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大澤徳の“現場レポート”!2021年9月号
「中小企業経営者がIT企業と関わる上で大切なこと
〜誤解しがちな4つの考え方〜」
最近、スモールサンニュースでITに関する記事を書かせていただいた事をきっかけに、様々な相談をいただくようになりました。たとえば、ウェブサイトを立ち上げたい、インターネット通販をはじめたい、社内の通信インフラをどのように整えたらいいのか、DXの進め方についてどう思うか、顧客管理システムの導入をどうするか、などなど。
コロナ禍になり、非対面・非接触の重要性が認識されて、IT技術を駆使して何かしら社内体制なり、顧客対応を変革しなくてはならないと感じられている経営者の方も多くなってきたように思います。また、コロナ後を考えてみても、これからの企業経営において、多かれ少なかれIT技術を普段の業務に実装していくことが求められていく流れは変わらないと思います。
そうした中で、ITを経営課題に据え、実際に何かを進めていくことになったとき、社内だけでは対応が難しく、協力してくれるIT企業やIT分野に明るいコンサルタントを探すことがあるかと思います。すでに、新しくIT企業とのお付き合いを始められた方や、これから発注しようと思っている方もいらっしゃるかもしれません。
しかし、ITを苦手とする中小企業と受注するIT企業の間では、しばしば齟齬が発生しがちなのも現実です。そこで今回は、これからIT企業と関わっていく上で、中小企業経営者が知っておくべき大切なことを共有させていただきます。
※本稿でIT企業という言葉は、中小企業向けにITのシステムやソフトを開発及び販売している会社のことをイメージしています。
カタチのないモノをお願いする難しさ
普段から経営者の皆様は、自社の経営を進める上で、様々なモノやサービスを購入し、それらを組み合わせて事業を営まれていると思います。
そういったモノや既存のサービスを他者に依頼・相談する時には、相手の持つ事例や過去の商品などのサンプルを提示してもらい、それらを判断材料の一つとして納期や予算を相談することがありますよね。モノやサービスの場合は、目に見える物質であったり、目に見えやすい作業だったりするので、双方が具体的なイメージを共有しやすいと思います。
ただ、IT関連の発注をする場合には、物質的なカタチがなく、目にも見えにくい情報を処理することを依頼するので、依頼者と業者の間で共通のイメージを持ちにくいことが多くあります。
理想で言えば、依頼する側がITに何を求めて具体的にどういったことをお願いしたいのかを明確にした上で、IT業者と相談できるのがスムーズだと思いますが、それもITに関する知識がなければ難しいですよね。そもそも何をお願いしたいのかが漠然としていて、むしろ「何をお願いできるのか教えて欲しい」という段階で悩んでいる方もいらっしゃるかもしれません。
2010年代までのITやデジタルの進捗は、パソコンやスマートフォン、タブレット端末など、ハードウェアの普及が主でしたが、今後はインターネットの向こう側にあるITサービスをどのように組み合わせていくのかという目に見えない情報処理の仕組みを構築していく段階に移りつつあります。
まず経営者の皆様には、今までの「目に見えるものを捉える感覚」ではなく、IT分野においては「目に見えない概念やイメージを捉える感覚」が必要なんだということをご理解いただきたく思います。
「わからないから、調べてみよう!」ではなく、ただ「怖い」「不安」と思っていませんか?
