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大澤徳の“現場レポート”!2023年2月号
「私たち(中小企業)にも関係のあるAI開発競争」
先月のニュースで取り上げたChatGPT(チャットジーピーティー)について反響をいただきました。また、日経新聞など各メディアでChatGPTについて見ない日はないというくらい様々な場所で取り上げられることが増えています。リリースされてからわずか2ヶ月の2023年1月の時点で、ChatGPTは1億人が使っていると推計されています。
アメリカなど他国の遠い世界で起こっているというイメージや、目に見えにくいITの世界であることから、なかなか日々の生活では実感しにくく、「自分とは関係ない」と感じている人も多いと思います。ですが、今後はChatGPTだけでなく様々なAIの技術によって、多くの中小企業に影響がでてきます。
今回の記事ではChatGPTだけではなく、もう少し広くAIの開発状況がどのような状態にあり、私たち中小企業にとってどんな影響があり得るのか、筆者の知っていることや考えていることを紹介させていただきます。
ChatGPTを作っているのはどんな会社なのか
2015年12月にイーロン・マスク氏などが設立したOpenAIという会社です。日本でもイーロン・マスク氏は有名になってきましたが、特に注目すべき点は、パーソナルコンピュータの父といわれるアラン・ケイ氏がアドバイザーに就いている点だと思っています。アラン・ケイ氏の詳細な経歴については本記事では触れませんが、日本のビジネスの現場でも、誰がどんな役職でどんな仕事をしているのかを数年後そのビジネスがどう変化するかの判断材料にしている方は多いでしょう。デジタルの分野も同じで、根本的には人が作っている商品やサービスなので、どんな方が役職に就いているのかを知る事は重要かと思います。
本記事はMicrosoftの話が多いので、Appleについてのたとえ話をしたいと思います。Appleはスティーブ・ジョブズが創業し、現在CEOをティム・クックが務めているのを知っている方は多いと思います。ですが、ティム・クック以外のCEOの候補者にどんな方がいて、なぜティム・クックが選ばれたのかまで思案を巡らせる人は少ないと思います。
一方で、先日のトヨタの社長交代の発表については、自動車関係でない方も関心を持っている方も多いのではないのでしょうか。(実際、複数の社長との会話でトヨタの社長交代についてどう思うかが話題にあがりました)
「なぜ次の社長が選ばれたのか」「次の社長はどんなことをするだろうか」「他の社長候補者はなぜ選ばれなかったのか」などなど。
トヨタの方針が日本経済に大きな影響を与えるので、自動車業界以外の方もトヨタの役員人事に関心を持つこと自体は否定しません。ただ、日本人が身近に使っているITサービスの企業方針には無関心なのは不思議でなりません。20代や30代でいえば、1日の数時間を米国系のITサービス(YouTube、Instagram、twitterなど)に費やしている現状があり、経営者の立場からして従業員や消費者の動向を知るという意味では、米国のIT企業の人事や経営行動が日本にとっても大きな影響があると考えるのが自然のように思うのですが、いかがでしょうか。
2015年にOpneAIが発表した文章には「AIの驚異的な歴史をみると、人間レベルのAIの誕生がいつになるかを予測するのは難しい。いずれにしても実現段階で、私利私欲ではなく全人類の利益を優先させる指導的な研究機関の存在が重要になるだろう。OpenAIはそうした機関を目指す」と書かれていました。
当初は非営利でスタートしたOpenAIでしたが、2019年に投資家と従業員のリターンを制限する「上限付きの営利企業モデル」への移行を表明しました。また、2023年冒頭にMicrosoftが追加で100億ドルの出資を表明し、49%をMicrosoftが保有し、時価総額 290億ドル(約3.8兆円)となりました。
Microsoftが検索エンジン「Bing」にchatGPTを搭載したらどうなるか
Microsoftが追加で出資しているのは、Microsoftが運営する「Bing」という検索エンジンにchatGPTを搭載し、Googleに挑戦する方針であるからと報道されています。では、実際に検索エンジンにchatGPTが搭載されたらどうなるのでしょうか。
今まで検索エンジンで物事を検索するときは、単語を入力するのが基本でした。たとえば、天気を検索するときに「天気」といれると、「日本の天気」が表示される。「天気 東京」と検索すると、東京の天気が表示される。「天気 東京 週間」と検索すれば、東京の週間予報が表示される。というようなかんじです。
当然ですが、そもそもなぜ天気について調べているのか、その理由まで含めて検索することは困難です。もしかすると週末にキャンプを予定していて、天気や交通状態がどうなるか気になり、まずは天気を調べようと思ったのかもしれません。その結果が上記の検索です。
