スモールサンニュース大澤徳の“現場レポート”

「今この時期に知っておくべき中小企業の補助金活用」

株式会社ウィレコンサルティング 取締役 大類 映夫氏
聞き手 スモールサン事務局 大澤 徳

 昨年12月20日に令和3年度補正予算が成立し、私たち中小企業が活用できる補助金・助成金にも多額の予算が発表されました。そして、これから迎える2月3月はそれら補助金の公募が開始される時期でもあります。
とは言え、コロナ禍以降多くの補助金・助成金があり、「何を見たらいいのか分からない…」「面倒そうだからチェックしていない」という中小企業経営者も多いのではないでしょうか。

 そこで今回は、長年経済産業省系の施策支援として多くの中小企業の補助金の申請、受給を支援されてきた専門家である株式会社ウィレコンサルティング取締役の大類映夫氏に、中小企業経営者が今このタイミングで知っておくべき補助金についてのお話を伺いました。


【大類 映夫氏プロフィール】
株式会社ウィレコンサルティング取締役
年間30回以上の助成金等セミナーを全国各地で行っており、助成金の申請、受給するためのコンサルティングの実績多数。
【株式会社ウィレコンサルティング事業概要】
◇公的施策の活用サポート
 中小企業に対する公的な施策の活用をサポートいたします。
 前職を含めて1,500社以上の公的施策サポートを行ってきましたが、その経験によって培った独自のノウハウをもとにして、中小企業経営者様の発展成長のお手伝いをしていきます。
◇人材サポート・エグゼクティブサーチ
 特殊な技術をもつ製造業から機械・電気メーカー、繊維業界、商社、流通・小売業界、金融業界、不動産業界、貿易関連など、企業コンサルティングでの得意分野を中心に、スタッフレベルのポジションから、経営者候補・経営者の右腕となるポジションまで、リアリティを持ってサポートいたします。

コロナ禍で変わる補助金
〜製造業だけではなくサービス業・小規模事業者向けにも拡充〜

大澤 それでは、早速お話を伺いたいのですが、コロナ禍になってから“補助金”について何か変化はあったのでしょうか?

大類 経済産業省系の補助金は明確に変わってきていると思います。コロナ以前は、経産省系の補助金は1千万から1億、2億など額が大きいものが多く、必然的に製造業を対象としたものがほとんどでした。少しずつ他の業種でも取れるようにしようという動きはありましたが、明確に変わったのはやはりコロナ禍が起きた一昨年からです。製造業だけではなく、どんな業種でも比較的大きな補助金が使えるようになってきた、というのが最も大きな変化だと思います。

大澤 なるほど。具体的に変わった、もしくは新しく登場したという補助金はありますか?

大類 例えばこれまでに出た持続化給付金、月次支援金、それと今度新しく出た事業復活支援金などは当然どんな業種でも使えるもので、私たちのような外部に頼らなくても、基本的には自社で簡単に申請できるような補助金です。そういったものは省いたとして、例えばものづくり補助金は生産性の向上につながるような設備投資がメインではありますが、製造業以外でも取れるようになっていて、今年もまた新たな予算で出ます。一番大きいのは、去年新しくできた中小企業等事業再構築促進事業、通称「再構築補助金」で、私はこの業界に20年ほどいますが一二を争う予算規模の大きさだと思います。要件もかなり緩めで、どんな業種でも申請できるし、採択率も一番低い一般枠でも3分の1、売上が下がっている企業向けの特別枠だと3分の2が受かるんですよ。

大澤 かなり敷居が低いですね!

大類 これまで経産省系の補助金は基本的に倍率が5倍とか10倍という世界でしたので、相当受かりやすいです。それで特別枠は1,000万、従業員数によっては1,500万と上限が上がるので、かなり使い勝手のいい補助金だと思います。これは令和2年度の補正予算で組まれて最終の5次公募が3月24日で締め切りなのですが、令和3年度の補正予算でも追加で組まれて引き続き公募を行う方針と発表がありました。おそらく採択率もそれほど変わらないと思います。というのも、経産省での中小企業対策費の予算額は、本予算よりも補正予算の方が圧倒的に大きいんです。ということは、補正予算で出る補助金は予算規模もそれだけ大きいので、採択件数も多くて受かりやすいということなんです。実はこういった補助金は受かった後も比較的に楽なんですよ。本予算での補助金は非常に検査が厳しくて、まめに検査員が来て膨大な実績報告書を作らないといけなかったりしますが、例えばものづくり補助金など毎年何千社と採択されていると国の方も余裕がないのでそこまで厳しい検査は行えません。そういった意味でも、補正予算での補助金は使い勝手がいいと言えますね。

“補助金“と“助成金”は違う
〜まずは「知ること」が活用の第一歩〜

大澤 経済産業省系の補助金について伺いましたが、大類さんはそちらがご専門なんですか?