「ITについてはよくわからないけど、ちょっと相談してみるか」と、経営者がIT企業とお話をするとぶつかる壁に「専門用語」があります。カタカナのIT専門用語を多用されて、「何を言っているのかわからない」「そもそも煙に巻こうとして、本当は要らないものを売ろうとしているだけなんじゃないか」「わかるように説明する気持ちを感じられない」などなど、ストレスを感じられる方もいらっしゃると思います。
これについてはIT企業側がもっと一般の方にもわかりやすい言葉で説明できる力を向上させるべきだと思う一方で、厳しいようですが経営者の方々にも理解しようという姿勢を持っていただきたく思います。何故なら、無知でいることで損をしてしまうのは自分だからです。
これはIT以外の分野でも同じだと思うのですが、いつもなら「わからないこと」について「〇〇〇がわからないので、もう少し調べてみよう、確認してみよう」となるところが、ことIT分野になると苦手意識や漠然とした不安からストレスを感じ、それができなくなってしまう方も多いのではないでしょうか。
経営者の皆様には釈迦に説法で大変恐縮ですが、何か物事を理解するときには、「事実」「発生確率」「法則」「解釈」などの様々な要素に分解して、1つ1つ思考を積み重ねていくことが大切です。
そういった思考をせずに無理やり理解しようとすることが、「ITを入れれば何でもできる」または「ITなんて全然ダメ」といった極端な捉え方に繋がっているように思います。また、「IT企業は変な人ばかり」とか、「セキュリティ上の問題があるというニュースを見たから、ITは危険」といったような、1つの事例を全部の話と過剰に解釈してしまうことにも繋がりかねません。
「社長の器以上に会社は大きくならない」とも言われるように、まずは経営者自身が自分の持つべき知識を拡げていく感覚も大切だと思います。今こそITについて、「わからない」「怖い」ではなく、勉強していきましょう!
IT企業と関わる上で、誤解しがちな4つの考え方
誤解1、「外国のITサービスは信用できない!」という意見
では、ここからは、IT企業と関わる上で経営者の皆様に知っておいていただきたい、「誤解しがちな4つの考え方」を下記で述べていきます。
経営者の方から、「海外のITサービスばかり使っていると日本のためにならないし、日本のITサービスだったら安心なので、日本製を使う方が良い!」というご意見を伺うことがあります。
昨年の春に、コロナの影響のため、スモールサンの勉強会でオンライン会議ツールzoomを選択した際にも、「日本のベンチャー企業のこんなサービスがあるので、そっちを使った方が良いんじゃないか?」というご意見をいただいたこともありました。また、「Microsoftのクラウドは危ないが、NTTのクラウドだったら大丈夫」というご助言をいただいたこともあります。
まず、経営者の皆様にご理解いただきたいのは、ITサービスは日本より海外のほうが圧倒的に進んでいるものが多いという前提です。身近なところでも、Amazon、Google(YouTube)、Netflix、Microsoft、appleなど全て海外のサービスです。
反論を恐れずに申し上げますと、日本が明治の頃に海外から積極的に当時の先端技術を輸入し発展したのと同じように、今はITサービスに関しては「技術を輸入する段階」だと捉えています。輸入せざるを得ないからといって、必ずしも日本が劣っているという意味ではなく、むしろ積極的に輸入した技術を日本国内の産業や生活にどのように落とし込み、いかに発展させていくかを問われているのだと思います。
誤解2、何でも「できる!」と言う業者のほうが安心 無理してやってくれる安心感
とある会社がITシステムを刷新しようとしているときに色々と相談していくと、何でもすぐに「できる!できる!」と言ってくれるIT企業がいたりします。勿論本当に「できる」場合にはいいのですが、中には「できる」と言って受注したいだけの場合もあるので注意が必要です。
経営者の方もIT企業が「できる!」と言ったから「これもできる?」と追加していき、「こんなに色々とやってくれる業者が見つかって良かった。安心安心。」と喜んでいたりします。ところが、実際に開発を進めていくと、当初は「できる」と言っていたのに途中で「やっぱりできません」と追加の費用を要求してきたり、保守料金が当初の想定金額よりも高くなったりと、詐欺を疑うような事例も残念ながらあります。ひどい場合には、そもそも納入されたシステムが動かないというケースまであったりします。
