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山口恵里の“現場に行く!”2019年1月号
第38回 株式会社KandO(カンドー)
皆さん、こんにちは!スモールサン事務局の山口恵里です。
「山口 恵里の“現場に行く!”」第38回は、北海道で障がい者福祉施設の運営する株式会社KandO(カンドー)代表取締役の小笠原 一郎氏にお話をお聞きしました!
札幌市と旭川市で障がい者向けのグループホームや就労継続支援B型の事業所を運営されている小笠原さんですが、実は公認会計士・税理士事務所をされている公認会計士。
監査法人で実務経験を積んだ後に独立、事務所を立ち上げるのと同時期に障害者福祉事業を運営する株式会社KandOを立ち上げました。
自身が会計士であることを活かした経営とその挑戦に迫ります!
皆さん、ご期待ください!
会社名:株式会社KandO(カンドー) 創業:2011年9月16日 代表取締役:小笠原 一郎 業種・事業内容:障がい者福祉事業 [札幌] 桜のいえ 1号棟:札幌市南区石山1条5丁目1-1 桜のいえ 2号棟:札幌市南区南32条西9丁目3-3 桜のいえ 3号棟:札幌市南区南31条西10丁目1-39 桜のいえ 4号棟:札幌市南区藤野4条3丁目13-31 ベル・エア:札幌市南区藤野3条2丁目2-12 就労継続支援B型「鶴の郷」:札幌市南区藤野3条1丁目2 生活介護事業所「みなすぽ」:札幌市南区川沿6条3丁目2-12 [旭川] いちふくファースト・セカンド:旭川市神居7条13丁目1-2 就労継続支援B型 みなぽろ:旭川市東光9条2丁目4-15 |
障がい者グループホーム『桜のいえ』
~「障がいを持った行き場のない人を1人でも多くこの世の中から少なくする」~
山口 小笠原さんは札幌で公認会計士・税理士事務所をされているんですよね。
小笠原 はい、東京の監査法人で7年の監査実務経験を積んだ後、2011年に札幌で独立しました。
山口 『現場に行く』では士業をされている方は今回が初登場となります。と言っても、今回お聞きするのは士業のお話ではありません。その独立と同時期に障がい者福祉事業の株式会社KandOを立ち上げ、グループホーム「桜のいえ」を運営されているんですよね。
小笠原 今年で創業8年目になりまして、グループホームは札幌で5棟、旭川で3棟を運営しています。新築で建てているので棟数はそれ程ないのですが、毎年一棟ずつ増えている計算になりますね。また、グループホームの他に就労継続支援B型および生活介護の日中作業所を札幌で2ヵ所、旭川で1ヵ所、計11カ所の事業所を運営しています。
山口 新築ということで、間取りや設備など様々な障がい者の方が暮らしやすい施設になっていますね。
小笠原 『障がいを持った生き場のない人を1人でも多くこの世の中から少なくする』というのが当社の理念です。軽犯罪を繰り返して刑務所が福祉施設代わりのようになってしまっている人や、知的障がい者の子どもの世話をしている母親の「私がいなくなったらこの子はどうなるんだろう」という悩みなど現実的に起きている問題が多くあります。そういう人たちがちゃんと綺麗なところで生きていける環境、住みやすい住居づくりが当社のスタートです。
勿論この理念は、障がいを持った方を1人残らず『桜のいえ』に入れるということではありません。『桜のいえ』に適合する方で、みんなが幸せに暮らせる範囲で、最大公約数的により多くの人の幸せをプロデュースする。現在スタッフは札幌で50名ほど、旭川で30名ほどいるのですが、皆にはスタッフ1人1人が『幸せプロデューサー』なんだと伝えています。また、当社は株式会社ですから、あくまでも営利を目的とした存在です。営利的に説明がつく範囲で行動することで、金融機関等からの信用を得て企業規模を拡大することができる。その結果、より多くの障がいをもった方の力になることができると考えています。
就労継続支援B型「鶴の郷」
~「つなぐ力」でブランド作り~
山口 就労継続支援B型での作業というのはどういったものなんですか?
