スモールサンニュース大澤徳の“現場レポート”

「松阪市中小企業ハンズオン支援事業」


明けましておめでとうございます。
本年もスモールサンは中小企業が激動の時代を生き残っていくための柔軟で強靭な会社づくりをお手伝いして参ります。
皆さま本年も何卒よろしくお願いいたします。

さて、2024年最初の別刊ニュースでは、昨年三重県松阪市で実施された「中小企業ハンズオン支援事業」についてご紹介したいと思います。
市が一社に対して伴走するように支援するハンズオン支援とはどのようなものなのか?
インタビュー形式でお届けします!

ハンズオン支援事業とは?

山口:まず、ハンズオン支援事業というのはどういうものなんでしょう?

大澤:松阪市が中小企業支援政策の一つとして平成29年度から行っているのが「中小企業ハンズオン支援事業」です。中小企業が抱えるさまざまな課題の中でも、商品開発力、販路開拓・営業力の強化といった喫緊の課題を解決するためには、画一的な支援ではなく企業の現場に即したきめ細かな支援が必要です。そこで、松阪市が市内の中小企業一社に寄り添い、新たなサービスの創出、サービス提供プロセスの改善、マーケティングから販売戦略の構築や販売促進まで、切れ目なく伴走支援することで企業経営力の向上をめざすという支援事業です。

山口:なるほど、だから「ハンズオン」なんですね。

大澤:ハンズオンというのは元々「手を触れる」「手を置く」といった意味で、M&Aや投資、コンサルティングを行う企業の経営に深く関与することを表します。単に何かを教えて終わり、分析して終わりということではなく、その企業と伴走するようにヒトやモノ、機会などを切れ目なく支援するのが松阪市のハンズオン支援事業です。スモールサンではこの支援事業を平成29年のスタート時からお手伝いしていて、市が選出した企業をスモールサンで支援させていただいています。

山口:今年でもう6年目なんですね。1年に1社という感じですか?


大澤:そうですね。コロナ禍の時はそれまでとは異なる特別な支援方法ということで1社ではなかったんですが、基本的には1年に1社で支援していますね。
日曜大学でご存知の方もいるかと思いますが、松坂の三重化学工業さんは初年度の支援事業者です。松阪市を拠点に作業用手袋や保冷剤、氷枕などを製造している企業で、OEM等でかなりのシェアを持っているにもかかわらず、当時地元でもなかなか知名度がなくて…という状況でした。そこで、地域の中核企業だということをもっとPRしていった方が、従業員の働きがいにもつながるだろうし、今後の人材を採用する上でも役に立つだろうし、これから地域の企業として何ができるかを考える上でも、単なるBtoBではなくもっと顧客の方に近付いていった方がいいんじゃないかという話をしました。

山口:BtoBとBtoCって発信の仕方とか発信する方向性とかも全然違うので、そこで戸惑われる企業さんも多いですよね。

大澤:BtoBでは企業に対してスペックや価格などをどう打ち出していくかというところが焦点になりますが、BtoCではその商品がどういうもので、どういう魅力があって、どうやって使うものなのかといったことを発信する必要があります。三重化学工業さんは保冷剤や手袋をつくるのが得意な会社なので、スポーツ選手を指導しているような整骨院とコラボして、捻挫や打撲などで指や関節など患部にちょうどぴたっとフィットして冷やせるような商品を開発したり、その後も社内だけにとどまらない会社の枠を越えた広範な人材を活用して多様なアイデアを集約するためのプラットフォームとして「ミエラボ」を立ち上げたり、今では様々なメディアで取り上げられるようになっていてとても上手に情報発信をされていますよね。

ハンズオン支援事業はどのよう進む?

