スモールサンニュース大澤徳の“現場レポート”

「中小企業の事業承継について」

 地域経済や雇用において、重要な役割を果たしている中小企業が、直面しているのが事業承継問題です。経営者の高齢化により、事業承継か、自主廃業か悩んでいる企業も多いと聞きます。2033年時点での休廃業・解散企業数は約6万件に迫り、日本政策金融公庫の調査によれば、約6割の企業が廃業を予定してるというアンケート結果もあります。
 事業承継で休廃業が増えることが懸念される一方で、事業承継で困っている企業に対しM&Aなどの方法で自社との連携や協力関係を深め、売上増加や機能強化につなげられる可能性が拡がっているとも言えます。今回のニュースでは最近の事業承継をめぐる状況について共有させていただきます。

中小企業経営者の年齢 70代は過去最高、とはいえ50代前半をピークに分散

 中小企業経営者が事業承継を検討されるタイミングについて考える上で、経営者の年齢は重要な要素だと考えられます。
 下記の画像は、中小企業の経営者年齢の分布を表しています。



 2000年時点の経営者年齢の最も多い層は「50~54歳」でしたが、5年経過するごとに高齢化し、2015年時点では「65~69歳」が最も多い層となっています。しかし、2023 年になると「55~59 歳」をピークとして、経営者の年齢が各世代で分散している状況になってきています。経営者年齢が平準化していることが分かります。一方で、2023年時点では経営者の年齢が70歳以上である企業の割合は2000 年以降で最高となっていることから、事業承継が必要となる企業は依然として相当程度存在していることもわかります。
 ちなみに、2000年以降のどの時点をとってみても、30代以下の経営者は経営者全体の10%以下であり、かなり珍しい存在といえると思います。


後継者不在率は低下傾向だが、約半数の企業が後継者不在

 中小企業の後継者不在率は、2018 年から減少傾向にあります。とはいえ、2023年時点でも半数近くの企業で後継者が不在となっています。経営者の年代別に後継者不在率をみると、60代で約4割、70代で約3割、80代以上になると約23%と、年代が上がっていくとともに後継者不在率が低くなっていることが分かります。いってみれば当たり前の事ですが、経営者自身が事業承継を検討するのは、経営者自身の年齢が高まることが承継の重要な要素になっていると思われます。



事業承継相手に変化 同族承継よりも内部昇格、社員への承継やM&Aが増加


 では、事業承継では誰に承継させているのかというと、一般的には中小企業の事業承継というと、長男や長女など「同族承継」に継がせることをイメージされる方が多いと思います。ところが、2023年には、前経営者からみて誰が次の社長になるか、就任経緯についての調査結果によると、中小企業で働いている、血縁関係のない従業員や役員など「内部昇格」が35.5%で、初めて「同族承継」33.1%よりも多い結果になりました。今後の動き次第ですが、中小企業の事業承継における「脱ファミリー」化がはじまっている、もしかしたら加速しているといえるかもしれません。
 ほかにも注目したいのは、「M&Aほか」が20.3%、「外部招聘」が7.2%と、親族外承継の割合が一定数存在することです。これまでの事業承継のように親族や社内(内部昇格)にこだわらず、社外の第三者を中小企業の経営に招き入れる傾向が強まっています。
 中小企業経営者の中で、事業承継におけるM&Aがもっと一般的になってくれば、譲りたい会社にとっても、譲り受けたい会社にとっても、ハードルが低くなっていくと思います。M&Aというと、敵対的買収やマネーゲームのような悪いイメージのM&Aではなく、あくまで今後経営していく上で、M&Aは有効な手段なんだ、ということが拡がっていって欲しいと願っています。
(とはいえ、現在の中小企業を巡るM&Aの状況で、いろいろ問題があるようにも感じてるので、様々な規制や透明化を実施していく必要があるとも思っています)

