スモールサンニュース大澤徳の“現場レポート”

「中小企業の海外展開を考える」

コロナにより2020年春に海外との往来が制限されてきましたが、2023年5月からは海外との往来が活発になりコロナ前の状況に戻りつつあります。中小企業にとっても、海外とのビジネスに挑戦する機会も増えてきました。
そこで、本記事では、中小企業の海外展開について、中小企業の東南アジア進出をサポートされている株式会社アジアンマーケット企画代表の木林靖治氏にお話を伺いました。
木林氏は、「これから10年20年経営を続けるのなら、海外展開については避けて通れない」と話します。なぜ今中小企業に海外展開が必要なのか、また中小企業が海外展開にするためにどのような支援が必要なのか、木林氏が実際に海外展開を支援された事例などを伺います。


【株式会社アジアンマーケット企画代表 木林靖治氏プロフィール】
旧東京銀行(現三菱UFJ銀行)にて、大手輸出企業、大手流通などを担当、海外拠点人事、市場性商品の営業に従事。ロンドン、シンガポールにて勤務。特に1990年代はアセアン各国の日系企業への為替情報他サービス提供を行う。
銀行合併を契機に事業会社に転ずる。日本リロケーション(現リロ・ホールディング/東証一部:8876)の管理部門取締役として1999年同社株式公開を担当。同社子会社代表取締役、自動車部品卸のSPK株式公開(東証一部:7466)の執行役員東京支店長を経て2005年12月より2012年4月まで株式会社キンレイ代表取締役社長。


今、なぜ中小企業に海外展開が必要なのか?
〜国内の人口減少、アジアマーケットの拡大〜


大澤 そもそも、今なぜ中小企業に海外展開が重要なのでしょうか?

木林 まず何と言っても、日本の人口減少ですよね。今後日本は人口が8,000万人になるとも言われているわけです。これから世代交代を控えている企業からすると、1億2,000万から8,000万人を相手にしなきゃいけないっていうのは結構つらいですよね。国内では人口ボーナスを享受できる時代がもうないということで、これは東南アジアの状況との決定的な違いです。自分たちの競争環境をどう捉えていくかという時に、外部環境が圧倒的に違う国を見てもらうというのは重要なことなんじゃないかと思います。

大澤 すでに地方では人口が減って、元々取引していた市場が小さくなり、他地域に営業エリアを拡げることに取り組んでいる企業もありますよね。

木林 私が主に支援しているASEAN、東南アジア地域では、まだまだ人口が増えています。そして、そういったところで勝負できる日本の企業・商品もまだまだあるように思っています。

大澤 アジアの中でも高齢化が始まっているような国もありますが、まだまだ年齢的には若い国が多いですよね。

木林 少なくともこれから20年くらい経営を続ける人にとっては、海外展開についての検討は避けて通れない道だと申し上げたいです。特に地方の企業さんにはよく東京に進出したいとおっしゃる方がいますが、首都圏の競争環境と東南アジアのシンガポールとどこが違うか一度比べてみていただきたい。首都圏の方がよほど激戦区ですよ。

大澤 私もそれは同感です。

海外展開を希望する中小企業の課題
〜人材、情報、資金、限りある資本でどう展開するか〜

大澤 10年くらい前は、中小企業の海外展開というと「一世一代の大勝負」という感じで、かなりのリスクを背負って挑戦するイメージでした。最近では、外国籍の社員を雇ったり、インターネット通販を活用して市場調査を試みたり、海外の代理店と協力して海外販路を拡大したりと、以前にはなかったような様々な取り組みもちらほら聞かれるようになってきました。とはいえ、それでもまだまだ中小企業にとって海外展開はハードルが高いと感じられている方も多いように思います。

木林 特に人材ですね。中小企業ではグローバル人材というのは基本的にお持ちじゃないケースが多いですから。情報ソースもないし、後の資金調達をどうするかというファイナンスの課題もあります。

