スモールサンニュース大澤徳の“現場レポート”

中国視察報告 北京・深圳レポート
〜中国を「見て見ないふり」してきた日本、今では中国が先行する分野も〜

スモールサン事務局長 大澤徳

 現在の中国は一体どうなっているのか——。
 最近話題の米中貿易戦争や、中国の景気低迷など、スモールサンニュースで山口義行教授が度々取り上げているように、その注目度は日に日に高まっています。先日は、スモールサンゼミCHIBAで、中国の経済動向に詳しい産業タイムズ社上海支局長の黒政典善氏を講師に招いた公開ゼミが開催されました。そこで中国が既に電気自動車化を進めている事や、新幹線の整備が相当進んでいる事などを知った私は、実際に中国がどうなっているのかをこの目で確かめるため、中国(北京・深圳)へ行ってきました。
 今回の別刊スモールサンニュースでは、私が中国で見てきたものについて、皆様へ共有させていただきたく思います。

日本に比べ圧倒的に進んでいる電気自動車化

スモールサンでは、今年の4月から札幌・東京・大阪などの地区で、「進むEV(電気自動車)化で変わる自動車産業」をテーマにXパワー代表で環境経営コンサルタントの村沢義久氏のセミナーを開催いたしました。
そこで村沢氏は「中国が電気自動車化へ舵を切っている」とおっしゃっていましたが、実際に中国に行ってみると、確かに街中を走る多くのバスが電気自動車でした。


(北京市内を走る電気バス)

(深圳市内を走る電気バス)


(深圳市内を走る電気タクシー)

元々リチウム電池の大手メーカーだったBYDですが、今は電気自動車を生産しています。
深圳を走るタクシーの7割が既に電気自動車で、2020年までには全てのタクシーをEV化する計画のようです。

実際に私も電気バス・電気タクシー共に乗ってみました。当たり前ですが、ガソリンと変わらずに走るのはもちろん、ギアの変更がないことやエンジンではないためかスムーズな走りで、むしろガソリン自動車よりも乗り心地はいいように感じました。


北京市内を走るバスでは、写真のように充電するときだけパンダグラフのようなものをバスの上から出して充電する様子も見られました。


(北京・充電してるバスの写真)

(通常は折りたたんで走行するようです)


街中を走る様々な電動バイク


街中を電動バイクが沢山走っていたのですが、無音で近づいてくるので、とても怖かったです。


(すべて電動バイク)


今年8月に、中国のセブンイレブンが、中国最大のフードデリバリーサービス「美団点評」のサービスプラットフォームに参画する事が報じられましたが、街中にはいたるところに「美団点評」のロゴが入った電動バイクがありました。


(美団点評の電動バイク)


セブンイレブン北京が美談点評と組んだのは、中国においては「小売店よりも即時に宅配してくれるサービスのほうが強い」という方向を表している様にも感じました。

日本でも、アマゾンジャパン(東京・目黒)が東京都内など一部地域で提供しているAmazon Prime Now(アマゾンプライムナウ)という、2時間以内に商品を届けてくれるサービスがあります。今後、日本でECが普及していくにつれて、これまで以上に実店舗が持つ強みとは何なのかが問われるようになります。「商品を即時に手に入れることができる」、「生鮮品など同じ価格でも若干の個体差がある商品を自らの手で選ぶことができる」、「商品に関する情報提供や体験ができる」、というような点を活かしていかないといけないなと感じました。

また、電動バイクで1日中配達するとなると、どうやって充電しているのか気になったのですが、街中に電池シェアスタンドのようなものがあり、そこで配達員が電池を交換していました。
電動バイクを一般の方が充電している様子もみられました。


(街で見かけた電池パック交換シーン)

モビリティでもう一つ驚いたのは、街中にセグウェイのような1人乗り用の乗り物に乗っている人が多かったこと。


(北京市内を走るセグウェイ)


(実際に乗ってみました)


実際に乗ってみて、最初は戸惑いましたが、だんだんと乗れるようになりました。
説明書によれば、1回の充電で22km走るそうです。価格が日本円で約3万円だったので、買って日本に持って来られないかと考えたのですが、飛行機の電池の制限の都合上、断念しました。