事業承継をM&Aで解決狙う事例 スタジオジブリ 日テレの子会社へ

 スタジオジブリの日本テレビの子会社になり、事業承継の解決を狙う事例は、中小企業からみると、大企業の事例として捉えられるかもしれません。(実際、両者とも大企業です)しかし、スタジオジブリのアニメは多くの人々に親しまれており、身近に感じられやすいと考え、本事例を紹介させていただきたく思います。今さら解説も不要かと思いますが、スタジオジブリは、「となりのトトロ」や「千と千尋の神隠し」などの長編アニメで世界的に有名な企業です。
 スタジオジブリが2023年9月に日本テレビの子会社になることが発表されました。

 スタジオジブリの説明によれば「監督の宮崎駿は82歳、プロデューサーの鈴木敏夫も75歳となり、長らく悩んできた後継者問題がありました。これまで、スタジオジブリを受け継ぐ者として、創業者である宮崎駿監督の長男であり、自らもアニメーション映画監督である宮崎吾朗の名前が何度か候補に上がってきました。」とのこと。
 やはり、経営者が年齢を重ねることで、事業承継についての悩みも具体的になるようです。

 しかし、宮崎吾朗氏は「一人でジブリを背負うことは難しい、会社の将来については他に任せた方が良い」との考えから、後継者の役割を固辞してきましたと報道されています。

 このような状況を受け、スタジオジブリでは経営を誰かに任せることができないかと、その候補を巡って様々な検討が行われました。その結果、長年にわたり親しく付き合いのあった日本テレビとの間で話し合いが始まり、最終的にスタジオジブリが日本テレビの子会社となるに至ったそうです。

 日本テレビ側は「スタジオジブリの自主性を尊重し、スタジオジブリは今後ともアニメーション映画の制作、ならびにジブリ美術館、ジブリパークの運営に専念していく所存です。皆様におかれましては、新生スタジオジブリの活動をこれまで以上にご支援いただきますよう、よろしくお願いいたします」とコメントしています。

 これらの事例をみると、下記の様な流れで物事が進んでるように捉えられます。
①    経営者が年齢を重ね、事業承継について具体的に検討する
②    社内、同族承継を検討するも、承継の見通したたない
③    旧知の信頼できる企業への相談する
④    自主性を保った上での売却を決定する
⑤    第三者も交えて新たなチャレンジを模索する

 今後の日本テレビの子会社になったスタジオジブリがどのような動きをしていくのか、興味あります。

 補足ですが、過去に日本テレビが買収したアニメスタジオに、サマーウォーズなどで知られる「マッドハウス」があります。2011年2月に買収が発表されましたが、2ヶ月後の2011年4月にはマッドハウスの細田監督が独立して自信のアニメ制作会社を立ち上げた経緯があります。アニメ制作会社は、会社という「箱」を買っても、中の有力なクリエイターが買収後に流出してしまうと、ただの箱になってしまいます。このM&Aが日本テレビ側の想定通りの成果を上げたとは言い難いように感じています。
 一方で、買収後2ヶ月で主要なクリエイターが流出するような背景には何があったのか?と疑問にも感じます。大企業でのM&Aに関しては、調べればこのような情報が容易に手に入ります。しかい、中小企業のM&Aに関する情報は、その過程や対応が見えにくいことが多いです。第三者への承継を検討する企業にとって、信頼できるパートナーとの提携や売却は有効な解決策となり得ますが、難しさもあります。

後継者決定後のフォロー・サポート体制の重要性

 上のスタジオジブリのケースでもそうでしたが、後継者問題は以前から経営課題として認識されていたものの、「後継者育成」や、後継候補者が承継に消極的ために頓挫し、承継完了前に事業承継を断念するケースもあります。

 まだ、あまり議論されていませんが、現経営者が後継候補に対して能力面や素質面で懸念を持ち、事業承継に消極的なケースや、後継候補が事業承継を断るケース、さらにはその両方が発生するケースも見聞きします。このような、事業承継に関わる当事者間で「認識の差=ミスマッチング」の問題が顕在化しつつあります。

 これからは事業承継中の事故的なトラブルや問題発生による「諦め」や「事業承継の中断」の予防・防止に向けた取り組みも重要になる思います。私個人的には、先代経営者とある程度距離を確保した上で、信頼できる第三者を通じた承継候補者向けのフォロー・サポート体制の充実が拡充していくべきだと考えています。

 実際に事業承継支援には一定のニーズがあると思われます。日本政策金融公庫が2023年に実施したアンケートによれば、事業承継に向けた経営状況・経営課題の把握については、「決定企業」の3.4%、「未定企業」の2.5%が、外部機関や専門家などから「すでに支援を受けている」と回答している。また、「将来支援を受けたい」との回答も、それぞれ15.6%、19.7%みられた。



事業承継は財産承継だけじゃない!