大澤 日頃から海外と取引していない中小企業にとってどれも難しい課題だと思います。

木林 そこで私たちは海外展開において中小企業で必ず出てくる課題について、個別企業さんの実状に対応して課題解決をするようにしています。私たちの事業を一般的に区分けすると「コンサルティング」といったジャンルに入ってしまうんですが、実態的にはもっと踏み込んだ形でお客様の海外ビジネスに関わっています。
例えば私たちは多様な情報ソースを持っていますので、お客様の持っていない情報ソースから必要な情報を持って来ることができます。これから海外へ出て行く企業に有効なツールとしてご活用いただきながら、一緒に考えて行くということをやっています。人材の問題は、大体の場合において社長自身は非常に海外への関心が高く、頻繁に海外にも行くなど経験や知識が社長の中にはため込まれている。その一方で、周囲にそれをフォローする人材がいないというのが多いケースだと思います。この人材の問題に早く見通しをつけることができるかが、その事業が上手くいくかどうかの大きな課題になります。現地の人材やマネジメントを一人で考えるのは大変なことですので、そこを補完してあげるというのが私たちの一つのテーマですね。
また、現地における金融制度は国によってかなり違うことも多いので、資金調達の問題についても考える必要があります。例えば最低資本金がいくらないと現地法人を作れないとか、ビジネス分野においては外国資本が大きな制約を受ける分野というのも存在します。そういった問題を解決しながら、資金調達をして現地法人を作らなくてはいけない。社長が一から勉強してやれるのが望ましいといえば望ましいんですけど、私たちが入ってあらかじめ適切な知識を提供することで、間違いなくかつ効率的にやれるようになります。

大澤 なるほど。コンサルティングのような部分的な支援ではなく、実際に伴走するハンズオンのような支援方法をとられているんですね。

木林 私たちは「進出のフルコミット」と言っているのですが、単に第三者として関わるのではなく、当事者として入らせていただいて、事業パートナーに近いような立ち位置でお客様の東南アジアへのビジネス展開を支援させていただいています。その他にも例えばM&Aといったこともやっていて、その企業体のサイズ感によってはクロスボーダーでM&Aをして、早めに拠点を作ってしまおうといった戦略もケースバイケースでお話することがあります。

外からのアイディア整理ではない“当事者”としての支援
〜支援事例 北海道のお菓子メーカー〜

大澤 実際にどのような支援事例があるのか教えていただけますか?

木林 オーソドックスなパターンですと、ちょうど今お菓子メーカーをお手伝いしています。北海道の企業で社長さんが割と早い段階から海外を見ていて、東南アジアに進出して現地で生産して現地で販売するということをオンゴーイングで進めています。北海道では中堅に近いのですが、全国的にはまだまだ中小企業の域を出ない従業員30名ぐらいの製造販売会社なので、如何せん社長以外に海外に触れたことのある人材がいない。それで社長一人でどうしようかという状態だったところに、当社から一人顧問で入ってお手伝いしています。

大澤 進出先はどちらの国なんですか?

木林 マレーシアなのでイスラム圏ですね。イスラム系は人口がこれからまだまだ増えるということと、中近東という大きな市場ながら他がまだ手を付けてないゾーンだということから、今回マレーシアに着目しました。北海道については私たちも投資ファンドを1件持っていますので、そちらからも少し資金を出して長期に渡ってご一緒するという建て付けを作りました。具体的に物を作って販売していかなきゃいけないので、その組立からずっとお手伝いさせてもらっています。

大澤 なるほど。

木林 具体的に何かを生産するとき、自分たちで作るのか、誰かに作ってもらうのかといった選択も一緒に検討しています。やはり最初から自社生産ということになるとかなりリスクが高くなるので、いい生産委託先があれば理想的ですよね。それでマレーシア投資庁というマレーシアに企業を誘致する組織があるので、そことも色々相談をして、生産委託できる良い企業がないか情報を集めました。そこから企業を選ぶにも機械的に選べばいいという訳にはいきません。本当にその企業でいいかどうかは、それなりに付き合わないと分かりませんので。それで私たちも一緒に相手とやり取りをさせてもらって、信用や商品の製造能力などを評価した上で生産委託を決めるといったプロセスをずっと一緒にさせてもらっています。そうして製造の方の目処が立てば、今度は作ったものを売る営業活動をしなくてはいけませんので、そちらのサポートもさせていただいています。

大澤 単に外からアイディアを整理するだけじゃなく、当事者として中に入って、実際に一緒に動かしているんですね。

中小企業でもトライできる海外展開を目指して
〜昔からのローカル企業との付き合い、シニア人材の活用〜

大澤 これだけしっかり支援してもらえるのは、中小企業としても有り難いと思います。ただ、これだけハンズオンで長期的にしっかり入っていただいてと考えると、逆に中小企業に払える費用なのか心配になってきます。

木林 私たちは東南アジアに自社の拠点を持っているわけではないんですよ。代わりに提携先をいくつか持っていて、ご支援する企業さんの様々な現地での困りごとに関しては、そういったところを使うようにしています。そういった点でも私たちのランニングコストはできるだけ抑えることができています。また、当社はシニア人材の活用を兼ねていまして、そうした人材は正直なところあまりお金が目的で仕事をしていないんですよ。