街中で捕まらないタクシー、配車アプリで直接呼び出し

中国の街中では、日本のようにその場で手を挙げてタクシーをひろうことはできません。タクシーに乗りたいときは、SoftBankやAppleも出資している中国配車アプリ最大手、「滴滴出行(ディディチューシン)」という企業の配車アプリをみんな使っていました。



AIを活用して乗客とタクシーを効率よくマッチングすることができ、日本でもジャパンタクシーなどの配車アプリがありますが、その普及率は日本以上だと感じました。事前にどこに行きたいかを設定し、料金を確定させた上でタクシーを呼べるので、安心してタクシーに乗ることができます。



日本より遥かに進んでいるキャッシュレス化


最近、日本でもキャッシュレス社会を目指した政策や企業のニュースが話題になっていますが、中国では日本よりも遙かにキャッシュレス化が進んでいます。
下記の図は、経済産業省のキャッシュレス・ビジョンに掲載されていたグラフです。


(経産省 キャッシュレス比率のグラフ)


中国では、日本のSuicaのようなICを活用した電子マネーではなく、QRコード決済が普及しています。消費者がスマホに入れた専用アプリにQRコードを表示し、店舗側が読み取ることで決済が完了するものと、店舗側が表示したQRコードを消費者側が読み取り、表示されている金額を入力・送信することで決済が完了するものとあります。中国は至る所でこのQRコード決済ができるようになっていて、街中や空港で使えない場所はありませんでした。



ふと入ってみたレストランでは、テーブルにQRコードが置いてあり、お店のメニューもそこからURLを読み取って閲覧し、注文・決済を同時に行う仕組みでした。


(日本の主要なQRコード決済サービス)

中国のQRコード決済には、「アリペイ」と「WeChatペイ」という2つの方式があります。2つのサービスを合わせて中国国内では9割以上のシェアがあるといわれています。日本は、現在あるQRコード決済の仕組みだけでたくさんの種類がありますが、導入する店舗側の視点に立つと、複数のサービスを同時に準備するのは大変そうです。

私は、日本にいるときにWeChatペイの口座を開設しました。実際に中国で使ってみると、SuicaなどのICカードに比べると若干スピードは遅いですが、特にストレスになるようなタイムラグもなく、スムーズな支払ができました。

QRコードを店舗側に見せたら、勝手に幾らでもお金を支払わされるんじゃないか…。使ってみるまではそんな不安があったのですが、実際にはその心配は必要ありませんでした。チェーン店や大規模な商業施設などでは自分のQRコードを見せることになりますが、露店や小規模店舗などでは、消費者側が店舗のQRコードを読み取って決済するという流れになります。


ITを活用した業務効率化・省力化


日本のマクドナルドでも伊丹空港などの一部店舗で導入されていますが、中国の店舗ではセルフオーダー端末が広く普及していました。



(吉野家のタッチパネル)


吉野家もタッチパネルで注文・決済できるようになっていました。
セルフオーダー端末ですと、タッチパネルで注文・決済を行い、後は受け取るだけという方式ですので、有人レジの台数が少なくてすみます。有人レジに並んでいるのは、外国人旅行者や中国の郊外から来たような方々ばかりでした。
これは日本の人手不足に対しても有効な一手のような気がします。


続いて、深圳の無人コンビニに行ってきました。



1つは、「Well Go」。

同時に店舗に入ることができるのは1組限定で、普段はお店のドアに鍵がかかっています。入店したいと思ったときに、中国の決済アプリ(WeChatペイまたはアリペイ)で認証すると、お店の入り口が解錠されて店内に入ることができます。店内で商品を選んだ後、決済のための小部屋に移動し、レジ台のような場所に商品を置くと、自動で読み取られて液晶パネルに一覧で表示されます。そこで確認して合っていればそのまま決済するという方式でした。

2つ目はこちら。「百鮮GO天人超市」。



こちらは冷蔵庫ごとに鍵がかかっていました。先ほどのWell Go と同様に、決済アプリで認証することで鍵が開きます。そして、買いたい商品を取り出し、扉を閉じると決済が完了する仕組みです。


日本で無人コンビニというと「amazonGO」が有名かと思います。AmazonGOはカメラで商品や購買者の様子を認識して、AIで分析する仕組みですが、中国の無人コンビニはRFID方式という、電磁波を当てて跳ね返ってきたデータを読み取る形式です。
無人コンビニで買った商品のバーコードの中に、RFIDらしきものが見えます。

