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山口恵里の“現場に行く!”2023年5月号
「第55回 大成農材株式会社」
皆さん、こんにちは!スモールサン事務局の山口恵里です。
「山口恵里の“現場に行く!”」第55回は、広島県広島市にある大成農材株式会社の代表取締役社長、杉浦 朗氏にお話をお聞きしました!
皆さん、トマトはお好きですか?
トマトが苦手という人も勿論いるでしょうし、トマトは好きだけどトマトジュースは苦手という人もいると思います。
かくいう私はずっと後者だったのですが、なんとつい先日初めてトマトジュースを美味しく飲むことができました。
それが今回取材させていただいた大成農材さんは自社農場で育てる『ひりょうやさんのトマト』!
こだわりのプチトマトと、そのトマトだけを使った無添加のトマトジュース。
これがとっても美味しいのです!
トマトやトマトジュースが苦手だという人から「初めて食べられた!」「飲めた!」という声も上がり評判になっているのだとか。
しかし、社名やその商品名からも分かる通り、大成農材さんは肥料や農業資材の製造販売をしている会社。
なぜ自分たちでトマトを育てることになったのか?
その挑戦の取り組みとこだわりについて詳しくお聞きしました!
【会社概要】
会社名:大成農材株式会社
代表者:代表取締役社長 杉浦 朗
営業種目:有機質肥料の製造及び販売、農薬の輸出入・販売、農産物・農業資材・土改剤等の販売
設立:昭和60年(1985年)6月8日
所在地:
本社:広島市中区鉄砲町7-8(ネクスト鉄砲町4階)
石巻工場:宮城県石巻市魚町1-2-5
高知事業所:高知県安芸市黒鳥字エヒイ3-1
大成ファーム:広島県三原市大和町大具1494
企業サイトリンク:https://taiseinozai.co.jp/
『ひりょうやさんのトマト』販売サイトリンク:
https://lp.taiseinozai.co.jp/hiryo-yasanno-tomato/
『ひりょうやさんのトマト』
〜有機肥料にこだわってきた肥料屋さんが作る美味しいトマト〜
山口 いきなりですが、このトマト本当に美味しいですね!杉浦さんの会社で作られているとは知らずに食べたので、後から知って驚くとともに急いで取材を申し込ませて頂きました(笑)。まずはこのトマトのこだわりをお聞かせください。
杉浦 ありがとうございます。『ひりょうやさんのトマト』は、大きく特徴が三つありまして、一つは「食味にこだわった品種」であることです。トマトはミニトマト、大玉トマトに限らず物流上の関係もあって熟れているものを運ぶと割れやすく、割れたものは市場では規格外とみなされてしまうため、真っ赤になる前に採るか真っ赤になっても割れにくい品種を使うのが現在の主流になっています。しかし、そうすると割れにくい反面、どうしても食味が落ちてしまうんです。そこで当社では敢えて食味にこだわろうということで、以前は大手の種苗会社さんでも扱っていた食味はいいけれど量も採れないし、劣化もしやすいという品種を取り組みの当初から栽培し続けています。
山口 なるほど、でも商品としての扱いにくさというのは大成農材さんにとってもネックになりますよね?
杉浦 私たちも最初はそういった品種の特性上、やっぱり量は採れないんだろうと思っていました。ですが、収穫量というのは、栽培の技術や生育環境、そして肥料といった様々なファクターが影響しています。実際、私たちの技術が上がると収穫量も上がってきて、食味にこだわった品種でも栽培できるようになってきました。この品種は他に数軒の農家さんでも作ってらっしゃるのですが、面白いことに当社の『ひりょうやさんのトマト』とは同じ品種でも味が違うんですよ。品種の特性は間違いなくあるんですけども、この品種だから全部この味になるというわけじゃないんです。
山口 味も収穫量も必ずしも品種に依存するわけではないんですね。
杉浦 それにも関わってくるのが、二つ目のこだわりの「自社の肥料」を使うことです。当社の魚エキスと米ぬかで作った味が良くなる有機率100%肥料です。化学肥料ですと、分解され細かくなったチッ素を吸収した上で、植物体内でアミノ酸として使えるように合成されます。当社の有機肥料の場合、魚の煮汁の中に水溶性のアミノ酸が非常に多く含まれていますので、そのままアミノ酸の形で吸収されるため非常に生育がよく、また実の中に蓄えられる量も圧倒的に多いので旨味を感じやすい味になるんです。
そして、これによって可能になるのが、三つ目のこだわりの「水を豊富に与える」こと。トマトは水を少なくすると味が濃くなるのですが、植物としては負荷がかかりすぎてしまうので収穫量が落ちたり、長い期間栽培できなくなったりしやすいんです。しかし、当社ではアミノ酸が豊富な自社の有機肥料を使用していますので、水をしっかり豊富に与えてもトマトの味が良くなります。ですので、なるべく健やかな成長をさせることが可能なんです。
山口 3つのこだわりが相乗効果を生んで、この美味しいトマトが作られているんですね!