山口:それにしても、1社に絞って重点的に支援するというのが凄いですよね。

大澤:例えば300万円で支援するとして、それを10社で分けると1社30万ですよね。じゃあ30万もらったからといって何をやれるんだという話ですが、1社を300万円で支援するのであれば様々な専門家に力を借りたり展示会に出展したりと色んなことにお金を使えます。ただ、その1社を選ぶというのが難しいですよね。

山口:そうですよね。何でその企業なのかとか、色々と言われそうです。

大澤:なので、ハンズオン支援事業って全て公開されているんですよ。松阪市の行政の施設で一般の方でも入場できる公開審査会を実施して、誰でも見れるような状態で応募企業がプレゼンし、事業の必要性・妥当性・実現性・財務の健全性・期待される効果という5つを審査の基準として、審査員が1事業者を選定して事業採択します。審査員による点数も全て公開されています。

山口:審査員はどういった人がするんですか?

大澤:基本的に役所の人間ではなく、三重大学の教授や中小企業支援の専門家といった第三者が毎年審査員をされていますね。当然私たちも支援事業者を選ぶところには全くタッチしていないので、公開審査で支援する企業が決まってから、スモールサンでの支援が始まるという仕組みになっています。そして支援を受けた後には、公開報告会が実施されて、どのような取り組みをしてどのような効果があり、今後さらにどのような課題があるかといった報告が行われます。

山口:なるほど、たった1社への支援だからこそ、全てをクリアに公正に実施されているんですね。

今年度の支援事業者、有限会社深緑茶房

山口:今年度は6月に公開審査会があり、有限会社深緑茶房というお茶屋さんに決まったそうですね。



大澤:はい。深緑茶房さんは、自社の茶畑で収穫した茶葉を自ら店舗にて販売されている茶屋さんで、過去には国内最高峰の「天皇杯」や「農林水産大臣賞」を受賞するなど、国内での評価も高く、世界基準の農業生産管理承認「ASIAGAP」を取得するなど安全性の確保にも積極的に取り組まれている企業です。

山口:凄い企業さんですね。でも、松坂のお茶ってあまりイメージがないような…。

大澤:そうなんですよね。でも、実際には三重県はお茶の栽培面積と生産量が全国第3位というお茶処なんですよ。松阪茶は鎌倉時代から続く歴史があり、深緑茶房さんのある松阪市飯南・飯高地域は、自然環境がお茶に適した最高の場所で、最高級の深蒸し煎茶が作られているんだそうです。

山口:それは知らなかったです!

大澤:深緑茶房さんの問題意識もまさにそこで、松阪牛に次ぐ基幹産業であるにもかかわらず「松阪茶」の知名度が低いこと。県外で販売する際には、三重県産のお茶である「伊勢茶」の方を前面に出す傾向にあるんだそうです。

山口:うーん。確かに松阪牛は知っていても松阪茶は知られていない、となると「伊勢茶」というブランドを前に出した方が売りやすいということですね。

大澤:また、生産者の減少も大きな課題です。かつてR166 (国道166号線)沿いに400軒あったお茶農家が今では20件弱にまで減少しているんだそうです。過疎化による人口減少と生産者の高齢化、そして一番茶の卸価格の下落によりお茶で生活する難しさから後継者を育てることができず茶畑がどんどん荒れていき地域の景観が失われていくという悪循環。また、生産農家は自分が製造したお茶が一番という自信を持っている。それ自体は良いことですが、その自信から単独での販売が主となり展開を拡げるにも限界がある。このままで果たして地域自体がお茶の生産地として維持できるのか。深緑茶房さんはそういった問題意識から、同じR166沿いで茶農家で店舗を構えている4社と協力し合い松阪茶の認知度を上げる看板商品の開発をして、松阪茶というものをブランド化して発信していこうという取り組みで今年度のハンズオン支援事業に応募し採択されました。


地域商品のブランディングをサポート

山口:支援事業者が深緑茶房さんに決まってから、スモールサンでどのようにサポートをしたんですか?