これも実際にあった話で、とある企業がシステム開発を発注したところ、結果として実際には動かない不完全なシステムが納入される事態になりました。お話を聞いてそのIT企業は私からすれば簡単に安請け合いするようなひどい企業だったのですが、発注企業の経営者の方は「無理でも無理をなんとかするのがプロの仕事。IT企業もプロなんだから、なんとかできるはず!こっちが強くいえば、なんとかしてくれる!」とおっしゃって、強い態度でそのIT企業にコミュニケーションをとっていました。
確かにIT企業側も発注企業の要望に合わせる努力は必要だと思いますが、実際にできないようなことまで安請け合いする企業は信用に足るプロでしょうか?私は、何でも「できる!」と言うIT企業よりも、たとえ経営者にとって耳の痛い話であっても「この予算・スケジュールでは実現できない」とか「ここを減らすと、実現できるかもしれない」とはっきり言ってくれる、または提案をしてくれる業者の方が安心のように思います。強くプレッシャーをかければ何とかなる場合があることも理解できますが、「目に見えない」IT分野においてもビジネス上、システムの制約上など、物理的に無理という線引きもあることを知っていただきたく思います。
誤解3、カタカナだらけの専門用語を駆使している業者が最先端
IT企業との面談の中で、専門用語らしいカタカナがたくさん登場して、「そのカタカナの意味はなんですか?」と聞くと、色々と先端技術のような言葉の意味を教えてくれることがあるかもしれません。そうした専門用語のようなカタカナの意味を教えてもらっているうちに、「なんとなくITに詳しそうだ。IT分野のことはITの専門家に任せておいた方が良いのではないか」と感じられる場合もあると思います。
そういったときに、一度「そのIT用語を教えてもらったことで、経営課題の解決に近づいたか?」と一歩引いた目線で考えてみてください。多くの中小企業の経営課題の解決からみて、必ずしも必要でないIT用語や概念はたくさんあります。たとえば、「AI」「ブロックチェーン」「量子コンピュータ」などの最先端の技術を用いて自社開発をする必要性は、2021年の時点においては、中小企業にとってそう多くはないように思います。
当然のことながら、IT企業に望むのは、IT用語を教えてもらうことではなく、IT技術を用いて一緒に経営上の課題解決を考えてもらうことです。当然、最先端のIT用語を知っている=最先端のIT企業ではないですし、最先端のIT企業が必ずしも中小企業の課題解決に向いているわけでもありません。
IT企業側には、ITの仕組みを解説する能力だけではなく、企業の経営上の課題をどのように解決できるのかを経営者にわかりやすく説明する能力も求められますし、経営者の方も表面上の知識に惑わされない気構えが必要だと思います。
誤解4、値段が高い業者が高品質、安い業者は低品質
新しいシステムを発注しようと何社かに依頼してみると、A社は1,000万円、B社は500万円というように、全く異なる見積金額が出てくる場合があるかと思います。一般的に考えると1,000万円のほうが高品質で安心、500万円のほうが低品質で不安、と思われるかもしれません。
勿論個別のケースごとに異なりますが、実際には必ずしも高い方が高品質、安い方が低品質とは限りません。今となっては時代遅れの古いシステムを組もうとしているため余計に人手がかかって値段が高くなるケースや、逆にすでに作ってある既存のシステムをアレンジして使用することで値段を安く抑えることができるケースもあるからです。
実際に私が見た中でも、とある企業に対して1,000万円以上のシステムを提案する内容を拝見したところ、別な方法を使えば100万円以下で同様のシステムを実現できそうだ、というケースに出くわしたことがあります。今となっては私の言葉も足りなかったのだろうと反省していますが、その時に「100万円以下で実現する方法もあるのではないか?」とお伝えしたところ、その経営者さんには「安すぎるので不安だ」と聞き流されてしまいました。
先にも書きましたが、価格と品質の問題は個別のケースごとに異なりますので、勿論見出しの通りのケースもあると思います。このあたりの見極めは難しいと思いますが、難しいからこそ価格だけを見比べるのではなく、IT企業側から提案された内容とのバランスをよくよく考えることが大切です。
終わりに
今回の記事では、IT企業と関わる上で、前提として知っておいていただきたいことについて共有させていただきました。
記事中でも述べましたが、普段関わらないIT企業の方とコミュニケーションをとるのは、ストレスや難しさを感じられる方もいらっしゃることと思います。ですが、これから中小企業も大なり小なりITと関わることは避けられなくなっていくでしょう。
そうした時に、今回の記事のようなことを前提においていただき、本来の目的である経営課題の解決に向けて、経営者とIT企業の双方がスムーズに意思疎通をできるようになることを願っております。