スモールサンニュース大澤徳の“現場レポート”

「中小企業の事業承継について
〜家族経営の強みをファミリービジネスの視点から〜」

はじめに

 昨今、中小企業の経営者の高齢化に伴い、事業承継について悩みを抱えてる方も多くいらっしゃると思います。中小企業における事業承継といえば、親と子もしくは配偶者へ引き継ぐなど親族間が一般的でしたが、最近は社員への承継やM&Aなどの方法で、親族以外に譲るケースも増えています。
 先日、とある経営者団体より、私宛に「第三者による事業承継」というテーマで発表を依頼され、その際に発表させていただいた内容に一部修正加筆した内容を共有させていただきたく思います。
 スモールサンを運営している株式会社中小企業サポートネットワークも創業は山口義行が代表取締役を務めていましたが、現在は大澤徳が代表取締役を務めています。(ちなみに、山口義行は取締役として関与)いってみれば、スモールサン自身が親族以外の第三者に事業承継を選択している会社ともいえます。
 中小企業の家族経営の強みや、社員から経営幹部、代表として経営を担うステップで必要とされる役割の変化など、経営者の皆様に事業承継を考える際の考えるヒントになれば幸いです。

※ここでいう事業承継は、「代表取締役の交代」と「(先代の経営者が経営から完全に離れて)事業承継した代表取締役が1人で会社経営を担う」を含む意味で使用しています。

事業承継の最近の状況


引用元:中小企業庁『2022年版小規模企業白書』


 2021年の調査によると後継者が「いない」または「不在」の中小企業企業は61.5%。後継者不在率は、2017年の66.5%をピークに、低下傾向にあり2021年の後継者不在率は2011年以降で最低の数字になっています。
 このような後継者不在率低下の理由を帝国データバンクは「コロナ禍で事業環境が急激に変化するなか、高齢代表の企業を中心に後継者決定の動きが強まった。(中略)代表者の高齢化問題が深刻化するなか、柔軟な発想や対応力がある若い世代、生え抜きの役員など後任に将来を任せたいなど、後継者問題に対する経営者の心境変化も影響しているとみられる。また、地域金融機関を中心にプッシュ型のアプローチが徐々に成果を発揮し始めていること、第三者へのM&Aや事業譲渡、ファンドを経由した経営再建併用の事業承継など支援メニューが全国的に整ったことも、後継者問題解決・改善の前進に大きく寄与した」と分析しています。
 2021年の調査によれば後継者が判明している企業について、誰に継がせるか聞いてみると、38.5%が「子ども」、親族が20.1%、配偶者6.3%、非同族が35%に継がせるというデータがあります。ここ数年で「子ども」へ継がせる比率が下がり、非同族への事業承継が増える傾向にあるようです。非同族への事業承継は、役員や従業員などの「内部昇格」、社外から経営陣座を招く「外部招聘」、M&Aなどで事業を譲るなどの選択肢のことです。(※1)
 後継者不在率が低下している傾向とはいえ、日本政策金融公庫の調査では、60 歳以上の経営者のうち 50%超が将来的な廃業を予定しており、このうち「後継者難」を理由とする廃業が約 3 割に迫っているというデータもあります。業種・業態、企業規模、地域などによって後継者不在率の高低はありますが、このままだと今後の中小企業を巡る環境は大きく変化することが予想されます。


ファミリービジネスの強み〜所有と経営と家族の視点〜

 親から子どもに事業承継する比率が下がっているとはいえ、約4割は子どもへ事業承継を行うことを選択しています。加えて、配偶者・親族への事業承継まで含めれば、約7割が家族内で事業業承継することを望んでいます。こうした家族経営を考える際に「ファミリービジネスのスリーサークルモデル」という考え方があり、ご紹介したく思います。一般に株式会社の経営については「所有と経営の分離」が原則としていわれますが、多くの中小企業はオーナー企業や同族企業であり、「家族」視点から考えることも重要だと思います。



