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山口恵里の“現場に行く!”2021年5月号
「第47回 イシケン株式会社」
皆さん、こんにちは!スモールサン事務局の山口恵里です。
「山口恵里の“現場に行く!”」第47回は、イシケン株式会社の代表取締役、石川倫之氏にお話をお聞きしました!
広島県福山市のイシケン株式会社は、1925年の創業から寝具等の製造卸販売をしてきました。
そんな「眠りのプロ」が新たに挑戦したのが、屋外での快適な眠りを提供する超軽量・超保温の多機能寝袋『レリーバーシュラフ』。そして、その中綿に使用されている『Air Flake®(エアーフレイク)』は、羽毛の快適さを再現しながら同時にデメリットを解消し、さらに100%リサイクル原料というサステナブルな次世代素材の人工羽毛なのです。
10年をかけて開発された『エアーフレイク』と、『レリーバーシュラフ』という隣接異業種への挑戦とそれを後押しする熱い想いに迫ります!
皆さん、ご期待ください!
【会社概要】
会社名:イシケン株式会社
代表取締役:石川 倫之
所在地:広島県福山市駅家町上山守244
業種:寝具製造業
設立:昭和32年9月
サイトURL https://www.ishiken-futon.com/
Makuakeプロジェクトページ https://www.makuake.com/project/reliever-schlaf/
『Air Flake®(エアーフレイク)』https://air-flake.com/ja/
ベビー布団専門店『Suku Suku』http://futon-koubo.com/
ねむりのプロがつくる多機能寝袋『レリーバーシュラフ』
山口 それでは、先日スモサンプレスリリースでも掲載させていただいた『レリーバーシュラフ』についてお聞かせください。
石川 当社は1925年の創業以来、寝具の開発製造を行っています。その眠りのプロが、キャンプなどのアウトドアでもより快適な眠りを届けたいという思いで作った、軽くて、暖かくて、快適なブーツ型寝袋です。安らぎやくつろぎ、安心といった意味を持つRELIEVE(レリーブ)から、『レリーバーシュラフ』と名付けました。
山口 寝具から寝袋へ、まさに隣接異業種ですね。このシュラフにはどういった特徴があるんですか?
石川 中綿素材に使用した『Air Flake®(エアーフレイク)』は、高級羽毛「アイダーダウン」の形状や特徴を繊維で生態模倣(バイオミメティクス)した人工羽毛です。雲のような軽さと、ボリュームたっぷりのかさ高性が特長で、高級羽毛ふとんに匹敵する保温力で春先から冬前まで3シーズン対応可能でありながら、アウトドアを邪魔しない軽さを両立しています。
山口 従来の寝袋にはない、「寝具」としてのクオリティも付加されているんですね。
石川 はい。勿論シュラフとしての機能にもこだわっており、タオルで簡易枕を作れる首元のポケットの他、小物用ポケットも完備しています。安心感のあるマミー型とゆとりがある封筒型のいいとこ取りをした「ブーツ型」になっており、ダブルチャックなので二つを組み合わせるとダブルサイズに早変わりします。また、『エアーフレイク』は長繊維の人工羽毛のため、洗濯しても中綿が片寄らず、中綿の吹き出しもほとんどないので、気軽に丸洗いすることができます。
山口 アウトドアは勿論、災害時の備えとしても良いですね!
羽毛に代わる次世代新素材『Air Flake®(エアーフレイク)』
山口 中綿は人工羽毛ということですが、これは具体的にどういったものなんですか?
石川 中綿の『エアーフレイク』は、当社と大手繊維製品メーカーのクラボウが共同開発した次代を担う新素材です。
山口 素材の開発からされているんですね!