 中小企業基盤整備機構が発行する令和6年度版「小企業経営者のための事業承継対策」には、「事業承継とは、“現経営者から後継者へ事業のバトンタッチ”を行うことですが、企業がこれまで培ってきたさまざまな財産(人・物・金・知的資産)を上手 に引き継ぎ、承継後の経営を安定させるために重要です。」と書かれています。
 色々な方と、事業承継関連のお話をすると、財産承継の議論はたくさんありますし、「事業承継=相続対策」と見られがちです。しかし、相続対策は事業承継の取り組みの一部に過ぎません。



 「事業承継のことは税理士に任せているから大丈夫!」と思い込むのは適切ではありません。取引先との関係の維持や技術・ノウハウの承継などの目に見えにくい経営資源(知的資産)の承継も重要なポイントです。ほかにも個人保証の問題など、様々な承継すべき内容があると思います。
 まずは、現経営者と後継候補が互いに理解を深めるために「見える化」が重要なのではないかと思っています。「見える化」した上で、現経営者(先代)の“コダワリ”を引継ぎ、後継候補が実現したい会社や未来づくりに先代も協力していく姿勢が円滑な事業承継に繋がると思います。


おわりに

 「事業承継で悩んでる」という企業は多いと思います。まずは後継の候補者をどうするのか、親族か社内か、それとも、第三者を検討するのかという段階でのお悩みもあるでしょう。もしくは後継候補はいるものの、後継候補への教育やスケジュール様々な検討をすすめている段階かもしれません。
 もしくは、後継候補の立場で、事業承継を進める中で、様々な経営変革に挑むものの、社内外からの反対が多く苦労しているという意見もあるかもしれません。経営革新に挑む前段階で、後継候補が古参からの幹部・社員との関係性をどうやって上手く構築していくのか、などで悩んでいるかもしれません。事業承継に関するテーマも様々です。
 今回の記事では、①後継者不在率が低下傾向にあること②後継候補が、親族だけではなく、内部昇格や第三者への承継M&Aが増えていることをご紹介しました。また、事業承継を単なる財産承継と捉える事の危うさについても書きました。
 中小企業の事業承継問題は、個々の企業にとっては2つの側面を持っています。1つは、自社の承継をどうするのか、もう1つは、他社の承継問題を自社のビジネスの成長や発展の機会として捉えるのか、という視点です。
 従業員の立場からみると、事業承継問題は雇用とつながってきます。2023年には中小企業が休廃業した雇用(正社員)は約8万人ともいわれています。転職される方も多いと思いますので、全ての方が失業したわけではないと思いますが、中小企業の休廃業をきっかけに転職を迫られた方が増えていると思うと、生活が大きく変化した方も相当数いらっしゃるのではないかと想像します。

 社会的に事業承継の取り組みや支援策が拡がり、各地の中小企業が円滑に事業承継されていくことを願っています。


<参考文献>
2024.1.12 帝国データバンク「全国企業『休廃業・解散」動向調査(2023)」

2024.1.15 東京商工リサーチ「2023年の「休廃業・解散」過去最多の4.97万件、赤字率は過去最悪、倒産増で「退出企業」も過去最多」 

2011.2.8 ITmediaNEWS「アニメ制作のマッドハウス、日テレが子会社化」 

2023.9.21 日本テレビ「日本テレビによるスタジオジブリの株式取得に関するお知らせ」 

中小企業基盤整備機構 令和6年度版 中小企業経営者のための事業承継対策

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