくさんの質問が飛び交いました。質疑の一部を紹介します。
ゼミメンバー:フリークーリングシステムというのは、暖房のときはどうなんですか?
岩根:もともとウレタンをつくるときって反応熱でめちゃくちゃ熱くなるので、冬場は何もしなくても暖房の効果があります。なので、フリークーリングシステムは夏の暑いときにはすごく稼働するんですけど、秋とか冬はほとんど動かないですね。
ゼミメンバー:それは建屋の空調に使っているわけではないんですか?
岩根:今はまだ使っていないです。フェーズ1が、工場のラインを動かすための温調なので。
ゼミメンバー:なるほど、ウレタン原料の…。
岩根:おっしゃる通りです。これから来年の夏に向けて、工場内の空調などをやろうとしています。
ゼミメンバー:リクルートが上手くいったとおっしゃったんですけど、どういった人材を募集して、どんな感じに採用されたのかお聞きしたいです。
岩根:大きく分けて二つあって、まず一つは、プロフェッショナルな人材は募集しても来ないのでヘッドハンティングしました。うちの工場長は大手タイヤメーカーの工場長をされていた方で、定年して会社に残るか、給料半減するので転職するかを考えていたところを我々がスカウトしました。他にも営業専門で元々大手商社にいた方など、そういうスカウトをした人たちが5人ぐらいいます。工場長、営業、ウレタンの専門家…。
ゼミメンバー:それは川崎本社ではなく?
岩根:こっちです。やっぱり通える人じゃないといけないので、スカウトの基準もそうしました。それと、デザイナー。プロモーションですね。これからどんどん自ら発信をしていかなきゃいけないので、Webページのデザインやプロモーションができる女性をスカウトしたのですが、彼女は基本リモートです。あとはもう1人、機械のメンテナンスができる方をスカウトしました。そうやって必要な人材、優秀な人はスカウトして、あとはオペレーターとして木更津のハローワークだったり、民間の求人会社にお願いして採用しました。
ゼミメンバー:そもそもそんなに人数必要ないんですよね。
岩根:そうなんです。今間接部門も含めて10人ぐらいしかいないですね。先ほど少し話しましたが、この外観で近くを通るときに気になっていてぜひ働きたいと応募してくれたりして結構スムーズに採用できましたね。
ゼミメンバー:こちらを建てて、本社の川崎の方への波及効果というか、相乗効果というのはありますか?特に人材の面で。
岩根:川崎と木更津で基本的には同じ製品なんですけど、扱っているスケールが違うので、あまり交流がないんですよね。将来的に川崎の若手メンバーに木更津の工場長になってもらおうと、今2名こっちに通ってもらっています。川﨑本社は職人さん、木更津プラントは生産工場みたいな感じで分けてやっています。
ゼミメンバー:技術を育てるのは本社の方ですもんね。同じ製品だけど対象が違って、川崎はカスタマイズ中心、こっちはどちらかというと汎用マーケットという感じですか。
岩根:はい。ただ、その汎用マーケットでも、例えばドアはどうするのかという時に、連続ラインではつくれないので川崎でドアだけをつくるといった感じで、お互いに使い分けられればいいかなと思っています。
ゼミメンバー:例えばコンビニの冷蔵庫を入れるという時は、直接御社が入られるんですか?
岩根:コンビニやスーパーのアイスのショーケースやお弁当のショーケースといった冷蔵設備をやっているケースメーカーがあって、そのケースメーカーから我々に注文が来る形なのでダイレクトではないです。なので、施主がいて、ゼネコンがいて、設計会社がいて、施工会社がいてという感じで、どこに入るかによって全然違ってきちゃうんですね。
ゼミメンバー:そうするとここで生産する製品というのは、ある程度物件が決まっていて、その物件に紐づいたものを生産していくという感じですか。
岩根:おっしゃる通りです。だから大きい物流センターなんかは、来月つくるよという話ではないので、半年とか1年前から動いていないと受注に食い込めないんですよね。今竣工しましたといっても納品できるのは半年後なので、どんどん仕込んでいかないと売り上げが上がらない。
ゼミメンバー:汎用的に規格サイズをつくってというわけではない?
岩根:ではないんですよ。例えば10メーターのパネルを1,000枚とか、8メーターのパネルを500枚といった感じで全部オーダーになります。今は、施工会社やエンジニアリング会社と呼ばれているところから、「こういう物件があるんだけどできる?」という感じでお話をいただいています。今後は設計事務所に入り込めると一番いい感じですね。川の上流で設計の段階から入って「これはたつみのパネルにしましょう」という話になればいいんですけど、下流に行けば行くほど価格競争になってしまうので。だからこそ、日本初や世界初といった「我々にしかつくれない」という設備があるのは絶対的な強みになると思っています。
岩根氏が持つこれからのビジョン
岩根:これから自分たちが何をしたいのかということなんですが、食糧安全保障問題など国の安全保障の問題に我々が資することをやりたいと思っています。2022年2月24日、この日ロシアのウクライナ侵攻が始まりました。もうこれで世界が変わっちゃいましたよね。ロシアとウクライナってともに穀物大国で、小麦粉やとうもろこし、鶏や豚など家畜の飼料もこの二つの国が上位に入っている。それが戦争で限られた量しか手に入らなくなり、すると当然価格が高騰します。それで次に何が起きるかというと、自国民のために保護政策をやって、輸出をストップしちゃうんです。インドとかブラジルとか、鶏肉や穀物を出しませんといったことになると、さらに限られた量しか出回らなくなってまた同じようにさらに値段が高騰します。さらに日本は今、中国や新興国に価格で買い負けてしまっている。
日本の食糧自給率は今38%で、先進国では最低レベル。G7ももちろん一番下です。逆に言うと62%輸入ですよね。なかなか身近な問題として考えられないんですが、今世界がこういう状況で、これから必ず来るであろう食糧危機の時代に我々はどうするのか。それには石油を備蓄するのと同じように、食料を安全に長期保存や備蓄することが民間ではなくて国で必要になってくるのかと思っています。
さらに、エネルギー自給率は12%ともっと低いです。これからはいろいろな工夫をしないと、値段も上がっちゃっているし、エネルギー自体も替えられなくなっちゃう時代に世界ももう入っているような状況じゃないですか。その中で「断熱」というのは重要な役割を担うだろうと思うんです。こうやって断熱してエネルギーロスを防がないと、エネルギーは枯渇してしまうし、日本人がひもじい思いをしてしまう時代がもうすぐそこまで来ているんじゃないかと思います。じゃあ、我々に何ができるのか。自分に問う力じゃないですけど、常に考えていきたいと思っています。
実際に木更津プラントを工場見学!
岩根氏のプレゼンテーションの後には、休憩を挟み、実際に木更津プラント内を見学させていただきました!
この日ゼミYOKOHAMAは初の一泊企画のため、見学後は時間を気にせず懇親会、さらには二次会へ!
岩根社長、ありがとうございました!