大澤 なるほど。

木林 私は以前金融機関の法人担当として東南アジアに駐在したりしていまして、銀行を離れた後は投資ファンドの運営の責任者をやっていて、金融で言うとちょっと違った分野でお手伝いしていました。その中で海外に進出させた投資先などもあって、そういった経験値を今のところで生かしていきたいと思っているんです。例えば現地の相手企業をゼロから探す場合に、私たちが最も自信を持っておすすめできるのは、やはり私たちが古くからお付き合いしているローカルの企業経由で紹介してもらった相手なんです。「こういう事業をやりたいって日本の企業がいるんだけど、そっちで関心持つ人っていないかな」と相談すると、「こいつだったらいいんじゃないか」と教えてくれて、そういった相手には大体間違いがありません。当社のメンバーは基本的に銀行員や商社で海外での駐在経験があり、それぞれの勤務経験地において既にローカル企業とのネットワークを持っているんです。この一番理想とするローカル企業経営者の紹介チャネルと、この会社を創ってから新たに探したチャネルと両方を使って支援をしています。結局社長の周りに動ける人がいないというのが多くの場合の問題で、そこで私たちのスキルや経験値を生かすことで、中小企業でも海外展開にトライできるようにしたいんです。ですので、びっくりするような顧問料をもらったりすることもありません。

大澤 それは安心しました。

木村 この経験や知識のバリューからすると費用としてはかなり安いと思います。よく社長には、新人社員並みではなくせめて課長クラスを払えるくらいには働いてくれるから払ってもいいんじゃない?という話をしています(笑)

選択肢を多く持つのがビジネスの「いろは」!海外でもそれは変わらない

大澤 逆に中小企業が海外展開するときに、陥りやすいパターンなどお聞きできますか?

木村 よくある事例ですと、やはり相手を見極められずに失敗するケースが多いですね。中小企業の経営者さんが「いい相手が見つかったよ」とおっしゃった時に、「どうやって見つけたんですか?」と聞いてみると、「たまたま知り合いから紹介されたんだよ」ということが結構あります。そして紹介してもらったという安心感からか、その相手が良いのか悪いのかという大事な判断が抜けていて失敗するケースが多いんですよ。相手が良くないというのには2種類あって、最初から悪意で騙しにきているパターンと、この事業をやるにはふさわしい相手じゃなかったというパターンのどちらかです。誰から紹介されたかも重要ですが、その相手自身に問題ないかもちゃんと判断しないと、この判断ミスは後々まで確実に影響します。日本人って割とそこを信じやすいんですが、選択肢を持つというのはビジネスにおける基本的な「いろは」なので、選択肢をある程度広げながら相手先を決めていくよう注意してアドバイスさせてもらっています。

大澤 日本国内でも新しく取引する場合、与信調査をしたり、その地域の経営者の噂話を聞いたりしながら新規開拓するものですが、東南アジアとかになると急にそれが緩んじゃうのかもしれないですね。

木村 なぜか緩むんですよね。

大澤 私も色んな経営者の方とお話していて、海外で現地の企業から褒められると嬉しくなって気持ちが緩んでしまう方って見たことがあるので注意が必要ですね。

木村 特に東南アジアは中華系の方が多いエリアなので、商売上手な人が多いんですよね。中国系のビジネスマンとやる時に注意するよう言われるのは、最初はウェルカムで「やるよやるよ」と言うんだけど実際は最後までやらないといったケース。そういう意味では最初の入り方がすっごく上手なんですよね。それに魅了されてしまう人が結構多いように思いますね。

大澤 なるほど。ありがとうございます。

まとめ

本記事の冒頭で木村氏が述べられたように、長期的な視点に立つと日本の人口が減少することや、海外展開への挑戦のハードルが下がってきたことを踏まえれば、日本国内だけでなく海外へと目を向けることは中小企業にとっても身近な選択肢になっていくと思います。

私の周辺でも、以前に比べて海外展開を考える中小企業は格段に増えたように感じています。まだまだ全体からみれば少数ですが、起業時点から日本だけを考えず、どうやって世界で展開するのか考えている起業家の話も増えてきました。

今日の木村氏への取材で、海外展開においても正確な情報に基づく判断、信頼できるパートナー選びなど、日本国内でも重要なことが海外においても重要だということを再確認させられました。

コロナ後の社会では、様々なチャンスが転がっているように感じています。本記事が読者の方々の視野を拡げる一助となれば幸いです。
また、スモールサン・ゼミなどでもっと具体的な話を聞きたいというご希望がありましたら、事務局までお問い合わせください。


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