<
大澤徳の“現場レポート”!2024年11月号
「株式会社丸栄堂」
今回取材させていただいたのは、秋田県の葬儀社、株式会社丸栄堂の三浦大英社長。同社がある秋田県仙北市角館町エリアは少子化に伴う人口減少、高齢化、核家族化などが進み、これまでの地域や家族観の延長線上で事業を考える事が難しい地域です。
そんな地域で、もともと葬儀社を営む同社は、家族葬への対応、秋田県内で初めて自社霊園を仕掛ける、合葬墓をはじめる、など様々な取り組みを行ってきました。最近では、ペット向けの葬儀なども手掛けています。どのように新しい事に取り組まれてきたのか。新しいことをはじめる基盤には、管理会計や社員育成の仕組み化、デジタルやITを使った効率化と顧客サービスの価値向上などがありました。
今回の取材で、丸栄堂ならびに三浦大英社長の歩みについて伺います。
【会社情報】
会社名:株式会社 丸栄堂
代表取締役:三浦 大英(みうら だいえい)
所在地:〒014-0366 秋田県仙北市角館町下菅沢195−1
会社設立:昭和50年10月6日
事業内容:葬儀施工、墓石設計・施工、墓苑管理、墓地分譲、仏壇仏具販売、慶祝生花花輪、ギフト販売、少額短期保険代理店
ウェブサイト:https://marueido.jp/
Instagram:https://www.instagram.com/marueido_akita/
「みちのくの小京都」角館 10年で2割の人口減少
春の訪れとともに、美しいシダレザクラが咲き誇る秋田県仙北市角館町。
「みちのくの小京都」といわれ、1620年の設立以来、ほとんど変わらない姿を保っています。武家屋敷が立ち並ぶ風景は、まるで時代劇のワンシーンに迷い込んだかのようです。約400本のシダレザクラが咲き乱れ、中には樹齢300年を超える古木もあり、歴史を感じさせる街並みです。
この美しい町も、日本の他の地方と同様に、人口減少、少子高齢化、過疎化といった様々な問題に直面しています。自治体の合併が進み、人口は減少し続け、高齢化率は上昇の一途を辿っています。角館町がある仙北市の高齢化率(65歳以上の割合)は、約45%。人口は2014年の約2.8万人から2024年9月末時点で約2.3万人になり、10年間で5千人減少しました。2014年から10年かけて約2割減った計算になり、平均すると毎年約2%ずつ人口が減っている状況です。
こうした話をご紹介しても、都市部の方にとっては、馴染みが薄い、関係ないと感じられるかもしれません。読者の中には、東京都は人口が増えていると思われている方も多いと思います。それは間違いではありません。しかし、その人口増の内訳を見てみると、日本人は減り、その代わりに外国人が増えていることがわかります。もう少し広く首都圏(東京、神奈川、埼玉、千葉の1都3県)でみると、2022年2023年と2年連続で人口減少しています。近い将来、東京や首都圏ですら、消費者の減少か労働力の減少なのかはともかくとしても、人口減少の影響を感じられるようになるでしょう。そう考えると、秋田県や角館町の現状はいずれおとずれる人口減少社会の最先端の現場といってもいいのではないか、と感じています。
都市部と異なり、すでに地方では市場ごと縮小が始まっています。多くの企業の場合、地域内でこれまで同様の事業や商品で、量的な拡大による売上増を求めるのは容易ではありません。地域外に活路を見出すか、地域内で生み出す価値を質的に転換することが求められています。
今回取り上げる株式会社丸栄堂は、葬儀事業を中核に据えながら、いかに経営課題を乗り越え、持続的な成長を遂げてきたのか。その取り組みをご紹介させていただきます。
丸栄堂の歩み 「終活」と「葬送」のワンストップサービスに向けて
丸栄堂は1975年に創業され、現社長の三浦大英社長が2代目で、正社員11名の企業です。「『終活』と『葬送』ワンストップサービス」を掲げており、当初は葬儀業から始まり、墓石事業、仏壇仏具販売、霊園運営管理事業、ホール(家族葬、葬儀場)事業と、葬儀に関する周辺の事業を拡大されてきました。同社の墓石店、仏具店は、地域で唯一残っているお店になっています。最近では自社での霊柩運送、ペット葬や合同葬にも取り組まれるなど、葬儀に関する周辺事業にチャレンジされています。同社が営む霊園は秋田県内で葬儀社が営む唯一の霊園であり、自社で営む霊園だからこそ合葬墓やペット葬など多様なご要望に対応できる基盤となっているようです。