大類 はい。まず“補助金”と“助成金”は違うんですよ。ざっくりと分けて言うと厚生労働省と経済産業省の管轄があり、厚労省系の多くは労働環境の改善など人にまつわる助成金で社会保険労務士の先生方が専門です。一方、私がメインで扱っている経産省系は、今困っている企業を助けるというよりも、「今は困っているけど、前向きにまだまだ頑張ってやっていくよ」という企業が頑張るための費用を補助する目的のものが多いです。

大澤 なるほど、事業を立て直すもしくは新しい事業に挑戦しようという会社を支えるものなんですね。

大類 今そういった補助金の間口が広げられ、かなりの予算が組まれているということは、この苦境を乗り越えるために何か新しいことをやろうとしている企業にとって、それだけ使えるチャンスを国が用意しているんだと捉えていただければと思います。例えば、昨年の10月まで月次支援金というひと月あたり20万ずつもらえる補助金があったのですが、そういったものを知らないまま申請期間が終了してしまう方も多くいて非常に勿体ないと感じます。

大澤 私の周りでも「すごく手間が掛かると思って申請しなかった」という方もいました。

大類 確かに最初は面倒に感じるかもしれませんが、調べれば分かる情報をちゃんと入れさえすれば、2カ月目、3カ月目は試算表を添付するだけでOKという感じだったんです。補正予算で出すものは国もちゃんと助けようと思って出しているものなので、得られる補助金以上の労力が掛かるようなものは基本的に出しません。私のような専門家もいますし商工会や商工会議所などにもアドバイザーがいますから、「面倒だからやめた」ではなく、そういったところからアドバイスをもらいながら活用してほしいなと思います。面倒そうな項目があるように見えても、専門家に相談してみたらたいした事じゃなかったというのは良くある話ですから、せっかく新しいことにチャレンジして事業を持ち直していこうとする企業が断念してしまうようなことが無くなってほしいですね。

補助金の相談は然るべき相手に!
〜補助金は「もらって終わり」ではない〜

大澤 今、専門家の話が出ましたが、例えば補助金を取った後のフォローなどもしてもらえるんでしょうか?

大類 いえ、多くの専門家は補助金を取るところまでの対応だと思います。その辺はまちまちで、申請書を作るお手伝いだけして受かったらお金をもらって終わりというところもありますし、補助金がちゃんと貰えるまでというところもあります。補助金自体はもらって終わりではなく、その後5年間の報告義務がありますので、当社ではそこまでサポートさせていただいていますが、業界的には珍しいケースかと思います。特に最近は着手金を取るところがほとんどで、私が以前勤めていた会社から独立したきっかけの一つでもあります。

大澤 そうなんですか!

大類 私はこの中小企業に対する経産省系の施策の支援にもう20年ほど携わっていて、以前は中堅のコンサル会社で10年ほど勤めていました。そこで、申請するために計画書を作ったりもするので全く無駄になる訳ではないとはいえ、まだ1円も補助金をもらえていないご支援先から多額の着手金をもらうことを心苦しく感じていたんです。補助金をもらうことを目的にご依頼いただいているのに、その目的を達成できなくても着手金で売上を立てられるというのは、私たちの本気度にも関わってくることだと思うんです。コンサルティングという無形サービスを人に売るのですから、もっと1社1社にしっかりしたコンサルをしたいという想いもあって、10年前に私と代表の下村が独立して株式会社ウィレコンサルティングを立ち上げたんです。ですので、当社では着手金はいただかず、また補助金を取った後の報告義務にも対応するために約6年しっかりご支援していく方針です。資金調達や販路開拓先の紹介といったところまでサポートさせて頂いています。

大澤 なるほど、専門家に頼るといっても相手を見極めないといけないですね。

大類 ただ、今のはちょっと良い風にも言っていて、着手金がないということは受からなければタダ働きになるわけですから、「これは無理だ」という内容や企業についてはそう正直にお伝えしてお断りすることもあります。ですが、そこへ無理やり時間やお金をかけるよりも、はっきりお伝えすることの方が私はお互いのためになると思ってそうさせて頂いています。

今年チェックするべき補助金とその注意点

大澤 今、中小企業にお勧めしたい補助金はどういったものがありますか?