 事業承継について考える際に、資産承継や事業承継について検討されることと思いますが、家族内に目を向けると、相続や資産保有のあり方や、親族間での意見の相違など、様々な課題が発生する可能性があると思います。
所有ついての「株」や経営上の問題より、家族内での意見衝突の方が辛く感じる状況もあると聞きます。
 このような事業承継について考える際に税理士に相談されるケースが多いと思います。依頼している税理士が丁寧に話を聞いてくださり、事業の特性を理解し、家族内での感情と勘定まで含めて最適な提案をしてくれる場合もあるかもしれません。
 とはいえ経営者からみると、どうも税理士が税金の計算や手続きの話ばかりで、なかなか事業や家族内のことについてまで考慮しているか疑問が生じる場面もあるかもしれません。
 そうした場合には、税理士以外の別な専門家に頼ることも選択しかもしれません。専門家を雇わないにしても、専門家に依頼する範囲と、自分で考えることを分ける視点も大事だと思います。
 所有と経営のビジネスの分野については「効率」「収益」「成果」などを重視する視点が強いですが、家族の範囲になると「愛情」「感情」(あまりよくないですが場合によっては「憎悪」「甘え」)など違う視点がでてくることが多いように思います。そうした感情問題については、場合によっては心理カウンセラーに相談するのも選択肢かと思います。


家族経営において所有感覚が生み出す責任感
〜法的オーナーシップと心理的オーナーシップ〜

 家族経営の場合には法律的にも心理的にも事業や法人を「所有」していることが多いと思います。家族で株を所有しているということは、当然ながら株主の権利を有しています。これを「法的オーナーシップ」と呼んだりします。この「法的オーナーシップ」は株の保有比率によって変わるともいわれています。保有株の比率が高ければ「法的オーナーシップ」が高く、逆に株の保有比率が低ければ「法的オーナーシップ」は低くなる傾向にあるようです。(いってみれば当たり前なのですが)
 他方で法律的な範囲のみではなく、会社を所有していると感じる心理的な感覚のことを「心理的オーナーシップ」と呼んだりします。ひらたくいうと法律的には株などを保有していない状態で、会社のことを「自分たちのこと(もの)」と捉える感覚のことです。
 もう少し細かくいうと、自分と会社が同じだと感じている状態「会社との同一性意識」、会社は我が家同然であるという感覚や、会社に対して影響力を持っていると感じられる「自己効力感覚」などがあります。
 家族以外の第三者への事業承継の場合には、金銭的な面での折り合いが難しかったり、所有は創業家が維持するなどの判断により、新社長への株の譲渡が難しい場合もあると聞きます。そうなると家族ではない方に次の代表取締役に就任してもらったものの、新しい経営者は株を持たない状態で、経営を担う事になります。そのときに、心理的オーナーシップをどこまで感じられるのか、オーナー社長との差がでてくる可能性があります。
 もしかすると、株を有していない経営者は、会社の未来のことを長期で考えず、「今だけよければいい」と短期的な収益志向で無理して短期の業績を向上させて、自らの役員報酬を上げることを優先順位に置くかもしれません。それとは逆に、株を有していないことで、会社への「自己効力感」が高まらず、会社の重要な判断は最終的には株主(オーナー)が決めるだろうと、あまり大きな変革や思い切った提案などは行わないように経営を行う傾向になるかもしれません。
 どちらにしても、他人への事業承継の場合は、家族や同族で株を法的に所有しているのとは違う感覚になるかもしれないということをご理解いただきたく思います。
 ちなみに、株の譲渡と同様に、個人保証を引き継ぐのが難しいという話も聞きます。個人保証を新社長が引き継ぐことで、心理的オーナーシップが相当に高まることもいわれています。

コラム: 経営者保証の融資はどのくらいあるのか?



 上記のグラフは「経営者保証に依存しない新規融資の割合」の推移を表しています。政府系金融機関の場合は約5割、民間金融機関の場合は約3割で、新規融資の際に個人保証をとっていないことがわかります。このグラフはあくまでも、新規融資件数をベースにしているので、新規融資の金額の合計のうち、どのくらいが経営者保証を外れているのかまではわかりません。実際に個人保証を外すのには、いろいろと難しい面もあるのかと思いますが、2014年以降で個人保証をとらない融資件数の比率は上昇傾向にあります。

 また、2023年4月からは今よりも更に経営者保証を制限するようにすると金融庁から行政方針が発表されています。
 このニュースでも経営者保証を外した状態で、金融機関がどこまでの金額を融資してくれるのか現段階ではわかりません。うがった見方かもしれませんが、もしかすると個人保証あれば多く貸してくれて、個人保証がない場合には少ない金額しか貸してくれないということもあり得るかもしれません。(そうならないことを願っています)


