スモールサンニュース大澤徳の“現場レポート”

「秋田県五城目町にみる地方創生のヒント:
面白さドリブンから生まれる持続可能な地域への道」

はじめに

秋田県五城目町。人口約7500人(2024年9月現在)、高齢化率は約47%と、小規模自治体で高齢化が進んでいる地域です。しかし、そんな五城目町では、500年以上の歴史を誇る朝市をはじめ、2015年にグッドデザイン賞を受賞したシェアビレッジ町村、廃校利用で全国的にも注目を集める地域活性化支援センター(BABAME BASE)など、移住者が集まり、地域外から企業を誘致するなど、注目を集めています。

そんな五城目をスモールサン人財育成プロデューサーでゼミAKITAのプロデューサーでもある竹内氏にご案内いただきました。竹内氏は神奈川県出身ですが、スモールサンゼミAKITAの担当になったことをきっかけに家族全員で秋田に移住。現在は五城目町の廃校を活用した「五城目町地域活性化支援センター(BABAME BASE)」にオフィスを構えています。

かつての五城目町は農業や林業を中心に栄えていましたが、地場産業は衰退しています。そのような若年層向けの魅力的な雇用を生み出すのが難しい状況の中で、五城目町はどのように関係人口を増やし、若年層に注目されているのでしょうか?五城目の魅力や地域活性化の取り組みについて探ります。

「関係人口」とは
 「関係人口」とは、移住した「定住人口」でもなく、観光に来た「交流人口」でもない、地域や地域の人々と多様に関わる人々のことを指します。
  地方圏は、人口減少・高齢化により、地域づくりの担い手不足という課題に直面していますが、地域によっては若者を中心に、変化を生み出す人材が地域に入り始めており、「関係人口」と呼ばれる地域外の人材が地域づくりの担い手となることが期待されています。
総務省Webサイトより引用

五城目町の場所

 秋田県五城目町は、秋田空港から車で約1時間。秋田駅から車で約30分の場所にあります。決して交通の便がいいとはいえない地域に、なぜ多くの人が惹きつけられるのでしょうか??



530年以上続く「五城目町朝市」 
多いときには4千人以上の買い物客でにぎわう


1495年にはじまり500年以上続く五城目朝市という、町の中心部の通り沿いに多くの人が集まり露店を開く伝統があります。曜日に関係なく、毎月2、5、7、0のつく日に開催され、地元の野菜や魚、果物、そして、きのこや山菜などのお店がずらりと並ぶそうです。

朝市開催日が日曜にあたる日には「ごじょうめ朝市plus+(プラス)」が開催されます。この日ばかりは町内・町外の方でも許可さえおりれば誰でも自由な形で出店でき、従来の朝市に加えてバラエティに富んだお菓子や雑貨、おもちゃなどの楽しいお店も並び、若い人や子供たちも集まり賑わうといいます。出展料も数百円とリーズナブルだそうです。

その「朝市plus+」開催日に合わせて、様々な企画も用意されています。
「きもので朝市さんぽ」という企画では、貸衣装から着付けまでの全てを500円のワンコインでやってくれる、リーズナブルに非日常を体験できる素敵な取り組みが行われます。
また、季節によって「山菜まつり」「きのこ祭り」などが開催されます。夏は「浴衣de朝ぷら」、秋は「仮装de朝ぷら」。仮装大会はけっこう本格的なイベントと地元の方も楽しそうにお話しされていました。
多いときには、4千人以上の買い物客が訪れ、若者、子育て世代、地元の方々も皆で楽しめるイベントになっているようです。



Instagram ごじょうめ朝市わくわく盛り上げ隊
過去の朝市の様子


「田舎暮らし」をシェアするシェアビレッジ
 年貢(年会費)を支払えば誰でも村人になれる


(古民家「シェアビレッジ町村」)