大類 大きく分けると二つで、一つは冒頭でもお伝えした「事業再構築補助金」。これから狙うとすると令和3年度補正になると思いますが、約6,000億円の予算が組まれ三次公募まで行うと言われています。そして、もう一つが「中小企業生産性革命推進事業」です。

大澤 後者はあまり聞いたことがない名前ですね。

大類 この推進事業の中に4種類の補助金があるというだけで、実はこの名前自体はあんまり関係ないんです。入っているのは、モノづくり補助金、持続化補助金、IT補助金、事業承継引継ぎ補助金で、この4つを総称した革命推進事業に予算が約2,000億円組まれました。いずれも補正予算で受かりやすいですし、申請できる要件も結構緩いので、今年はとにかくこの2つ、実質5つを気にしていただければいいかと思います。

大澤 要件の注意点などはありますか?

大類 事業再構築補助金で気にしてほしい要件は主に三つです。一つは、自社にとって新しい取り組みであること。二つ目は、新しい市場の創出につながる事業であること。そして三つ目が、売上減少要件です。ざっくり言うと、この補助金では2020年3月以前をコロナ以前、4月以降をコロナ禍と位置付けていて、コロナ以前と比較して売上が下がっている必要があります。色々と細かい要件はありますがかなり緩和されてもいますので、まずはそこを気にして頂ければいいかと思います。多くの方が申請されるであろう通常枠は、従業員数に応じて補助上限額が2,000万から4,000万、6,000万、8,000万と変わってきます。冒頭でお話しした特別枠というのが、最低賃金枠と回復・再生応援枠の二つ。任意の1か月分の売上の減少が30%以上と大きい企業が対象で、補助上限額は下がってしまいますが、補助率が高くかなりの確率で受かるのでお勧めしたいところでもあります。また、去年と違って新しくグリーン成長枠というのもできました。新しい分野なので私もまだはっきりとは言えない部分もあるのですが、研究開発・技術開発、または人材育成を行いながらグリーン成長戦略の課題に取り組む内容であれば補助上限額1億まで出るというもので、大規模賃金引き上げ枠と同じように普通の中小企業にはちょっと敷居が高いのではないかと思います。事業再構築補助金をお勧めする理由の一つに、建物が補助対象になるというのも大きいです。ものづくり補助金など他の経産省系の補助金は基本的に設備投資や研究開発費用が補助対象なのに対して、事業再構築補助金だけは建物費や建物の撤去費用、増改築などもOKになっています。

大澤 生産性革命推進事業の4つはいかがですか?

大類 ものづくり補助金は、こちらにもグリーン枠ができたというのはありますが、例年と大きくは変わらないです。ただ、実は去年からそうだったんですが、ものづくり補助金は結構狙い目です。一昨年まで採択率が25%から高い時でも40%ぐらいだったのが、昨年は50%を超えています。続いて持続化補助金は商工会や商工会議所が相談窓口になっており、IT導入補助金はITベンダーやメーカーが相談窓口になっているものなので、私の出る幕ではないところではありますが、ただ持続化補助金の上限が200万円と大きくなっているので今年もしかしたら注目した方がいいかもしれないです。広告宣伝費が対象になる補助金という時点でもともと珍しいので、例えば事業再構築補助金で作った新しい事業の広告宣伝費をこの持続化補助金でやるといった方法も一つの戦略として考えられるのではないかと思います。事業再構築補助金でも広告宣伝費は対象経費ですが、もし入れていない場合とか上限枠いっぱい使っちゃっているといった場合はこちらで賄うのも一つの手ですよね。また、IT導入補助金も新しく会計ソフトや受発注システム等のITツール補助額や、PC・タブレット等が補助対象になるなど今年かなり変わった感じはしますので、こちらもしっかり注目していった方がいいかなと思います。最後に事業承継引継ぎ補助金ですが、これはもともと全くの別枠であったものが今回この生産性革命推進事業の方に組まれたので、おそらく予算規模も増えることが予想されます。ただし補助上限額は下がっているので、裾野を広くしていく方針なのかなという気がしますね。

