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山口恵里の“現場に行く!”2023年6月号
「第56回 森川商事株式会社(昭和湯)」
皆さん、こんにちは!スモールサン事務局の山口恵里です。
「山口恵里の“現場に行く!”」第56回は、大阪府東淀川区淡路にある老舗の銭湯、昭和湯を経営する森川商事株式会社の取締役、森川晃夫氏にお話をお聞きしました!
2015年8月号の「櫻井浩昭の企業探訪」でSSニュースに登場した森川さん。
家庭での内風呂普及やスーパー銭湯の台頭によって地域の銭湯が激減していく中、昭和湯では楽しいアイディアやイベントを通して、多くのお客さんに愛され続けてきました。
前回の取材から8年の時が経ち、現在はどのような取り組みをされているのでしょうか?
厳しい経営環境の中でも新しいことに挑戦をし続け、業界全体を盛り上げるその取り組みと銭湯への熱い想いを詳しくお聞きしました!
【会社概要】
社名:森川商事株式会社
代表者名:森川 正
事業内容:一般公衆浴場 不動産管理
創業:昭和3年
設立:昭和31年5月10日
本店所在地:〒533-0032 大阪府大阪市東淀川区淡路4-33-12
昭和湯Webサイト:http://morikawashoji.co.jp/
Facebook:https://www.facebook.com/showayou
前回の記事のまとめ
森川さんの前回の登場は、2015年。当時で創業85年、現在は93年という老舗の銭湯です。淡路本町商店街で長年にわたり地元の人々に愛され続けてきました。淡路は大阪の中でも交通の要所であり、商店街は昭和の雰囲気を残しながらも活気にあふれています。しかし、銭湯の数は20年で四分の一に激減し、かつて大阪府内に2,000軒以上あった銭湯が前回の取材時で約520軒にまで減少していました。
そこで森川さんは昭和湯で様々な企画を仕掛け、驚きや感動の演出をすることで多くのお客さんに愛され続けてきました。その一つが、「アヒル風呂」!子どもがお風呂で黄色いアヒルのおもちゃを浮かべて遊んでいるのをヒントに、何と男湯女湯合計で2,000個のアヒルを仕入れで湯船に浮かべたのです。当時画期的だったこのアイディアは話題を集め、様々なメディアにも取り上げられました。また、昆布の日には「昆布風呂」にしてノベルティーで「だしパック」を進呈したり、以前には石でできた紙を使った水に強い本を置いて「お風呂で読める本がある銭湯」を演出したり。楽しいアイディアで人を集め、様々なイベントを通して銭湯というコミュニティーづくりをされてきました。
そうした努力の結果、昭和湯は常連客も多く、そのレトロな雰囲気と地域との一体感が人々を魅了しています。たとえお客さんが一人だとしても30トンのお湯を沸かさなくてはならず、1日に100人来ないと採算に乗らないという中、昭和湯は何と日に250人のお客さんがお風呂に入りに来ているのだそうです!
オリジナルグッズ展開で「銭湯」に触れる機会を増やす!
〜グッズとの出会いが最初の一歩のハードルを下げる〜
山口 前回の取材から、気がつけば8年が経過しました。現在はどのような取り組みをされてるんですか?
森川 僕と同じような銭湯仲間の若手17人ぐらいとコミュニティを作って、彼らと一緒に様々な企画を行なっています。その中でいろいろな企業さんにもバックアップしていただいていて、特に仲良くさせていただいているのは牛乳石鹸さんで、今タイアップをさせていただいています。また、色々な銭湯のTシャツやタオルといったオリジナルグッズを制作して、近鉄あべのハルカスや阪神百貨店、高島屋、東急ハンズなど、様々なところで販売させていただいています。
山口 すごいところで販売されてるんですね!