では、もしChatGPTが搭載された検索エンジンが実装されたらどうなるでしょう。
「週末に○○にキャンプに行きたいんだけど、天気が気になるから教えて」と自然な文章で尋ねることが可能になると考えられます。
そうすると、ChatGPTは「週末の○○の天気は(晴れ・雨・曇り)です。気温は(朝・昼・夜)は何℃です。キャンプする場合には外で活動すると思いますが、気温は(適しています・適していません)。体温調節のためには、こういう衣類が必要だと考えられます」というように返答できる可能性があります。
どこまでChatGPTに自分の情報を教えるか(教えられるか)にもよりますが、自分が持っている服の中でChatGPTがキャンプのために必要な服を選んでくれたりすることもできるかもしれません。また検索エンジン側が広告主から広告費を受け取って、ChatGPTの返答の中に、「キャンプするときには、こんな商品(食費やキャンプ用品、衣類)などを持っていく人が多いようです」といった風に商品やサービスを紹介するというようなビジネスがはじまる可能性もあります。
おそらくChatGPTの技術的には、現時点でもかなり長文で会話に近いような応答も可能と思われます。ですが、あまり長い文章で返答されても情報の受取手も理解するのに大変なので、ChatGPTに質問する文章は100文字以内で、ChatGPTからの返答については300〜400文字が上限というような制限がかかった状態でリリースされるのではないと予想しています。また、情報の受取手のプロフィールや好みに応じて返答内容を個別対応していくことも考えられます。
ビジネスチャットツールにもAIが搭載され始める
〜中小企業にとって追い風になるか〜
日頃の業務でMicrosoftが提供しているTeams(チームズ。よくチームスと呼んでいる人もいますが、Microsoftの公式の呼び方はチームズです)を使われている企業も多いと思います。中小企業の場合はChatwork(チャットワーク)やLINEworks(ラインワークス)をお使いいただいている場合もあるかもしれません。ITに詳しい企業はSlack(スラック)を使ってらっしゃると思います。
率直に申し上げれば、それ以外のツールを使っている企業は、このまま同じチャットを使い続けていいのか再考が必要だと思います。これからチャットツールにAIが搭載されていく流れや、AI開発のコストなどを上記以外の企業が負担できるか不安があるからです。ただ、業界や機能特化型のSaasサービスに紐付いているコミュニケーション機能を理由しているケースは、このまま同じチャットを使っていた方がいいという場合もあると思います。
2月1日にマイクロソフトからアメリカのMicrosoft TeamsにChatGPTが搭載されると発表がありました。 Teams Premium というプランで、現在は1アカウント月額7ドルで7月1日からは月額10ドルで提供される予定です。このTeams Premiumに組み込まれたChatGPTは会議メモを自動で生成したり、タスクを推奨し、会議資料の作成を支援する、会議資料を要約する、などの機能があります。まだ実際に使っていないので、どの程度のものかわかりませんが、今後時間と共に精度が向上していくことが想定されます。また、今は英語版のみですが、数年以内に日本語対応することも十分考えられます。
こうしたツールが日本で使われ始めたときに、上手く使いこなしている企業と、使いこなせない企業との間では生産性に大きな差がでてくると思います。個人的には、中小企業のようにお金という経営資源が少ない企業にとっては、知恵を絞れば数百人分の仕事を自動的に処理できるAIを安価で活用できる時代がもう少しで実現するというのは、とても夢のある話に感じています。
社内の事例をデジタル化してあることが前提ですが、過去の社内での出来事や前例、手続きなどについて、社内で一番詳しいのは社員ではなくAIで、しかも24時間低コストで稼働させることができる可能性が見えてきました。
こうしたTeams Premiumの裏には、ChatGPTのように読み書きを調整できるAIが動いていることはもちろんですが、まずはTeamsの会議音声を自動で文字起こしする必要があります。Teams Premiumではリアルタイムでの翻訳を利用でき、40 の音声言語から AI を利用したリアルタイム翻訳を取得することが可能と発表されています。
既にMicrosoft365に切り替えている企業もあろうかと思いますが、まだまだパッケージ版のMicrosoftOfficeを利用している企業も多いと思います。情報管理の視点から考えると、最近のSaaSが前提の時代に、パッケージ版にこだわること、更には保守期限が切れているものを使うことを経費削減と捉えるような企業経営者の感覚には危うさを感じています。一歩間違えれば情報流出で潰れかねないようなコストカットは過剰なリスクテイクに感じます。