石川 特徴の一つとして、羽毛の宝石と呼ばれる「アイダーダウン」の形状や特徴を分析して繊維で生態模倣(バイオミメティクス)し、やわらかさと弾力の両立によって天然羽毛に匹敵する心地よさを実現しています。また、独自の構造で放熱を抑制し、圧倒的な保温力を発揮します。従来の化学繊維の中綿は「重い」イメージですが、それは羽毛と同じ保温力を得るためにたくさん詰めなくてはならないから。そのため、羽毛に劣らない保温力を持つ『エアーフレイク』を使った製品は軽量に仕上げることができます。また、羽毛は独特の臭いが気になるという人もいますが、人工羽毛である『エアーフレイク』は無臭です。独自の吹き出しにくい形状でホコリも出にくく、速乾性と復元力に優れ、家庭用洗濯機で手軽に洗濯が可能なので常に清潔に保つことができます。
山口 独自の研究で天然羽毛の良さを再現しつつ、同時にその欠点まで解消しているんですね。
石川 さらに『エアーフレイク』は、100%リサイクル原料を使用しています。もちろんバージン原料を使ったときと性能に変わりはありません。羽毛自体は素晴らしい素材ですが、同時に限りある資源です。天然羽毛に匹敵する性能を誇る『エアーフレイク』なら、動物や環境に負担をかけずに、素晴らしい快適性を実現することが可能です。これまで天然シルクに代わりナイロンが、ウールに代わりアクリル繊維が、綿の代わりにポリエステルができたように、『エアーフレイク』は羽毛に代わる次世代素材なんです。
山口 人工羽毛としての機能性だけでなく、現代の持続可能な社会の実現にも貢献しているんですね。まさに“次代を担う新素材”ですね!
羽毛高騰を機に新素材の開発を決意
〜ピンチが気づかせてくれた羽毛への依存〜
山口 どういった経緯で『エアーフレイク』の開発をされたのですか?
石川 一般的に大手の寝具メーカーでは、自社で製品を企画し、製造は下請けでと分かれていることがほとんどですが、当社は創業時から自分たちで製品の開発、製造、卸販売まで行ってきました。自分たちの生業として、お客様の役に立つ商品を自分たちで考えて提供していくというのが当社の基本的なスタイルです。
山口 下請け仕事ではなく、自社で製品開発をする土壌が以前からあったんですね。
石川 私は4代目で2000年に代表に就任したのですが、ちょうどその頃に鳥インフルエンザにより羽毛が高騰し、我々のところに原料が入ってこないという状況になってしまいました。当時の当社は売上の4割程が羽毛布団でしたので、それが急に止まってしまうという事態にあい、これは一度事業を見直す必要があると感じました。というのも、基本的に羽毛は海外からの輸入に依存していて、実際に変異型なども含めて2020年頃までに同様のことが何回も起きているんです。
また、羽毛布団の製造方法というのは現在とても合理化されているので、半製品を組み立てるような作業で、そこに自社で付加価値をつけるというのが難しいという問題もあります。さらに当時はまだ専門店が相応の金額で販売してくれていましたが、今は流通も変わって量販店やネット通販でいくらでも安いものが買えてしまう。羽毛布団の対象者は増えた一方で、値段がどんどん落ちていってしまった。そうなると、必然的に大量生産でコストを抑えて価格競争をするしかなくなる。でも、それって当社の創業からの在り方とは真逆なんです。
山口 原料に不確定要素が大きい上、製品の価格競争は激化していると。それを事業の柱にするというのは確かに厳しいですね…。
石川 羽毛布団のユーザーは増えているので売ること自体は確かに簡単です。でも、羽毛という原料・製品に少し依存し過ぎていたのではないかと、ピンチが気づかせてくれました。それで、何か新たなものを生み出さなければという考え方に変わっていきました。
クラボウとの共同開発で10年をかけ完成
〜「実現すれば必ず市場から求められるようになる」〜
山口 とはいえ、そこで羽毛布団以外の製品に行くのではなく、羽毛に代わる原料そのものを開発しようとしたのが凄いですね。
石川 なぜ人が羽毛布団を使うのかというと、「軽くて暖かい」からです。他に「重くて暖かい」というのはたくさんありますが、寝ているときに「軽くて暖かく気持ちいいもの」となると、やはり選択肢は羽毛しかないんです。ただ、羽毛布団は天然原料なので、臭いやホコリ、取り扱いの難しさといったデメリットもある。そこで、羽毛と同じように「軽くて暖かい」けれど、羽毛のデメリットも解消したものをテクノロジーで人工的に作れるとなったら、そこには間違いなくニーズがあると考えました。
山口 『エアーフレイク』はクラボウさんとの共同開発ということでしたが、そこはどういった経緯なんですか?