森川 どうやったら皆が銭湯に来てくれるかなと考えてグッズ販売を始めました。これお洒落だねっていうグッズをきっかけに、それを持ってお風呂に入りに来てもらおうという取り組みで、去年1年間を通じてあらゆるところで物販をさせていただいた結果、結構良い反響をいただいています。銭湯に行ったことがなくても色んなお風呂屋さんのオリジナルグッズが買えて、でも銭湯にはそこでしか買えないものもあるので、そこから物珍しさで実際に銭湯に来てもらうことができます。また、昔銭湯に行ったことあるわという人が、グッズを見て懐かしいからまた行こうかと来てくれるケースもあります。新規のお客さんに、こんなお風呂屋さんがあるんだ、行ってみたいなと思ってもらうきっかけになっていますね。
山口 黄色い桶やタオルは勿論、Tシャツやマグカップにキーホルダーもあるんですね。このトートバック可愛い!色々な銭湯のグッズがあって、確かにこれを持ってその銭湯に行きたくなりますね!
森川 コロナ禍になってからインバウンドが無くなったこともあり、今までこういう施設を利用されてなかった若い人に対して訴求することで新規顧客を獲得していく必要がありました。グッズ自体が銭湯の宣伝する役割を果たしてくれています。
山口 なるほど。確かに若い方やあまり銭湯を利用しない人にとっては、自分の街のどこに銭湯があるか自体知らなかったりしますもんね。「へえ、こういうお風呂屋さんがあるんだ」と銭湯に触れてもらう入り口に、お洒落だったりちょっと変わっていたりするグッズというのはとても良い気がします。
森川 銭湯に来てもらうためには、まず銭湯に触れる機会を増やさなくてはいけませんからね。
風呂上がりに銭湯で造られたビールを!
〜多方面の切り口で銭湯に足を運ぶきっかけづくり〜
森川 昭和湯で販売している飲み物に『上方ビール』というのがあるんですが、これ銭湯で造られているビールなんですよ。
山口 えっ、どういうことですか!?
森川 うちの近所なんですけど、廃業したお風呂屋さんをそのままクラフトビール醸造所にした若い会社さんがあるんです。日本初の銭湯ブルワリーということで、湯上がりに飲むのに特化した『湯上がり名人』や『湯あたりヘイジー』といったビールがあり、それをうちでも仕入れて販売させていただいています。
山口 銭湯で造られた湯上がりに飲むのに最適なビールですか!銭湯の施設がビール醸造に向いていたりするんですか?
森川 ビール製造にはボイラー室が必須ですし、大量の水を使うので十分な排水設備も必要になりますが、銭湯にはそれらが元々あるんですよ。つまり追加工事が必要ない。そこで始めるまではそういった設備面の問題やビール醸造はNGといった理由で色々な工場で断られていたらしく、最終的にその廃業した銭湯で受け入れてもらえたそうです。今は元男湯でビールを醸造して、元女湯ではビールを飲むことができるようになっていますよ。
山口 それもまた面白いですね!銭湯でさっぱりして、風呂上がりに銭湯で造られた湯上がりビールを飲む。癖になりそうですね。逆にこのビールを飲んで、最高のロケーションで飲もうと銭湯に来られる人もいそうです。
森川 実際に来られますね。僕らもどうやって儲かるかを考えるわけですが、それにはまずお客さんにも面白いと思ってもらえなくてはいけません。
銭湯ゼロ次会でオンオフをさっぱり切り替え
〜日常の中で銭湯にしかできない役割を〜
山口 こうしてお話を聞いていると以前よりも更に活動を広げて、自社だけでない取り組みをされているんですね。
森川 そうですね。今取り組み始めているのに「銭湯ゼロ次会」というプロジェクトがあります。飲み会ってだいたい一次会があって、二次会がありますよね。それで、一次会の前に「お風呂でゼロ次会しよう!」という提唱です。どうしたら一次会の乾杯のビールが美味しく飲めるかを考えて、銭湯に入ることによって「今から飲むぞ」というシチュエーションを高められないかなと。
山口 なるほど!ゼロ次会で銭湯に行くことで、一次会が風呂上がりのビールから始まるという。それは最高の乾杯ができそうですね。