もし、まだパッケージ版のOfficeを利用されている企業は、今後のためにMicrosoft365への切り替えも検討してみることをおすすめいたします。もちろん企業によってはパッケージ版のままで十分な使い方も十分に考えられるので、ケースバイケースで自社の対応方針を見定めておく事が重要だと思います。
AIの目と耳になる可能性があるDALL·E 2、Whisper
DALL·E 2は「ダリ ツー」と発音します。DALL·E 2は簡単にいえば、自然な文章で指示をするとAIが自動で絵を描いてくれるツールです。昨年かなり色々なところで話題になったので、耳にしたことのある方もいるかもしれません。詳細は本記事では触れませんが、気になる方はインターネットで検索いただければ、紹介記事がたくさん見つかると思います。
インターネットで商用利用可能な画像を無料で使っている企業は、すぐにDALL·E 2を利用する必要性は薄いかもしれません。一方で商用利用するための画像を購入している企業やプレゼン資料などに画像を挿入する企業、チラシを頻繁に作る企業にとっては、イメージに合う写真を購入するのではなく、DALL·E 2を使って画像を作った方がいいというケースも今後でてくると思います。
DALL·E 2のように、文章から画像を作り出すことができるAIの能力は、単なる絵描きの能力として捉える事もできますが、裏返していえば、絵や写真に何が描かれているのかAIが認識して文字に変換できるという可能性を秘めているように思います。いずれはスマートフォンのカメラと組み合わせて様々なサービスが登場すると思います。
ただ、多くの中小企業にとっては、DALL·E 2については現時点ですぐに業務を変えるインパクトは低いように感じています。個人的には自動運転のために使う車載カメラと、画像認識系のAIがどのように連携していくようになるのかが気になっています。
一方でOpenAIが開発している音声認識ツールのWhisper(ウィスパー)は、上手く使えば業務が変わっていく可能性があると感じています。
Whisper(ウィスパー)の活用で業務が大きく変わる可能性も
Whisperは、①音声データから文字起こし、②音声データから翻訳して文字起こし(インプットは多言語ですが、現状アウトプットは英語のみ)、③音声データから言語を特定する、という機能があります。Whisperに音声データをアップデートした際に、言語を指定しない場合は言語判定から処理がはじまります。
Whisper は2022年9月に公開された音声認識モデル(詳しくは省略しますが、ソフトでもアプリでもなく、“モデル”です)で、単語誤り率(WER)は日本語で6.4%というデータがあります。裏返せば93.6%は音声認識できており、固有名詞の入力や文法などの調整をこちらで行うことができれば、認識率はさらに向上していくと思われます。
試しに、1月のスモールサン・インターネットラジオ、咲江の“メンタル・タフネスへの道”第101回「物事の受け止め方・考え方の“癖”とストレスの関係」をWhisperで文字起こししてみたところ、下記の様なデータができあがりました。
全てお読みいただく必要はありませんが、冒頭文だけ記載しますので、どんな風に文字起こしデータができるのか目を通していただけると分かりやすいかと思います。
スモールさんインターネットラジオこちらは中小企業サポートネットワーク スモールさんがお届けするインターネットラジオですスモールさんでは現在1600名に上る中小企業経営者が 専門家とともに学び成長していますお聞きの皆様もまだの方はぜひお仲間になってくださいさて本日の放送は先栄のメンタルタフネスへの道皆さんこんにちはカンセラーの先栄です私の会では皆さんのメンタル力をパワーアップできるようなヒントをお届けしたりストレスとの上手な付き合い方など心がちょっと軽くなったり凹んでも上手に立ち上がるコツそんなお話をしている番組になります皆さんいかがでしょうかストレス感じたことありますか感じたことありますかって言ったらほぼほぼ皆さんありますという方の方が多いと思うんですけれども中にはね自分はそんなにストレス感じないですって方もいらっしゃると思うんですがやっぱりそのストレスってなんか問題が起こった時にそれを解決できると思うかあるいは解決できないと思うかそのストレスと思われている物事に対してどういうふうに感じるかどういうふうに受け止めているかこの受け止め方っていうのがそのストレスというものと実は関連性があるんですよねなのでそういうその物事に対する考え方自分なりのその受け止め方というものについてはね今日少し深掘りしながらお話をさせていただきたいと思いますまずはね、このストレスというものについてはね私たちの考え方についてはね実は癖があったりするんですよねなのでその考え方の癖なんかも含めて今回はお話をさせていただきたいと思います
上記の文章を読むと、誤字がある、句読点が足りない、段落分けがない、などまだまだ足りない部分もあるのがご理解いただけると思います。ただ、チェックと修正に人間を介在させれば、ゼロから文字起こしするのに比べて、効率が上がる可能性もあると感じます。
現在、whisperは無料で、文字起こしに使うデータセットの大小によって、精度や処理速度が変わります。データセットが大きければ、処理に時間がかかります。