食塩も砂糖もなし!『ひりょうやさんのトマト』100%の特別ジュース
山口 トマトジュースも同じプチトマトから作られているんですか?
杉浦 はい。一昨年の年末に発表したまだ新しい商品ですね。それまでは割れたものの使用方法がなかったのですが、小規模な量でもジュースに加工してくれるところが見つかり、そこで試作を何回か重ねて『ひりょうやさんのトマト』のみの特別なジュースを作れるようになりました。商品にできなかったものを商品化することでフードロスにもなりますし、何より味が美味しくて、トマトジュース嫌いな方にも飲んでいただけるトマトジュースを作ることができました。
山口 そうなんですよ!私トマトジュースが苦手で最初はトマトだけ食べていたのですが、あまりに美味しい美味しいと聞くので試しに飲んでみたら本当に美味しくてびっくりしました。トマトジュース特有の青臭さやえぐみというのが無くとてもフルーティーで、実は果物とブレンドされたものだと思い込んでいたんですが、後から品質表示を見てみたら『ひりょうやさんのトマト』100%で二度びっくりしました。
杉浦 ありがとうございます。実際にトマトが苦手な方からも好評をいただいています。砂糖も塩も無添加なのにフルーツジュースのような甘みやさわやかな風味が感じられて、苦手な方にも大好きな方にもみんなで飲んでいただけるジュースになっています。
美味しい作物づくりのための自社製「天然有機質肥料」
山口 大成農材さんは、1985年創業とお聞きしています。
杉浦 1985年に母方の祖父が創業しました。肥料などを扱う商社に勤めていたのですが、55歳の時に早期退職を勧められ、農業関係の仕事を自分でやろうと創業したようです。最初は特別な商材も持たずに始めたのですが、広島だとやっぱり牡蠣の貝殻が結構あってですね。それを農業用に粉砕した牡蠣殻石灰を扱い始めました。
山口 地域の産業の中で出たものを活用して有機肥料にされてたんですね。現在の魚エキスと米ぬかの有機肥料はいつ頃から扱われているのですか?