森川 19時から一次会が始まるなら18時に集合して30分だけ銭湯に入ってから懇親会場に行っていただくと。この「銭湯ゼロ次会」のネットワークに色んなお風呂屋さんが参加してくれれば、今週は梅田、来週は難波といった風にどの地域の飲み会でも近くのお風呂屋さんでゼロ次会ができるようになりますよね。
山口 私めちゃくちゃ汗っかきなので、これからの季節は特にゼロ次会ありがたいですね。仕事が終わった後にちょっと銭湯に寄って、汗流してきれいな服に着替えて行けたらオンオフの切り替えもバッチリです。
森川 そうでしょう。僕はスーパー銭湯にはスーパー銭湯の、銭湯には銭湯の役割があると思っていて、朝から行ってお風呂入って食事して娯楽設備もあってというのはスーパー銭湯にしかない楽しみ方ですよね。でも銭湯はもっと日常の一部で、金曜の晩に飲みに行くぞ!という時にゼロ次会で昼間の汚れと疲れをさっと落として一次会へ、というのは銭湯ならではの楽しみ方だと思うんです。スーパー銭湯ファンにも銭湯に来て欲しいし、僕らもスーパー銭湯行きますしね。そういったことを、うちだけでなく多くの銭湯で一緒にやっていくことで全体の底上げになると思っています。
山口 地元の銭湯で協力し合ってという取り組みは色んな地域であることだと思いますが、「銭湯ゼロ次会」といった風に面白いコンセプトがあることでより人の印象に残りやすくなりますよね。
森川 そうですね。なので、地元の飲食店さんともタイアップして、例えばゼロ次会をしてきた人は一杯目無料といった企画もやっていけたらいいなと思っています。
つながることで、銭湯に触れてもらう切り口が増える
〜自社だけやることの限界〜
山口 前回の記事ではどうやって自分のところに来てもらうかがキーワードでしたが、現在は銭湯に来てもらうためにいかに銭湯に触れるきっかけを提供できるかという、銭湯という業界全体を底上げさせるような取り組みに活動が深化していっていることがわかりました。
森川 そうですね。前まではここでアヒル風呂にしたり、ライブをやってみたり、落語をやってみたりと、昭和湯という一つのステージでお風呂業界を盛り上げていこうという感じだったのですが、正直1店舗だけでは限界があるんですよね。ここだけでやっても、この地域の方々の印象に残りはしても、大阪全体へ届かせることはできません。なので、10年前は自分のところだけだったのが、今は皆で繋がることでお客さんに昭和湯だけでなく色々なお風呂屋さんで楽しんでもらえるようになれば、もっともっと盛り上がるんじゃないかなと考えるようになりました。
山口 なるほど、それが色々な銭湯のオリジナルグッズや銭湯ゼロ次会といったプロジェクトに繋がっているんですね。今は銭湯に行ったことがない人も多くいると思うのですが、行ったことがない場所へ行くのって最初の一歩のハードルが高いんですよね。でも行ったことはなくても、その情報に触れる機会が多いと自然と心理的なハードルは下がっていきます。そのためには、自社だけでなく他とも繋がっていくネットワークはとても重要ですね。
森川 実際に活動を外にまで広げたことで、相乗効果で自分のところにも来てもらえるというのは感じていますね。一度、大阪駅のルクアで『銭湯案内所』というイベントをさせていただいたことがあるのですが、これは色々な銭湯の番台さんがお客さんの悩みを聞いて、ピッタリな銭湯を案内してくれるという企画です。番台さんが一覧になっていて、そこからお客さんが自分の悩みを聞いてもらいたいなと思う番台さんを一人選ぶわけです。年代も性別も様々で、例えばマジックができる番台さんの紹介は「モヤモヤもマジックのように消える!?ポジティブトークで応援!」と書いてあったり。皆さん本当にお風呂屋さんで番台をしている方々です。3日間のイベントだったのですが、実際に僕らがお伝えしたお風呂屋さんに結構来てもらえましたね。この企画のご縁で、僕は先日ルクアの『ルクアカウンセリングクラブ』という別のイベントにも参加させてもらいました。臨床心理士やキャリアカウンセラーといった専門家から、ギャルやお坊さんといった多岐にわたる相談員から選んで自分の悩みを聞いてもらえるというもので、僕はお風呂部門のカウンセラーとして呼んでいただきました。
山口 銭湯に番台さんという切り口で触れる機会ってそんなにないですよね。すごく面白いですね!