小笠原 主にパンの製造販売、老人ホームや病院、小学校などの委託清掃です。ただ、当社の理念が住居から始まっているため、当初は仕事内容があまり充実していなかったという反省がありました。作業所をやるにあたり福祉施設の専門家は入れたのですが、その仕事の専門家をもっと入れていかないと、結局充実した仕事というのは提供できないんです。
山口 確かにただ住む場所を提供するのではなく、「幸せをプロデュースする」と考えると、「充実した仕事」というのは重要ですね。
小笠原 そこで、税務顧問先だった『ラ・フォンテーヌ』というパン屋さんの店舗が近くにありまして、ちょうど事業を縮小するタイミングだったのでその事業所ごと譲り受けました。そこでパンを研究したり、例えばメロンパンの上に塗るクッキー生地などの一部を施設にお願いしたりと協力してもらっています。「障がい者が作ったパンですよ」と安く販売するのではなく、きちんと品質の高いパンを作り、ちゃんと利幅の取れる価格で販売する。どうせやるならやっぱりブランドを作りたいんです。
山口 まさに「つなぐ力」を活かしたブランド作りですね。
小笠原 私は「友達力」と呼んでいるのですが、これは本当に大切だと思います。現在は『1カラット』という名前でブランディングを進めているのですが、旅館を経営している知り合いが声を掛けてくれたおかげで、ブランドデビューは超高級旅館の朝食になりました。小売店を経営している経営者仲間とは面白いお菓子ができたら置かせてほしいといった話もしています。
会計と福祉、二つの世界を知る面白さ
山口 そもそも公認会計士である小笠原さんが、なぜ同時に事業を立ち上げられたんですか?
小笠原 一つには、私がもともと実業家の家系で育っているということがあります。祖母がゼロから事業を興し、タクシー会社から始めてその会社が大きくなったところで事業を売却してボーリング場を経営、その会社も大きくなったら事業売却して、ゴルフ場を作ったらしいです。そうして他にも色々とサイドビジネスをやっていましたね。
山口 凄いおばあさまですね!
小笠原 凄いんですよ。ただ、私が高校の頃に1回失敗するんです。これは今でも私の人生の中でのハイライトだと思っているのですが、その時の金融機関との話し合いの席に、当時高校2年生だった私も同席したんですよ。当時私も田舎ではお坊ちゃまみたいな扱いでしたが、「単純にそういう人生でもないな」というのを痛感させられましたね。勿論自分としいてもお坊ちゃまとして生きていこうと思っていたわけではないので、そういう状況をど真ん中で見せてくれたというのは凄い経験だったなと今でも思います。
山口 それは人生の考え方が変わるような経験ですね。
小笠原 その後は事業を外部に譲渡したり、父が受け継いだ事業もランニングが厳しいものはシュリンクさせていきました。私は大学卒業後は公認会計士になり監査法人に勤めたのですが、今お話したような家系で育っているのでサラリーマンが合わないんですよね(笑)。7年務めた頃に独立することしたのですが、私は金融機関監査などを担当していましたのでクライアントを持って辞めることができないんです。そうは言っても急激に新規を獲得できるものでもない。それなら何か自分で事業をやろう、と。
山口 最初から福祉事業を考えていたんですか?
小笠原 いえ、その時たまたま友達が千葉で福祉施設をやっていて見せてもらったんです。すると、公認会計士として監査法人で働いていた時とは、環境も人も全く違うわけです。それが凄く面白く感じたのと、そのどちらも知った上でこちらの世界を管理しようと入ってくる人って少ないんだろうなと思い、この事業をやろうと決めました。
公認会計士が社長である“意味”
~会計はフェアな関係を築く「共通言語」~
山口 完全に異業種への参入となるわけですが、どのようにスタートしたんですか?