日本経済新聞 中小企業融資「経営者保証」を制限へ 金融庁、23年から
金融機関に理由説明義務、違反なら行政処分も


金融庁は2023年から、金融機関の中小企業向け融資で経営者が個人で背負う「経営者保証」を実質的に制限する。メガバンクや地域銀行、信用金庫といった預金取扱金融機関は保証の必要性など理由を具体的に説明しない限り、経営者保証を要求できなくなる。

ファミリービジネスのメリット・デメリット



 とある経営学者が、ファミリービジネスの原動力となる価値観で「継続性(Continuity)」、「コミュニティ(Community)」、「コネクション(Connection)」、「コマンド(Command=指揮者)」の4つの優先する傾向があると指摘しました。これらの4つの言葉の頭文字を取って「4 C」モデルと呼ぶ方もいます。(マーケティングの4Pや3Cとは全く別な考え方です)
 家族で所有と経営を担っている場合に、これらの価値観が強みにもなりますが、過剰になってしまうと弱みにもなってしまう可能性もあります。オーナー企業や同族企業で経営判断する際には、どの価値観を優先しているのか、他の価値観をおざなりにしていないか考える際の参考になれば幸いです。
 まず「継続性」とは「経営理念の追求」や「企業存続への情熱」のことを意味しています。解説するまでもないと思いますが、法的にも心理的にも会社を所有している家族企業にとっては、他人よりも企業が存続することを強く意識されることと思います。とはいえ、この価値観が強すぎる場合には、「これまでの方法に妄執し、極端な保守主義に陥り、停滞」してしまうかもしれません。
 次に「(社内の)コミュニティ」は、「(社内の)血のつながりによる結束・つながり」によって、「共通の価値観」が社内で情勢されやすいことを意味しています。同じ釜の飯を食った仲間とでも言い換えられるかもしれません。この価値観を実践し会社全体を経営理念や全社目標に向けて結束させることは、他人より家族の方がやりやすいという場面もあるかもしれませんが、この価値観も過剰になってしまうと「同じ人・価値観ばかりに固執し、外部を受け入れられない、別な方法が思い浮かばない」といったリスクがあります。

 また「(社外の)コネクション」は、「(社内の)コミュニティ」とは反対に外部へ目を向けたものです。社外の取引先や顧客とのつながりとの関係を優先することを意味しています。具体的には、過去の経緯を踏まえて「あの企業の先代にはお世話になったので、事業を継いだ息子/娘にもきちんと関わらないといけない」というような相互の互恵関係を築くための気持ちがあること、などが想定されます。この価値観も行き過ぎると、「顧客・取引先の関係が硬直化し、発展性を失う」リスクもあります。市場環境が変わっている中で、既存の関係だけを継続すると、変化に対応できなくなってしまうかもしれません。
 最後に「コマンド=指揮者」とは、経営者自身が勇気を持ち独創性・独立的に決断して、経営幹部や社内へ会社の運営と刷新に関して指示をしていくような姿勢を表しています。ファミリーで所有と経営を担っている場合には、非同族企業に比べると、決断とスピードと革新の自由があります。市場の変化が激しい昨今では、強いリーダーシップで変革のスピードが早いことが企業の競争力にも繋がることもあり得ます。ただし、これも過剰になってしまうと、裸の王様で単なる独裁的な意思決定権者になってしまう可能性もあります。
 どの価値観を優先するのが正解かという答えはありません。個別の状況ごとに、経営判断される際にどの価値観を優先するのか(逆にどの価値観を選択していないのか)を意識することが重要なのではないかと思います。


おわりに

 本記事をお読みいただき、ありがとうございます。
 事業承継で家族に引き継がせる割合が下がってきているとはいえ、親族内での承継もまだまだ多くあります。特に親族内での事業承継を推奨したいという気持ちがあるわけではありませんが、改めて家族経営についての特徴や善し悪しについて考えるきっかけになれば幸いと思っております。特に、家族内での事業承継の際に考える視点が増えることに貢献できたら幸いと思っています。

 最後になりますが、事業承継に関するひとつの方法でM&Aを検討される方もいらっしゃると思います。
もしM&Aを勉強されたい方は、M&A思考養成講座の受講をぜひともおすすめいたします。

※1 帝国データバンク 全国企業「後継者不在率」動向調査(2021 年)


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