森川 また、6月26日には全国のお風呂屋さんを大阪に集めて大阪サミットを開きます。題して、『第1回 おふろ屋会議 2023 in 大阪』! 今大学に銭湯サークルなどもあるんですよ。それで、おふろ好き学生による銭湯ビジネスアイデアコンテストをやります。他にもおふろ好き芸人のライブや、おふろ屋トークなどもありますよ。
山口 発想と行動力がすごいです!個の力だけでなく、仲間とつながることで色々な切り口が生まれていくのですね!
銭湯が生きていくための二つの課題「集客」と「燃料」
〜燃料費を転嫁できないからこそ様々な挑戦が必要〜
森川 僕らが生きていくには二つ課題があって、一つはこれまでに話したような集客の課題ですが、もう一つは燃料、つまりコストです。というのも、銭湯の入浴料金というのは、都道府県ごとに決められているため、燃料がどれだけ高騰しても価格に転嫁できないんです。上限を上げてもらうよう陳情して、それが通るまで待っていなければいけません。
山口 今のこの燃料高騰はかなり厳しいですね・・・。
森川 そうなんです。なので、先ほどお話したオリジナルグッズなんかも、他で販売すると宣伝にはなっても大きな売り上げにはなりませんが、自分の銭湯で売れればその分儲けになるので、その面でも助かっています。他に昔あった銭湯の鏡広告を現代風に復活させようとしています。今2件広告が入っていて、一つは『セントウボウズ』というアパレルブランドで、もう一つは『Life Is Sauna 人生がサウナ.』というサウナグッズ専門店です。
山口 価格での勝負ができないからこそ新しいことへの挑戦が不可欠なんですね。
森川 僕らも少しずつ色々なやり方を変えて、少しでも皆さんに喜んでいただきながら、ちゃんと儲けていかないといけません。他にやって良かったと思っているのが、3年前に始めた併設のコインランドリーです。銭湯で使うのと同じ軟水を使っているので汚れが少量の洗剤でよく落ちるんですよ。それを売りにして、そのまま『お風呂屋さんの洗濯屋さん』という名前で、同じ建物の隣で始めました。
山口 お客さんは銭湯で体を洗っている間に、隣で脱いだ服も洗えちゃうわけですね!
森川 ずっと山口先生の隣接異業種という言葉が頭に残っていて、まさにこれなんじゃないかなと思っています。水や排水の設備も一緒ですし、ガスでお湯を沸かすし服のガス乾燥機なので、そこまでコストがかからないんです。僕らも貸しタオルを洗ったりするのに使えますしね。
山口 自分たちが使うのをお客さんにも貸してあげるという感じもあるんですね。逆に服を洗濯するついでに銭湯に入っていこうという人もいそうですね。
森川 おかげさまで、よく流行っています。
燃料の課題をSDGsの取り組みで乗り越える!
山口 他にも今後の展開で考えていることはありますか?
森川 エネルギーの問題で言うと、薪ボイラーを導入したいなと思っています。大量のお湯を沸かすには大量のガスが必要ですよね。でも、10度の水を一気に80度にするには凄いカロリーが必要になりますが、その前に10度から30度に少し温めてあげるだけでガス代はそこまでかからなくなるんです。そこに煙の出ない薪ボイラーを使いたいなと。
山口 間に今ワンクッション入れるだけでかなり違うんですね。
森川 重要なのはそのボイラーの燃料で、例えばお茶のペットボトルを製造する過程では、大量の搾りカスが出ますよね。コーヒーだってビールだってそうです。それらは通常は産業廃棄物として捨てられてしまうわけですが、乾燥させて固めればボイラーの燃料になるわけです。
山口 なるほど!ゴミとして燃やされるものを、燃料として燃やせればガスの使用量を抑えることができると。
森川 SDGsの2030年の目標までにもうあと数年しかないですが、その中でも我々にできることって意外とあるんですよね。他にも、例えば御堂筋なんかに銀杏並木があるんですけど、あれって間伐して捨てるのにも年間でかなりの金額がかかっているんですよ。その一部でも貰うことができれば燃料として燃やせるんですよね。これらの取り組みを今やりたいなと思っています。
山口 つなぐ力と発想力が素晴らしいですね!本日はありがとうございました!