大澤:勿論スモールサンとしては、お茶のつくり方やお茶の味どうこうという支援はできません。ですが、販路の開拓だったりブランディングという方向でしたら可能です。

山口:ブランディングプロデューサーの安藤竜二氏ですね。地元である三河・岡崎で「地域を世界に発信する」をテーマにした「サムライ日本プロジェクト」を立ち上げ、お味噌や蝋燭、かりんとうなど様々な地域商品のブランディングを実践し、中小企業や地域ブランディングの専門家として数多くの実績のある方です。

大澤:その安藤プロデューサーにご協力いただいて、地域のお茶「松阪茶」をブランディングしていくための支援を行いました。安藤さんに何回かにわたって勉強会をしてもらって、「地域ブランド」というものの考え方だったり、情報発信の仕方だったりというところをレクチャーいただきました。私も安藤さんと一緒に何度も松阪へ行って実際に茶畑を見せていただいて、皆さんがどのようにお茶を生産されているのかとか、生産者としてのこだわりや地域の歴史であったり、色々なお話を聞かせていただきました。

山口:ちょうど真夏でしたので大変そうでしたね。

大澤:真っ黒になりました(笑)。淹れたてのお茶も試飲させていただいて、とても美味しかったです。そうやって何度も現地へ行かせていただいている中で、やっぱり安藤さんが真摯に農家さんの話を聞かれているのはすごく印象的でしたね。しっかり現場のことを見ていらっしゃるのがとても勉強になりました。

山口:外側からただノウハウや知識を教えるのではなく、ちゃんと現地でその商品がどのように作られているのかを見て、ブランディングのために何をどう発信していくべきなのかといったアドバイスをされているんですね。

大澤:
茶農家の方たちも自分たちの松阪茶にこだわりと自信をしっかり持たれていて、今回の取り組みへの熱意をすごく感じました。



「R166のお茶巡り松阪ブレンド」開発!


山口:実際に今回の看板商品となるものはできたのでしょうか?

大澤:はい。それが有限会社深緑茶房、茶来まつさか株式会社、有限会社ヤマキ高橋製茶園、有限会社茶工房・かはだというR166沿いにある4つの茶農家による松阪茶のブレンド「R166のお茶巡り松阪ブレンド」です。飲みやすいティーバッグになっていて、まろやかでコクのある深蒸し煎茶を楽しむことができます。

山口:このR166というのは国道166号線(和歌山街道)で、江戸時代に紀州藩の本城と東の領地松阪城を結ぶ街道として、伊勢参宮や熊野詣、吉野詣の巡礼道、または大和地方への交易路として栄えた街道なんですね。

大澤:この4つの茶農家は普段はそれぞれ自分達のお茶を作っているので、そのブレンド茶と各茶農家こだわりの深蒸し茶の5種をアソートセットにした「松阪のお茶 飲み比べセット」を深緑茶房さんのオンラインショップで購入することができます。また、昨年の12月15日から三重県内のマックスバリュ他48店舗で販売がスタートしました。「R166のお茶巡り松阪ブレンドのティーバッグ10個入り」の他に、各生産者それぞれの個性豊かな味の違いをしっかり感じられる「R166のお茶巡り一煎パック」、それらが一つになった「R166のお茶巡り (松阪茶アソートパック)5種類入り」が取り扱われています。

山口:飲み比べができるのってすごく良いですね!単純に味を楽しむだけでなく、それぞれの味やこだわりの違いを比較できる体験自体が楽しいです。

大澤:そうですよね。深蒸し茶というのは、煎茶を作る工程の一つである蒸しを通常の2〜3倍も長く時間をかけた製法で、茶葉に含まれる成分を抽出しやすくなるため、渋みが少なく、甘みがあり、まろやかさでコクが深いのが特徴だそうです。ブレンド茶は勿論ぜひ各農家さんの味の違いも味わってみてほしいです。

山口:まずは中部圏のスーパーでの販売ですが、今後のブランディングの展開もとても楽しみですね!


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