杉浦 数年経った頃ですね。宮城県に魚がよく獲れる漁港の石巻がありますよね。そこの工場で作られていた水産養殖などの飼料が、安い輸入飼料に押されて売れなくなってしまい、他で何かに使えないかという話が来たんです。最初は関東から声をかけて関西まで行き、なかなかいい話がなく広島まで流れてきたようです。それで肥料として使えるんじゃないかと農家さんにも協力してもらって色々とテストしたところ、非常に効果がいいことがわかりました。
山口 なるほど。
杉浦 原料は水産加工で出てきた残渣を加工すると最終的に出てくる副産物を煮た煮熟液(フィッシュソリュブル)で、それを米ぬかにかけて固めたものが当社のメイン商品である『バイオノ有機s』。広範囲に散布しやすく扱いやすい粒状のペレットタイプです。液体タイプの『エキタン有機』もあり、こちらは成分を均一に施用でき、土壌に浸透しやすいので肥効が現れやすくなります。非常にアミノ酸が豊富なので植物の生育にも良くて、土壌の微生物も増える。以前は、ほとんどお米に使っていただいていたのですが、食味も良くなるし、収穫量も年々増えていくということで様々な農産物でご利用いただいています。扱い始めた当初は自社工場ではなかったのですが、その後に廃業されるということで当社が獲得しまして現在は自社工場になっています。
山口 こだわりの天然有機肥料は石巻工場で製造されているんですね。東日本大震災の影響はかなり大きかったのでしょうか。
杉浦 自社工場獲得以来、順調に製造量・出荷量を増やし、これからますます盛り立てようという時に、工場が被災をしてしまいました。3月というと農業業界では田植えに向けてこれから肥料を出荷していくという前段階で一番在庫が多い時期なんです。それが全て倉庫ごときれいに流されてしまいました。
山口 一番厳しい時期に・・・。
杉浦 出せる在庫もないし、工場もかなり大きな被害を受けたので、その後1年半ぐらい操業できませんでした。農家さんにとって肥料は無くてはならないものですから、その間に足らない分を供給してもらっていた他のメーカーさんには恩がありますので、再び操業しても農家さんに戻ってきてもらうのは難しい状況でした。しかしながら、現在は肥料のお客様も震災前を超えるぐらいには戻ってきています。
様々な要素の中で「肥料の良さ」を伝える難しさ
〜自分たちの肥料で美味しいものを作りたいという創業者の“夢”〜
山口 トマトの栽培はどのようにして始められたんですか?
杉浦 農業というのは味を決めるにも色々な要素がありますよね。肥料はその内の一つの要素にしか過ぎないという側面もあり、なかなか肥料の効果を伝えるのが難しいということがありました。もし自分たちで自分たちの肥料だけを使って生産をして、それが美味しい、また農業が成り立つようであれば農家さんにいいアピールができるんじゃないかということで、11年前ぐらいに取り組みが始まりました。
山口 震災のすぐ後くらいにはチャレンジされ始めていたんですね。
杉浦 その少し前に私の父が2代目社長として引き継ぎましたので、祖父がそれまで社長業が忙しくてできなかった新しい事業への挑戦や、肥料の良さを伝えるということ、それプラス自分で美味しいものを作るという長年の夢を追いかけたくて始めた形です。
山口 構想自体は創業者の中にあったんですね。
杉浦 はい。ですが、その頃はほとんど会長の趣味みたいな感じでしたね。栽培も自社ではなく農家さんに協力してもらっていました。最初はイチゴを作り始めたのですが、イチゴって食べ比べると肥料の良さがよく分かるのですが、逆に言えば食べ比べないと分かりにくいんです。それで、違いのわかりやすいトマトにターゲットを絞って栽培を始めました。ところが、企業対企業じゃないということもあって、一緒に取り組んでくれる農家さんになかなか契約通りに動いてもらうことができない。当社から二人ほど行かせていましたので、その間もノウハウなんかは徐々にたまっていくのですが、最後の現場は農家さんに任せている関係で社員では強く出れないんです。
自社農園『大成ファーム』でこだわりのトマト栽培へ
〜自分たちで作れることが自社の肥料への強い自信に〜
杉浦 そんな状況が何年も続いた頃に、私が社長を引き継ぎました。それで、結果を出さないままいつまでも会長の道楽みたいな位置づけではいけないと、リスクを取ってでも自社で独立してやろうと決めたのが5年前です。
山口 道楽みたいな位置付けだったからこそ止めてしまおうとは思わなかったのですか?
杉浦 そうですね。社長になる前から、この取り組み自体は意義のある魅力的なことだと思っていましたから。担当の関係で徹底することの難しさを感じていただけで、その課題を突破すれば上手くいく、逆に言えば突破しない限りは上手くいかないだろうと思っていました。契約上の最終決定権はうちなんですが、農家さんの土地を借りていたりといった関係で現場ではそうもいかない。せっかくノウハウも積んできて美味しいものは作れているのに出向している社員もすごくやりにくそうにしていて、これを自社でできるんだったらもう少し違うのになという思いがありました。それに、創業者の一つの夢を形にできるように動くというところが重要かなという思いもあり、社長に就任した時にその取り組みを決断することができました。
山口 それが自社農場の『大成ファーム』なんですね。そして、現在はとても美味しい『ひりょうやさんのトマト』が作れている。実際に反響はどんな感じですか?