ファーストリテイリング傘下のGU(ジーユー)が導入しているレジや、 JR東日本が赤羽駅で実証実験している無人コンビニもRFID方式のようです。
RFIDの単価と読み取り機械のコストと、人件費を比べたときにどっちがいいのか気になります。また、相当電磁波が飛んでいそうですが、安全性は大丈夫なんでしょうか…。

無人コンビニにしても、セルフオーダー端末にしても、キャッシュレス決算が前提での利便性のように感じました。

また、費用対効果があっているのかはわかりませんが、スーパーでは商品を運ぶベルトコンベアを見かけました。


先ほど紹介したフードデリバリーサービスの美団点評のように、中国では実際にある店舗から職場や自宅へ出前してもらう事が当たり前のように普及しています。人手不足の影響で物流の人材確保が難しい日本では想像しにくいですが、中国は農村部から安価な労働力が都市部へ供給されているため、出稼ぎ労働者がこれらの宅配システムを支えているようです。
日本のスーパーでは既に陳列されている惣菜を選んで購入する方式ですが、中国ではスーパーで惣菜を注文→調理→フードコートで食べる方式や、インターネットでスーパーの惣菜や弁当を注文→調理→宅配してもらう方式が多いようです。
このスーパーのベルトコンベアは、スーパー内の惣菜を作る場所からお店の外に繋がっていて、宅配するドライバーまで人手をかけずに届けるためのもののようです。

衰退が垣間見える北京・深圳の小売業

深圳は秋葉原の数十倍という規模の電気街といわれています。


(深圳の電気街)


実際に深圳の電気街を歩いてみると、いたるところでLEDや半導体の基板、電子ケーブルなどの電子部品が沢山売られています。10年前の秋葉原も色んな電気屋さんが並んでいて活気があったなぁと思い出しました。


ただ、実際に深圳の電気街のビルに入ってみると、活況どころかシャッターが降りっぱなしの店舗も多くあり、違和感を覚えました。

秋葉原の場合ですと、インターネット販売する際に実店舗がある方が安心してもらえるからという理由で、採算に合わないけれども実店舗を構え続け、「インターネット販売と実店舗の一体化」を目指すお店が多いと聞いた事があります。中国でも同じような現象が起きているのかもしれません。


衰退する北京の電気街と、発展する“中国のシリコンバレー”中間村


北京の電気街では、小売店は至る所で空店舗になっていたり、解体している途中の状態でした。


(北京の電気街)


北京の場合には、小売店を辞めて、インターネットのビジネスに切り替えていく人が多いようです。中国のBtoC向けECサイトで中国国内 2位の「京東商城(ジンドン)」の創業者もそう。元々北京の電気街で小売店を営業していたのですが、来店してもらえないと売上があがらないことや明日の売上が読めないこと、そして在庫がさばけなかったらどうしようという不安から、インターネットのビジネスに切り替えました。ネットで注文を受けてから仕入れるような形式に変え、リスクの軽減を狙ってインターネット販売に注力していったようです。

今ではアメリカナスダック市場に上場し、中国国内では2位の個人向け通販サイトに成長しました。「京東商城(ジンドン)」は、中間村にコアワーキングスペースとして利用できるカフェを作っています。
中間村は、北京大学や精華大学といった中国国内でトップクラスの大学や、AppleやMicrosoftなどのIT企業も近くにあり、現地の大学生起業家、IT企業で実務を経験している方、資金の出し手であるファンドなどのエコシステムが上手く整っているように感じました。



李克強首相が中間村のカフェを訪れて、起業家コミュニティを応援したことで有名なコーヒーがあります。現地では「李克強コーヒー」と呼ばれているそうです。



日本にいるときの印象とは大きく異なる中国の姿


今回、実際に中国に行ってみて、「中国は途上国でまだまだ貧しい」、「自由がなくて息苦しい国」というような印象は、(今回行った中国の都市部においてですが)持ちませんでした。
それどころか、日本よりも電気自動車化など部分的には進んでいる分野もあり、今度中国でどのようなサービスや商品が市場に投入されるのか、定期的に目を向けたいと強く感じました。


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