スモールサンニュース大澤徳の“現場レポート”

「中小企業経営者のための、今さら聞けない IT用語
 〜第2回:「A I」「ビッグデータ」ってなに?〜」

聞き手 山口恵里(スモールサン事務局)


中小企業においてまだまだ距離を感じている経営者も少なくないIT。ですが、中小企業にもIT化の波は徐々に、そして確実に迫ってきています。
そこでこのコーナーでは、ITが苦手な方には今後のため、既に知ってるよという方には確認のため、中小企業経営者が知っておくべきIT用語を解説します。

今回のIT用語は「A I」と「ビッグデータ」!
頻繁に耳にする言葉ですが、何となくのイメージで理解した気になっていたり、よく分からないまま「どうせ自社には関係ない」と思っている人も多いのではないでしょうか?
この機会に、まずは知ることから始めましょう!

進化し続けている「AI」

山口 さて、今回のテーマの「AI」、日本語で言うと「人工知能」ですね。辞書で調べてみると以下のように書かれています。具体的に「こういう事ができたらAI」みたいな定義はあるんですか?

コンピューターで、記憶・推論・判断・学習など、人間の知的機能を代行できるようにモデル化されたソフトウエア・システム。AI。(引用元 デジタル大辞泉 小学館

大澤 実は明確な定義はなくて、何をAIと呼ぶかは時代によって変わってきています。例えば、将棋ソフトってありますよね。1960年代は「実現できたら凄いAIだ」と言われていましたが、今ではスマホでも遊べるくらい当たり前になり、普通の将棋ソフトは最早AIとは言われません。他にも、カーナビで地図のルートを検索するのも長らく難しいとされていました。例えば、純粋に名古屋から東京へ行けるルートを考えると膨大な組み合わせ問題になってしまい、そこから正解を導き出すという事ができなかった。そこで目的地との間をたくさんの中間地点で区切って、最短距離の組み合わせで考えるといった風に問題の解き方を変えることでルート検索が可能になりました。このようにその時代ごとに「これが解けたらAIだね」と言われる問題があり、それができるようになるとまた次の問題を解き始めるわけです。

山口 技術の進化とともに、「AI」という言葉が指す内容も進化しているんですね。

大澤 2010年頃からAIがデータを学習する方法にディープラーニングと呼ばれる手法が出てきて、AIの精度が更に向上しました。分かりやすい例が画像認識で、例えばAIにAさんの写真とBさんの写真を覚えさせ、次に見せる写真の人物が誰かを判断させたいとします。これまでは画像を見分けるための特徴を人間が教えなくてはいけなかったのですが、ディープラーニングによってAIが自分で特徴を学習して画像を見分けられるようになったんです。

山口 なるほど、それで一時期から顔認証システムの話題をよく目にするようになったんですね。

AIによる高精度な画像認証技術とデータの活用


大澤 画像認識はディープラーニングを利用したAIの代表例ですね。この数年で様々な業種で盛んに導入されていて、恐らくこの1、2年ぐらいで関東圏のスーパーに導入されるだろうと言われているのが、顔認証とポイントカードを使って個人の購買データを収集するというものです。ポイントカードだけだと精々レジで購入した商品しか分かりませんが、店内の防犯カメラに顔認証システムを載っけると、一度手に取ったけど棚に戻した商品などの情報も紐付ける事ができるわけです。そうすると、例えば売り場にモニターを置いておいて、前を通る客に合わせて購買に繋がりそうな商品の動画を流すといったことも可能になります。

山口 顔認証ができることで、よりピンポイントにアピールする事が可能になるんですね。でも、正直個人と結びつけられるのはちょっと怖い気もしますね…。

大澤 そうなんです。技術としては実装可能でも、個人情報保護の観点や消費者側の意識から受け入れられにくいものもあります。実際にあった話で、タクシーの車載タブレットに顔認証システムを搭載し、乗客の年齢や性別、移動している場所に合わせてより最適な広告を流すというのをやったところ、利用者側からプライバシーの侵害だという批判が噴出し行政指導が入った事がありました。最近ですと、JR東日本が首都圏の一部の駅に顔認証付きの防犯カメラを設置し、重大犯罪での服役から出所した人物を検知する仕組みを導入したのですが、顔認証を巡るルール整備や社会的合意が不足しているとして撤回したというニュースもありましたね。

山口 技術は進化し続けていても、情報と結びつくことで慎重にならなくてはいけない面もあるんですね。

大澤 もちろん画像認識の対象は人に限ったものではありませんので、社内の業務効率化にも活用できます。例えば、設備の劣化箇所の確認作業など、従来は人間が目視で行っていた作業をAIの画像認識でサポートしたり、製造現場での不良品発見など検品作業の効率化やコスト削減にも活用されています。人手不足が深刻化している農業でも、画像認識に人の目の役割をさせるなど、AIで問題解決をはかる動きも多くなっています。

「AI」×「ビッグデータ」

山口 情報というお話が出ましたが、今回もう一つのテーマが「ビッグデータ」です。「膨大なデータ」というイメージなんですが…。

大澤 これも明確な定義があるわけではないのですが、量的に膨大というだけでなく、例えばパソコンやスマホといった通信機器、POSシステムの購買情報やカーナビの走行記録など様々な電子システムによる種類も形式も多様で、なおかつ日々リアルタイムで増加し、変化する複雑なデータです。

山口 パッとイメージが湧かないのですが、具体的に何をするものなんですか?