上記の様にまとめてみると、順風満帆に事業展開をされているようにもみえますが、苦しい場面も多かったといいます。
多額の投資と積み上がる在庫、幹部社員が離職
自分と自社のあり方を考え直す機会に
三浦大英氏が事業継承し社長に就任したのは2012年でした。当時は社員5名と今の半分くらいの規模だったそうです。社長就任直後、翌年の決算で前年比売上が1割下がるなど、経営状況は芳しくありませんでした。先代が手掛けた霊園事業は、土地代こそ安かったものの宅地造成に多額の費用がかかり、多くの在庫が残ってしまった時期でした。加えて先代社長の下で、30年以上にわたり働いていた幹部社員が退職されるなど、組織や従業員との関係にも悩まされていたといいます。
当時を振り返って三浦氏は「当社にとって一番苦しい時期でした」「今思えば信じられないですが、あの頃は、経営者なんていうのはお金儲けできていればそれでいいやと思っていた」と語ります。三浦氏自身も葬儀の現場に立ち、資金繰りも悪く、じり貧に陥っていくような状況で「今思えばよく潰れなかったな」と思うくらいの状況だったそうです。
「このままではいけない」
そう強く思った三浦氏は、まず「会社は何のために存在するのか」「社員にとって会社とは何か」を問い直し、経営理念を確立することから始めました。
社員に「今までごめんなさい」と謝る、さらに社員が退職へ!?
経営理念を考える中で顧客や社員との関係についても見つめ直し、三浦氏から社員へ「今までごめんなさい。これからは社員と一緒に幸せになれるように経営したい!」と伝えたそうです。しかし、それで「よし、これから一緒になって頑張っていこう!」となるかと思っていたら、さらに複数の社員から辞表がでてきてしまい、さらに頭を悩ませる事態になってしまいました。
「社員からすれば、今まで何の波風も起こしていない静かな会社で、いきなり社長が波風を立て始めたように感じたのでしょう。」と三浦氏は振り返ります。社員にとっては急に社長が変わったとなれば、「いよいよ会社がやばいんじゃないか」と不安になるかもしれない。その上いきなり会社の経営理念がどうのと言われたら、「今までは言われたことをやっていれば良かったのに、なんでいきなり経営理念を実現するために協力する必要があるのか」と考えても無理はないのではないか。
社員は会社の経営理念実現のために協力してくれているのではなくて、それぞれ社員自身が幸せになるために生きている。後から振り返ってそれが分かったと三浦氏は言います。企業経営の目的はあくまでもお互いが人間らしく生きて、幸せになること。「当社では(それぞれの人生にとっては)経営理念も手段だとという位置づけにしています」と語ってくださいました。
働き方改革への第一歩
長時間労働からの脱却 残業月40時間から3時間へ
三浦氏は、社員の幸せを追求するため、まずは働き方改革に着手しました。
フレックスタイム制を導入して、社員一人ひとりの事情に合わせて柔軟な働き方ができるよう、制度を整えました。また、クラウド型の勤怠管理システムを導入し、社員の出退勤状況をリアルタイムで皆がそれぞれ把握できるようにしました。これらによって、社員がそれぞれ自分なりの働き方を考えられるような状況を作りました。
こうして社員一人ひとりが労働時間を正確に把握し、残業時間の削減をどうするか考えた結果、社員一人当たりの残業時間は、以前の月40時間から、今では月3時間程度にまで大幅に削減することができたそうです。
社員が中心となって「人材育成システム」を構築、賃金と連動も
さらに同社は社労士に協力してもらいながら、社員と一緒に「人材評価システム」の構築にも取り組まれています。
一般的には「人材評価システム」と呼ぶものを、同社では「人材育成システム」と呼んでいます。三浦氏はこの「人材育成システム」の設計には関わらない方針で、その理由の一つは社長が関わると「これをやりなさい」という命令になってしまうかもしれないから。そしてもう一つは、「お客様のことを考えたら、自分たちがどうなっていったらいいのか」を念頭に置いて、社員たち自身に自分たちの働き方、スキルなどを考えてもらいたいから。