大澤 事業承継に関しては、国も数年前から力を入れたがっていますよね。

大類 そうですね。M&Aをされている会社さんなどは、この補助金をチェックしておくと営業ツールとして使えてより幅広い支援ができると思います。

補助金はあくまで“補助”!
〜補助金目当ての経営は本末転倒〜

大澤 補助金を活用するにあたって他に注意点はありますか?

大類 先ほど受かりやすいというお話はしましたが、前提としてちゃんと具体的なイメージを申請書に落とし込む必要があるということですかね。最初はもちろん計画で良いんですが、受かるためにはアップデートしていかないといけません。昨年、新しく焼き肉屋を始めるという不動産会社さんがあったのですが、一次公募、二次公募と落ちて、三次公募でようやく受かりました。というのも最初は焼き肉屋ということ以外何も決まっていなかったんです。それで話題性のある面白い焼き肉屋にしようと具体的なイメージをアップデートしていき、最終的にロボットが配膳して、飲み物も各テーブルにビールと酎ハイの卓上サーバーを置くことで、シロップだけ提供すればお客が自分でサワーを作るといった徹底的なコロナ対策を敷いて採択されました。

大澤 ただ新しい事業に挑戦するのではなく、そこに具体的なイメージがなくては事業そのものも厳しいですよね。

大類 事業再構築の採択事例を見ていても分かると思いますが、例えば最近はグランピング施設の構築と運営といった内容が多いです。私のご支援先でもビジネスホテルをやっている会社さんが新たにグランピング施設を作るというので採択されています。これだけグランピングが増えると飽和状態になってニーズが無くなってしまうのではと危惧しています。採択されるかどうかもそうですが、補助金をもらっても儲かりませんでしたでは元も子もないですから、何をやるにしてもその後のこともしっかり考えた上でニーズを捉えた新しいサービスや付加価値を明確につけていかないといけません。

大澤 確かに、補助金がもらえることで通常よりもリスクを低減した状態で新規事業ができるというのはとてもポジティブですが、そもそもマーケットに需要がどれだけあるのかを見極めながら投資していかないと自分の持ち出しもゼロにはならないですよね。そこはちゃんとシビアに考えないといけないですね。

大類 補助金って1回取ると来年も再来年もって考える会社さんも多いんです。大きな額がポンともらえてしまうので中毒性もあるんです。もちろん賢く有効に活用していただく分には素晴らしいのですが、中には補助金を取るための事業内容になってきちゃったりするところもあって、極端な話それで潰れてしまったなんて話も耳にします。ですので、私がご支援させてもらうところでは必ずそこは釘を刺すようにしていますね。

大澤 目的は補助金を取ることではなく、あくまでも新しい事業を成功させることで、そのための“補助”であることを忘れてはいけないですね。かといって「知らない」「わからない」では勿体ない。ちゃんと情報を得ながら、自社の目的にあった補助金を適切に活用することが重要ですね。

大類 はい。今回お見せした資料も全て中小企業庁のWEBサイトでダウンロードすることができますので、ぜひチェックしていただきたいです。「令和3年度補正予算のPR資料」に今年出る補助金の概要が掲載されていますので、その中でまず自社で使えそうな補助金をピックアップしていただいた上で、「中小企業対策関連予算」のページでより詳しい内容が載っている個別の資料を探して頂ければと思います。今これからの時期がまさに公募が開始される時期なので、締め切りまで余裕を持つためにも、このページを1週間に1回程度チェックしていた方がいいと思います。

大澤 今がまさに補助金にチャレンジすべきタイミングということで、2月22日(火)にゼミTAKASAKIで大類さんのセミナー「コロナ禍だからこそ必ず使いたい助成金・補助金!」を特別公開で開催します。オンライン開催ですので、この記事を読まれた方はぜひご参加ください。大類さん、本日はありがとうございました!



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