石川 まず当社で開発を始めたときに、構造として羽毛を再現すること自体は可能でした。ただ、職人が手作りしたものですから、それだけでは量産して流通させることができない。でも理屈的には絶対にいけるはずなんです。そこで、これをメジャーなものにするためにはパートナーが必要だと考え、当時ポリエステルを扱っていた合繊メーカーさんに声をかけて回ったんです。「こういうもの作れませんか?」と。そうした中で、クラボウさんが賛同してくれて共同開発が決まりました。
山口 パートナーとしてクラボウさんを選んだ決め手のようなものはあったんですか?
石川 一つは、クラボウさん自身も「変わっていかないといけない」という思いがあったこと。一番の決め手になったのは、「新たな人工羽毛を作って20年間儲け続けられるようにしましょう」と言ってくれたことです。商社や大手の多くは売れるときに売るだけで、売れなくなってしまえばそれまでですから。現実的に我々だけで作れないなら、ちゃんと我々と同じ志で臨んでくれるところと組みたい。それがクラボウさんでした。
山口 開発にはどのくらいの期間がかかったんですか?
石川 2003年にプロジェクトを始めて、完成したのは2014年です。
山口 10年ですか!
石川 それだけの期間研究開発を継続できたのは、「この挑戦が実現すれば、人々の暮らしに欠かせないものとして、必ず市場から求められるようになる」という確信があったからでした。約10年かけて実際に布団の中綿として使えるものが完成し、その頃に国内特許も取得しました。2年後にはアメリカでも特許を取得しています。年月を経て現在は100%リサイクル原料で作られるまでに進化し、世界がサステナブルな社会へ移行する中、大きな期待を持たれる素材に成長しています。
ニーズを考えベビー布団から展開
〜「安全で快適なものを使わせてあげたい」という想い〜
山口 待望の新素材が開発できたわけですが、そこからどのように展開していったのですが?
石川 当社は寝具製造業ですのでまずは寝具を作ろうということで、「こういう新しい人工羽毛の布団ができたんですよ」と卸の方へ持っていったのですが、これが鼻にも掛けてくれませんでした。「これポリエステルだよね?」「こんな高いのより、羽毛の安いものを売った方がいい」と…。「ただの人工羽毛ではなく、様々なデメリットを解決する新素材なんです」と説明しても、やはり新しいものには壁があってなかなか理解してもらえません。
山口 うーん、先入観があるんですね。
石川 そこで、当社では2005年頃から別会社で始めていたベビー布団専門のネットショップ『Suku Suku』がありましたので、そこで『エアーフレイク』を使用したベビー布団の提供を始めました。赤ちゃんは非常にデリケートなのでホコリやアレルギーが心配ですし、すぐに汚してしまうので家庭で気軽に丸洗いしたい。さらに、重い布団だと赤ちゃんが大変なので、軽くて暖かいものでなくてはいけない。
山口 まさに『エアーフレイク』の出番じゃないですか!
石川 そうなんです。買うのは使う本人ではなく両親や祖父母ですので、「安全で快適なものを使わせたい」というニーズにぴったりでした。そこでベビー布団を入り口にして、そこからジュニア用、大人用へと徐々に揃って売れるようになっていきました。
ただ、一般的なポリエステルの人工羽毛に比べると価格が倍以上の商品ですので、その点でなかなか広まりにくいという問題はありました。転機になった出来事は二つありまして、一つは2018年に初めてクラウドファンディングの『Makuake』に参加したこと。その年の豪雨災害で通常の羽毛布団を作れなくなってしまったのですが、人工羽毛は製造できましたので、「我々はこういう新しい商品をやっているんだ」とプロジェクトを出しました。
もう一つは翌年、当社のある広島県福山市の「福山ブランド」に認定されたことです。福山市は厳格なので、これに認定されて初めてふるさと納税に出すことができるんです。最初は不安でしたが結果としてどちらもそれなりに販売することができ、「周知させるものがなかっただけで、我々がやってきたことは間違いではない」と確信することができました。
ピンチに立ち止まらず常に変化し続ける
〜止まれないからこそ前向きに挑戦を〜
山口 今回『レリーバーシュラフ』で、寝袋に挑戦されたきっかけはあるんですか?