社長の好き嫌いや気に入っているか否で給与が決まるのではなく、陰で努力している人もちゃんと評価できるような組織にしたい。そんな想いから、個人のスキルや組織への貢献度などの尺度を明確にして、社員それぞれがどの基準を達成すればどのくらいお給料がもらえるのかを可視化されているそうです。
最近では同じ地域の他社・他業界の動向も踏まえ、賃上げに取り組んで行く重要性についても熱く語っている姿が印象的でした。また、社員と一緒に、最新の技術や知識を習得するための研修を実施したり、展示会への参加などを企画したり、最近ではチャットGPT研修などにも取り組まれているそうです。
毎月、税理士との面談、月次の経理資料は社員にも共有
多くの中小企業にとって、税理士は税務申告や会計処理といった業務を担う役割であることが多いと思います。しかし、同社の場合は、税理士を「経営の伴走者」として捉え、積極的に経営に関する相談をされています。
具体的には、中長期の戦略策定や、毎月の会議での経営に関する数字のレポート作成など、経営計画や財務管理において税理士のサポートが重要な役割を果たしています。税理士と共に作成している「財務の視点」「顧客の視点」「業務プロセスの視点」「人材と組織の視点」といったレポートなども、経営判断の上では欠かせないと三浦氏は言います。こうした取り組みによって、金融機関との関係も良好になっていったそうです。
また、三浦氏は月次の会議で社員にすべて見せているのだそうです。「経理の情報共有をせずに危機感だけ伝えても、経営者が期待したいものが社員の中に生まれるとは思えません。」と三浦氏は言います。実際に経理に関する情報を公開したことで、社員それぞれが経営に参画する意識が芽生え、社内の空気が変わって会社に一体感が生まれたそうです。
顧客管理システムの導入により、お客様と関係を可視化
個でなく会社としての対応へ
よくある話ですが、「会社にお客様がつくのではなく、人にお客様がつく」ということがあると思います。そうした場合、担当の従業員がいる時はすぐにお客様の対応ができるものの、担当者が他の現場に行っていたりお休みだったりすると、誰にも対応ができないといった問題が起こることがあります。そうした時にでも、会社としてスムーズにお客様の対応ができるようにしたい。そんな想いから、同社では「顧客管理システム」を導入されています。
「顧客管理システム」でお客様の情報を一元的に把握しておいて(たとえば家族構成、年齢、次の法事、ご提案している見積などの情報など)、いつでも社員が閲覧できるようにしています。そうすることで、担当の社員が不在でも、お客様への対応を進めることができます。三浦氏は「最近では顧客管理システムと電話を連携させて、お客様から電話がかかってきたときに、自動的にその方の情報がパソコン上にポンと閲覧できるようなところまでできるようなので、そういうシステムの導入も検討していきたい」と語っていました。
まとめ
取材を通じて、三浦氏は社長就任後、経営理念を明確化することからはじめて、社員との関わり方、税理士との関わり方、お客様との関わり方を変えてこられたように感じました。企業の進むべき方向を明確にした上で、財務や経理の守りを固めること。社員の働き方改革に正面から向き合い、社員の“納得”を前提に進めること。お客様との関わり方も、社会の変化に合わせてペット葬、合同葬などの新しい形を模索しながら、顧客管理システムなど現代ならではツールを使いこなし、お客様とのサービスを向上させていく。お客様起点で、お客様の体験や価値を向上させていくために何ができるか徹底されている印象を持ちました。
記事にまとめてしまうとさらっと取り組んでいったような印象になってしまいますが、三浦氏が語られる様子からはその時々での様々な苦労がうかがい知れました。葬儀業という地域に密着している企業で、10年で約2割も人口減少する環境の中、三浦氏のように事業を拡大させていくお話しには感服させられるばかりでした。今回の記事で取り上げているような経営の取り組みは、他の中小企業でも取り組もうとされている事が多いと思います。
最後に、私から三浦氏に「これからどんな会社を目指したいですか?」と伺った際に、「もっともっと地域の課題を解決できる会社になりたい。目指す会社の姿は、この地域の親御さんに(うちに会社に入ったら)良い会社に入れたねって言ってもらえるような会社にしたい」と語っていた姿も印象的でした。