シェアビレッジは、築100年以上経ち解体予定だった茅葺きの古民家を村に見立て、地域内外の人が年貢(年会費)を支払って、皆で古民家の維持を目指すプロジェクトです。また、住民票のあるなしに関わらず、年貢(年会費)を支払うことで、村民(会員)になり、地域コミュニティを拡張するという取り組み。村民(会員)は古民家に宿泊できるほか、地域活動にも参加できる。
シェアビレッジプロジェクトがスタートした2015年当時は、関係人口という言葉がまだ浸透しておらず、様々なメディアで取り上げられていました。


以前から、集落の住民が集まる集会所だった場所を、現在はシェアビレッジとして運営されています。
村民(会員)が増えたきっかけは、クラウドファンディング。3000円から参加できるハードルの低さもあってか、800人以上から約600万円集まりました。



廃校をシェアオフィスに 土着ベンチャー挑戦の場に


「BABAME BASE(ババメベース)」と名付けられた建物は、元々は2000年に竣工された馬場目小学校の校舎として利用されていました。現在は、地域資源を活用した土着ベンチャーの挑戦の場になってほしいという願いのもと、シェアオフィスとして活用されています。その取り組みを参考にしたいと全国各地から視察者が訪れる施設です。
地方創生の文脈で大企業の工場誘致などを目指すのは時々耳にしますが、小規模でも多様な挑戦者(企業・起業家)を集めて応援する、というのは珍しいように思います。

建物は、地元産の木材をふんだんに使用した木造2階建です。元が学校なので体育館やグラウンドもあり、事業利用や企業の福利厚生などに活用されています。多目的空間を贅沢に活用し、様々なイベント等も行われてきました。私が訪れたタイミングでは、アートのイベントなども行われていました。

入居企業は美容室やドローンの学校、大学の先生の研究室、秋田大学医学部、デザイナーなど多様な方々が活用されています。最先端の技術や大量の資本投下を前提とするような、いわゆるベンチャーやスタートアップというよりは、地域の中にある「丁寧な生き方や暮らし方の視点で挑戦する」という、いってみれば田舎ならではの起業スタイルを志向しているようです。


(引用:令和5年 総務省 過疎問題懇談会資料)


入居企業それぞれが面白い取り組みに挑戦されていますが、特に面白いと感じたのがBABAME BASE内にあるレストラン「ポコポコキッチン」でしか使えない独自通貨「ポコポコ」という仕組みです。例えば、収穫した野菜や山菜を「ポコポコキッチン」におすそ分したら、円ではなく独自通貨「ポコポコ」をもらえるという仕組み。互いの顔が見える距離感で、お金ではなく「ポコポコ」を通じて、心地よく物々交換できる仕組みになっています。
大人が自分の所有する「ポコポコ」を寄付し、子どもたちが寄付された「ポコポコ」を使って飲み物に交換できるという仕組みもあります。


独自通貨「ポコポコ」。紙でできた手作り感のある手触り。

ポコポコキッチン メニュー 日本円よりポコポコのほうが通貨価値が高い設定になっている

ポコポコキッチン店内の様子


五城目町地域活性化支援センター Googleマップ
五城目地域活性化支援センター 公式ウェブサイト


2024年開業 森山ビレッジ
地域資源×デジタル×コミュニティによる新しい集落を目指して

田舎で家を見つけようと思っても、なかなか難しい事もあります。せっかく田舎に住むならアパートじゃなくて戸建てがいいと思っても、借りられる戸建てがなかったり、空き家は沢山あっても知らない人には貸してくれないことも多い。そもそも不動産仲介業や不動産管理業を営んでる方がいなかったりもします。
せっかく関係人口が増えて、2拠点居住や多拠点居住をしようかと検討しても、住まいを見つける難しさに直面することも多いのです。

そんな課題に対応するために、「森山ビレッジ」は建てられました。森山は、五城目町にある山で標高325メートルと低いものの、周囲が平地なので五城目町のシンボルとして親しまれている山です。「森山ビレッジ」はその麓にあります。