小笠原 そこはちゃんと福祉業界で長年経験している人を探して手を組んで始めました。最初の2年ほどはコンサルも受けていたんですが、途中から方向性が合わなくなり、以降は自分たちで研究しながらやっています。先ほどのラ・フォンテーヌの話もそうですが、その道の専門的なことというのは私には分からないので、いかにそういった専門の方々と上手くアライアンスを組んで、ビジネスを発展させていくかが大事なんだと思っています。
山口 一人の能力には限界があるからこそ、様々な分野の専門家と繋がっていく力が必要ですね。
小笠原 実際、会計士が社長をやっている“意味”というのも確かにあって、例えば毎月PLを出して、今がこんな感じで、幾ら儲かったら何%くらい取れるように……とか、そういった話はできる限り先にして、約束を履行していくことにより信頼関係を築いていけます。相手側としても、自分1人で独立してやるより財務的にも経営的にも安心感があるので、現場の運営に集中して動くことができるわけです。規模の小さい事業って資金繰りや経費計算などに煩わされて、本来その人が持っている実力が発揮できないケースっていうのはまだ多くあるんですよね。当社と組んだ方が得だなと感じてもらえれば、辞めて独立しようといったこともなくなります。
山口 役割が明確だからこそ、良いバランスで分担し協力することができるんですね。
小笠原 以前に縁あって登別のステージというフィットネスクラブの事業譲渡を受けたのですが、近くに競合ができてしまって当初あまり上手くいかなかったんですよ。それでそこはもう廃業かなと思ったときに、26歳くらいの若い社員が「やってみたいです」と名乗りでて、競合がある中で立て直してくれたんです。そこでも、ちゃんと経費や利益などのお金回りの動きを話して、例えば集計した4ヶ月の利益から30%はボーナスとして支給するといったように、どちらかの判断だけではコントロールできないようなフェアな仕組みにしました。これは一つ上手くいった事例だなと思っていて、細かい部分はまだ試行錯誤中ではありますが将来的には全部の施設をそうしていきたいなと考えています。
山口 中小企業の場合、中堅でもPLを見れない方って結構いらっしゃると思うのですが、そういったところも全部教えているんですか?
小笠原 ざらっと説明をしますね。先日もリーダーを一同に集めて、「うちの会社としてはみんなに経営者としての意識を持ってもらいたいんだ」という話をしました。事業計画をモニターで出して、例えば「ここに売上げあるだろう、これ利用者さんの数なんだよ」とか「ここに紐付けられて販管費が出て、こうやって利益が出てくると金融機関に借金を返せるね」といった話をするようにしています。
山口 素晴らしいですね!
小笠原 全部を伝えられるわけではないですが、分かりやすいところをちゃんと提示しながら、できる限り会計をオープンにすることで社員との信頼関係にも繋がります。私は会計というのは互いにフェアなところを見つけるための「共通言語」だと思っているんです。
山口 まさに会計士ならではの経営スタイルですね。
付き合いは“ウェット”に、判断は“ドライ”に
~「ルールに縛られすぎない」ことが働きやすさに~
山口 今人手不足が大きな問題になっている中、社員とのフェアな信頼感を築くというのは非常に重要ですね。御社では毎年ホームが増えていて、従業員も札幌と旭川で合わせて80名ほどということでしたが、人材に関する課題というのは感じていますか?
小笠原 当社もやはり苦しんではいますね。ただ、これは少し前の話にはなるんですが、当社の場合グループリーダーや幹部の家族もどこか他の福祉施設で働いていたりするんですよ。それで奥さんが妊娠したりすると、当社に入社して産休を取るという流れがいつの間にかできていましたね。これは、当社が毎年拡大していっているので、産休明けでも戻る場所があるだろうという安心感からみたいです。また、多少雇用契約通りではなくても、例えば子どもに何かあったら事務で預かってあげたりというのも日常的にあります。経理の女性も小5の娘さんをちょこちょこ連れてきて、別室で夏休みの宿題やらせてたりしますね。
山口 そこはまさに中小企業的な人と人との関係ですね。
小笠原 ウェットに付き合って、ドライに判断ができることが、経営者の資質として一番大事なところなんですよね。働きやすさって、「ルールに縛られすぎない」ということが大事だと思うんです。それって人生ともリンクしていて、「子ども今何歳なの?」とか「それだったら遅い時間まで働けないね」とアジャストしていけることが、「社長は分かってくれている」という安心感や信頼感に繋がっていく。そういう信頼関係ができていないと、今度は会社のビジョンを示した時に「そんなのやりたくないよ」とかってことになる。経営者の役割は信頼関係を持った人たちに、「あっちに向かったら絶対幸せになるぞ!」と思わせることであり、その結果発表が会計なんですよね。
山口 ウェットな人間関係を築き、数字に関する判断はドライに。ウェット&ドライというのは、経営者にとって大事なキーワードですね。本日はありがとうございました!