オープンソースの世界は開発が進むのも早いので、whisperで話者の識別や音声認識した後で、ChatGPTで要約し、Microsoft365アカウントと紐付けてスケジュールやタスクを整理して提案してもらう機能、なんなら他社の事例や注意点などもまとめてレポートする機能なども今後実装される可能性があると思います。
こうしたwhisperのような音声認識ツールを利用すれば、普段の社内での会議で議事録やメモを自動的に文字起こしできるようになります。さらに、お客様との電話をWhisperで文字起こしして、顧客管理ソフトに自動で記録したりすることも容易に想像できます。設定によっては、業務日報を自動的に記録するといったことも視野に入ってくると思います。
今まで手書きでメモしていた時間を削減することもでき、またどんな会話しているかをAIでチェックできる可能性があるというのは、昨今のバイトテロのような行為を自動チェックすることにつながったり、顧客に対して何を現場で話しているのか、職場内で不適切な会話が起きていないか法務的に確認することも低コスト化していくと考えられます。
みなさんの会社におかれましては、whisperやChatGPTのようなAIとどのように関わって行くのでしょうか。ご活用されてくのでしょうか。本記事がなにかしら考えるきっかけになることを願っております。
おわりに
カタカナやアルファベットが多い中、記事をお読みいただき、ありがとうございました。もし、みなさまからのご関心があれば、ChatGPTやwhisperなどのAIを使ったアプリのうち、中小企業経営において知っておいた方がいいものについても紹介していきたいと思っております。
今回のようなAIについての記事を書く度に、経済の成長や発展には基礎研究の裾野の広さや知識労働者の層が厚いことが重要だと痛感します。今までと同じ事を繰り返すだけではなく、新しい付加価値を生み出すために、変化させることにもっと貪欲に取り組んでもいいのではないかと思います。
デジタル技術は着々と進化します。それに対応するために労働者のリスキルが重要だという話題も増えました。特にデジタル教育が重要だと語られることが増えてきました。筆者の個人的な意見に過ぎませんが、ここ数年、中小企業界隈で話題になったITのテーマといえば、仮想通貨、メタバース、DAO、ブロックチェーン、NFTなどなどが論じられてきたように思います。残念ながら日本国内でしか流行っていないテーマをさも世界標準かのように取り上げて、その技術に取り組む事が日本にとって大きな希望があるかのように語られていると感じるものもあります。やや感情的な物の捉え方だと思いますが、日本で流行るITのテーマは正面から難しい事に取り組むのではなく、一発逆転の楽な方法を探し求めて1つの技術やサービスに求める傾向があるように感じています。
そうした玉石混交の情報の中では、アメリカのIT企業の創業者たち、学者たちがどんな発言をしているかをウォッチして、日本がおかれている状況からするとどんなテーマが重要なのか、キャッチアップした方がいいのかを考えるようにした方が、面倒だけれども重要なのではないかと常々感じています。
本記事のような情報が、読者の皆様にデジタル関連の正確な情報収集を促すきっかけになることを願っております。
参考資料
Introducing OpenAI December 11, 2015
https://openai.com/blog/introducing-openai/
Microsoft Invests In and Partners with OpenAI to Support Us Building Beneficial AGI July 22, 2019
https://openai.com/blog/microsoft/
イーロン・マスク氏ら、人類に益する人工知能を目指す「OpenAI」立ち上げ アラン・ケイ氏も参加
https://www.itmedia.co.jp/news/articles/1512/13/news014.html
MS「チームズ」にチャットGPT搭載、メモ自動生成など
https://jp.reuters.com/article/idJPKBN2UC02S
Microsoft Teams Premium: Cut costs and add AI-powered productivity February 1, 2023
https://www.microsoft.com/en-us/microsoft-365/blog/2023/02/01/microsoft-teams-premium-cut-costs-and-add-ai-powered-productivity/
汎用音声認識モデル Whisper の紹介:NTT Communications Advent Calendar 2022
https://qiita.com/diesekiefer/items/00d8c1507829b58a62ab