大澤 概念的なもので言うと、従来の一般的なデータ管理や処理のソフトウエアでは扱えないような大量のデータで、AIを使って分析することで事業に役立つ知見を得るというイメージですね。分かりやすい例ですと、小売業界での活用ですね。例えば過去の売り上げデータと担当者の経験則だけでは精度の高い発注は難しい。そこで、気象情報やイベントの有無、交通情報などのビッグデータとAIを活用することで、複数の要素を考慮したより高精度な発注を行うことができます。総務省のサイトでは、以下のように書かれています。

ビッグデータとは何か。これについては、ビッグデータを「事業に役立つ知見を導出するためのデータ」とし、ビッグデータビジネスについて、「ビッグデータを用いて社会・経済の問題解決や、業務の付加価値向上を行う、あるいは支援する事業」と目的的に定義している例がある。(引用元 総務省

山口 なるほど、従来は不可能だった膨大なデータの管理や分析がAIの進化で可能になったことで、これまでなら持っているだけだったようなありとあらゆるデータから企業にとって有用な情報を取得できるようになったんですね。

大澤 例えば天気と売り上げから「暑い日はアイスが売れる」とかなら人間でも分析できますが、ビッグデータを活用することで人間が気づいていないようなところの因果関係や相関関係を導き出す事ができます。製造業でしたら、例えば製品にセンサーを付けて振動とか回転数、温度や年数などのデータをとって、どのくらいで不具合が生じたり部品が壊れるのかを予測できるので、そうすると適切なタイミングで予防的にメンテナンスできるようになりますよね。

AIの開発とクラウドサービス


山口 そうなると、中小企業もAIの活用は必須!という感じですね。

大澤 今後そうなっていくとは思いますが、現時点では必ずしもそうではないかなと思っています。

山口 そうなんですか?

大澤 ビッグデータの収集は、今後活用していくことや自社のオペレーションの自動化、効率化のためにもやっておいた方がいいと思います。ただ、今すぐ中小企業が自社でAIを開発して使う必要があるかというと、それなりの予算が必要になるので費用対効果の面で難しいかなと。

山口 そもそもAIを開発するというのはどういう感じなんですか?

大澤 スモールサン・ニュース8月号の鼎談で取り上げた、アマゾン ウェブ サービス ジャパン株式会社(AWS)で説明しましょうか。このAWSはクラウド・サービスの提供をしていて、サーバやデータベース、ストレージなど200以上の機能を必要に応じて利用する事ができます。と言っても、分かりにくいですよね。
先ほどの画像認証でいうと、AWSのストレージ機能を利用して店舗カメラの大量の録画データを保存し、AWSの画像認証機能を利用して画像から人物を検出、また別の機能で不審な行動を検知して、更に別の機能で検知結果を通知する、といった感じでAWSの提供する複数の機能を組み合わせて、目的の機能を持つ一つのシステムを開発します。例えるならAWSはホームセンターで、そこにネジや板、工具などの部品や貸倉庫が置かれているので、必要なものを選んで机や棚を自分で組み立てるというイメージです。当然、何をどういう順番でどのように組み立てるのかという知識と技術なければ完成しませんので、そこで専門家が必要になります。

山口 なるほど、そこでコストがかかってしまうわけですね。

大澤 今日本のITエンジニアはかなり高いので、最近は外国人エンジニアを使っている企業も多くなっています。その場合は円滑なやり取りをするためにも、間にもう一人必要になりますが、それでも日本のエンジニアを使うより安かったりします。今は色々なベンチャー企業がAWSを使って組み立てたシステムをどんどん出していっていますので、自社で開発せずとも中小企業が低コストで活用できるAIシステムがこれからもっと出てくると思います。
余談ですが、「AWS」というと馴染みがないと感じる方も多いと思いますが、例えばビジネスチャットツールの『Chatwork』やQR コード決済サービス『PayPay』などもAWSを使って開発されてるんですよ。スモールサン会員でも多くの方が使っているであろうWeb会議サービスの『Zoom』でも使われています。

山口 そうなんですか!?思った以上に身近なサービスで使われてるんですね。

AIは成長するための「ポジティブなツール」
〜「関係ない」ではなく「活用するならいつか」を考える〜

大澤 私個人の感覚では中小企業がAWSなどのクラウドサービスを使おうとしないのは不思議なんですが、それじゃあ中小企業が自社開発するだけの費用対効果が必ず出るかというと難しい面もある。それならAIサービスとしてパッケージでリリースされた時にその特性を理解しながら利用するのが良いのかなとも思います。

山口 まだそういったAIシステムというのは多くはないんですか?

大澤 そうですね。先ほどのホームセンターでいうと、今は釘やネジ、板といった部品が「すごく安くなったよね」と言われるようになった段階です。これから徐々にそれらの部品で作られた棚や机がたくさん出回るようになってくるというイメージですね。なので、中小企業でも専門家を雇えるような規模だったり、それこそ開発したAIを日本中へ売っていこうというスタンスだったりするなら、成長するためのポジティブなツールになります。

山口 どちらにせよ、今後段階を踏んでAIは身近になっていくんですね。とすると、「自分には関係ない」ではなく、「自社で活用するならいつか」を意識して今から情報にアンテナを張っておく事が大切ですね。実際に中小企業にとってAIが当たり前になってから重い腰を上げるのでは相当出遅れてしまいます。

大澤 中小企業がビジネスで活用するという視点で、今後も必要な情報を分かりやすく発信していきますので、ぜひチェックしてほしいと思います。


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