石川 一つは『Makuake』に出せるのは新商品だけという点。当初『エアーフレイク』の素材はポリエステルだったのですが、その後100%リサイクル原料でよりサステナブルになっていますので、時代もちょうど追いついたかなということで、一度布団で出しています。そこで別の何かを考えたときに、今までは室内での眠りが前提でしたが、眠りのプロとしてどこでも気持ちいい眠りを提供できたらいいんじゃないかと考えました。もう一つは、昨年からのコロナ禍ですね。市場が混沌としていたり、変に時間があったりということもあり、今新しいチャレンジをしないとこの先どうなっていくか分からない。そこで、隣接異業種であれば、ただモノを売るだけでなく当社の技術を見てもらい次の何かに繋がる可能性もある。そういったことを考えて、今回の『レリーバーシュラフ』への挑戦を決めました。
山口 『Makuake』でもあっという間に目標達成になった他、色々なメディアで取り上げられていましたね。やはり手応えがありましたか?
石川 大きな反響をいただいて非常に勇気づけられました。また、こういった新しい製品を作ることの楽しさというのも感じています。形としてある意味完成されている布団とは異なり、例えば「ここの形をこうすると車の中でも使えそうだな。車内で仮眠するドライバーさんのためにもなるかな」といった風に、どんどん枝が広がってくる。また、メディアに取り上げられることで、社員にとってもやりがいに繋がっていると思います。昨年、抗ウイルスの生地を手に入れることができたのでマスクを製造して販売したのですが、その時にもテレビなどメディアの取材を受けました。それを見たご近所の方に「イシケンさんってすごいんだね」と言ってもらったと、社員がとても嬉しそうに報告してくれたんです。頑張って様々なものを提供し、それがメディアに取り上げられるというのは、商品を売るためだけではなく社員が誇りを持って働くきっかけにもなるんだと強く感じました。ですので、これからも新しい挑戦をして、それを発信していくことを続けていかなくてはと思っています。
山口 素晴らしいですね。「常に変化をしていかなくてはいけない」という思いが、とても前向きなエネルギーを生んでいるように感じます。
石川 私たちは止まれないんです。何かが起きた時に「嵐が過ぎるのを待っていればいい」と言えるような企業ではない。だからこそ前向きじゃないといけません。とにかく全力で色々なことに挑戦して、駄目ならすぐにやめてしまえばいい。これまでは作ったものをどこへ持っていくのかという問題がありましたが、現在はネット通販やクラウドファンディングなどが普及し、挑戦するための環境が整い出していると感じています。これは当社にとってだけでなく他の様々な企業にとっても同じで、実際には手間暇が掛かったり上手くいくことばかりではありませんが、前向きに行動していくことで声が返ってくるので、それをフィードバックしてまた新たな商品を作っていく。今はそうやって自分たちの輪を広げていくことで、次の新しいものへ繋げていく時代なのだと思います。
山口 それでは、最後に今後の展開についてお聞かせください。
石川 『エアーフレイク』は今後もさらに改良を加えて、より環境負荷がないものにしていきます。また、福山市の地場産業は繊維産業でデニムなど色々な企業がありますので、そう言った地域の企業とも協力し合って、関わる企業がそれぞれ利益を得られるような付加価値をつけた商品を共に作っていきたいと考えています。
山口 今後も期待ですね!隣接異業種への挑戦は、「自社でもやりたいと思っているけど難しい」「もともとすごい会社だからできるんじゃないか」といった経営者さんの声も耳にすることがあるのですが、実際に一歩踏み出せるかどうか決めるのは「自分たちも変わらなくてはいけない」と本気で思えているかどうかなのだと改めて感じました。本日はありがとうございました!