杉浦 今はまだ年間10トンぐらいしか作っていないので、まずは広島県内での認知を取りに行っているところです。地元の情報番組や新聞にも取り上げて頂き、徐々にファンが増えている状況ですね。販売先のメインはECサイトなんですが、ありがたいことにリピーターのお客さまが非常に多いです。定期便というのがあるのですが、美味しかったからと知り合いにプレゼントで贈って頂き、その方にさらに定期購入していただくということがすごく多いです。
山口 それくらい美味しいというのも分かります! また、「肥料屋さんが自分たちの肥料でこだわって作った」というのも、誰かに勧めたり、自慢したくなるような特別なストーリーとして後押しになっていますね。
杉浦 肥料の営業でもかなりプラスになっています。新しく肥料の使用を検討しているお客さんにトマトをお送りしたりするのですが、栽培のプロではない肥料メーカーがこんなに美味しいトマトを作るということはとてもいい肥料なんだねと思っていただきやすいです。微生物の分析の精度も上がってきて、土の中がどうなっているかというのも解明されつつありますが、それでも農業において肥料はまだまだ効果と因果が見えにくい部分のある分野です。そこに明確に結果の違いが見えるものがあるというのは大きな強みになります。
山口 栽培のプロではないからこそ、良いものが栽培できているという事実を見せられるのは大きなメリットですね。
杉浦 それは社内でも良い影響を与えています。これまで自社の肥料が良いものだと分かってはいても、農家さんに否定されてしまうと言い切れない部分というのはどうしてもありました。それが今回のトマト事業がしっかりと立ち上がってきたことによって、こちらも自信を持って勧めることができるようになりました。これはすごく大きな効果ですね。また、トマト栽培に関係していない社員にとっても、「トマト美味しかったよ」と周りから自社の商品が承認されるという喜びは非常に大きいものです。今までも肥料を提供している農家さんがお米のコンテストで優勝されたりといった嬉しいフィードバックはありましたが、そのものが美味しいと言っていただける喜びは計り知れないものがあります。それが社内の雰囲気であったり、社員が会社を好きになってくれたりといったところにとても大きく影響していて、私自身もこの事業をしっかり柱にしていきながら、いい会社をつくって行きたいとより強く思うようになりました。
今後は規模拡大と関東への農場展開も!
山口 いい肥料を作ることで、自分たちでも良いトマトを作れる。良いトマトを作ることが証明になり、自分たちの商品と会社により自信を持つことができる。トマト事業がとても良い循環の軸になっているのがわかりますね。今後の展開については何かありますか?
杉浦 今は生産と販売のバランスが、どちらかと言うと販売に傾いている状況になっていますので、来年度には栽培規模の拡大を目指しています。『ひりょうやさんのトマト』は通常のトマトに比べて4倍ぐらいの価格です。広島は関東に比べるとどうしても所得水準が落ちる中で、それでも多くの方にファンになって頂くことができましたので、広島での規模拡大と併せて関東圏で農場を展開していくことも重要かなと考えています。
山口 素晴らしいですね!この記事を読んで食べてみたいなと思っている方もいると思うのですが、何かメッセージはありますか?
杉浦 『ひりょうやさんのトマト』は、11月から6月までの期間限定での販売です。ゆくゆくは通年で供給できる形にもしていかないといけないと思ってはいますが、収穫量の維持やトマトが病気になるリスクを下げるためにも現在は一年に一回植え替えをしているためです。今からの時期はシーズンの最後なので、ピークと比較すると若干落ちてしまう部分もあると思います。1月2月くらいの寒い時期が、成長がゆっくりな反面、実の味が充実するところがあります。
山口 今でも美味しいのに、ピークはもっと美味しいんですね!お勧めのプチトマトなのでぜひ食べてみて欲しいですし、美味しかったらぜひリピートしてピークの時期にも食べてほしいと思います。私もその時期を楽しみに今からワクワクして待ちたいと思います。本日はありがとうございました!