森山ビレッジ

森山ビレッジ 部屋の様子


森山ビレッジは、長屋のように5棟が連なった住宅で、入居している5世帯が出資して作った合同会社(LLC)が所有しています。5世帯のうち3世帯は2拠点生活の居住地としており、2世帯分は空いています。空いている2世帯分については、移住を検討してる方向けに週単位や月単位で貸したり、1棟貸しの宿泊施設で貸し出したりしています。いってみれば、ホテルにもなるし、ウィークリーマンションとしても貸し出したりすることのできる施設になっているようです。
宿泊や賃貸で貸し出した収益をLLCが借り入れた資金の返済や出資分の回収に充てることを意図した新しい仕組みです。

下記のサイトより一般の方も予約できます。
森山ビレッジ 予約サイト



森山ビレッジの建築については、地元産のスギを使い、切り出し、製材、加工も地元で行うことで半径30km以内で完結させています。これが可能になったのは、デジタルファブリケーション(デジタルデータに基づいて3Dプリンターやレーザーカッターなどのデジタル工作機械で造形する技術)を用いたからだといいます。木工版3Dプリンターのような木材加工機で、プログラミングソフトで計算したとおりに加工機が切削するのだそうです。
木材調達において、通常よりも通る業者の数を少なくすることで、木を切り出した山の所有者らに還元できる利益も大きくなり、地元の応援にもつながるという仕組みです。

普通であれば、家を建てるのも工務店にお願いするところですが、森山ビレッジは地域の皆で手伝いながら建てたそうです。

実際に家の中に入ってみると、壁の厚さもしっかりしていて、断熱効果が高く、夏も冬も快適に過ごせるようにできています。新しいのだけれど、どこか古民家の雰囲気もある静かな落ちついた空間でした。


最後に

秋田県五城目町は人口減少と高齢化が進んでいる典型的な地方都市でありながら、地域資源を活かしたユニークな取り組みによって、若者からも注目を集めています。今回の記事では取り上げられませんでしたが、東京などから五城目町へ教育留学の仕組みがあったり、青年海外協力隊に選ばれた方が海外に派遣される前に五城目町で研修を受けたり、日本酒の酒蔵発のカフェや新しい宿、地域に溶け込むコミュニティドクターなど様々な取り組みが行われていて、五城目町から東京や海外、そしていろいろな分野と繋がる、混ざり合うチャンスの多い場所だと感じました。
人口減少を考えるとき、いきなり移住者の人数を増やすことを考えがちですが、五城目町では、まず関係人口を増やし、その中で少しずつ移住することを検討したくなる人が増えていく、そんな流れがあるように感じました。
地域活性化や地方創生というと、行政が箱物やランドマークを作る、工場誘致するというようにお金を使って賑わいを創出することを狙うケースが多いように思います。一方で五城目町はそのような順番とは真逆で、いろいろな企画があって、そこに人が集まり、賑わいを作って、お金が動くという流れに見えます。

また、今回の取材で五城目町の方々とお話してみて印象的だったのは、「地域課題を解決しよう!」「なんとかしないと!」など課題解決のために動くというよりは、「自分たちの生活をより良くしよう!」「面白くしよう!」という遊びや知的好奇心ドリブンな雰囲気の方が多かったことです。
五城目町でなにやら面白い事が起きてるらしい、というのは様々なメディアで目にしていましたが、実際に五城目町に行って、様々な方々とお話してみないとわからない空気感がありました。
もし、ご興味があれば、百聞は一見に如かず。五城目町へ、ぜひ一度足を運んでみてください。

【参考記事】
三井不動産 2023年12月27日
【秋田県五城目町】住民から生まれた「コモンズ」と「地域経済」の意外な関係

五城目町役場 “暮らす”を知る 竹内健二プロフィール
BABAME BASE 秋田県五城目の廃校活用したシェアオフィス。地域に根ざした「土着ベンチャー」挑戦の源
デジタル民家がつくり出す21世紀の原風景 ──VUILD秋吉浩気と丑田俊輔対談
平成31年3月31日 広報「ごじょうめ」1016号
秋田魁新報社 2024.4.11 朝市プラス、五城目町内外から多くの人 山菜販売、人気集める
五城目町 朝市に出店してみませんか?
秋田大学医学部附属病院総合診療医センター湖東分室
デジタル民家がつくり出す21世紀の原風景


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