スモールサンニュース大澤徳の“現場レポート”

「『M&A“思考”』でビジネスに変革を!
〜経営者が身につけるべきビジネス・リベラルアーツ〜」

経営者にとって学びはとても重要なものです。スモールサンでこうしてニュースを読んでくださっている方には当たり前なお話ですね。
では、その学びや日々のニュースなどで得られた情報はどのように活用していますか?そう言われると、自社のビジネスにまでは活かせていない……という方も多いのではないでしょうか。

そこで、今回は「M&A“思考”」をテーマにした鼎談をお送りします。
といっても、M&Aの手法について話すわけではありません。
M&Aは「つなぐための手段」であり、M&A思考は「何かと何かをつなげることで新たな価値創造をする」ための思考法です。

得た情報をそのままにせず活用するにはどうすれば良いのか。会社を成長、発展させるためには何が必要なのか。そのヒントをお届けします。


【鼎談参加者】
スモールサンM&Aプロデューサー
株式会社オプティアス 萩原直哉氏(左上)

スモールサンゼミNAGOYA・GIFUプロデューサー
税理士法人AtoY 山内新人氏(右上)

スモールサン事務局 大澤徳

目的化しがちなM&A
〜M&Aは「つなぐための手段」の一つ〜

大澤 今回の鼎談のテーマは「M&A思考」ですが、お二人の簡単なプロフィールをお聞きしながら、まずはM&Aについてお聞きしたいと思います。

萩原 私は、以前帝国データバンクに勤めていたのですが、2005年に会社の出資でM&Aの子会社を作ったんですよ。タイミング的には、世の中にM&Aという言葉が出始めた頃ですよね。当時は村上ファンドがブイブイやっていたり、ライブドアがフジテレビの親会社に買収を仕掛けたりといった出来事があって、あの辺りからテクニカルな買収というのが増え始めたんです。そのきっかけになっているのが、その数年前の会社法の改正で、M&Aによる企業再編がやりやすくなったんですよね。帝国データバンクは日本中の社長さんに訪問できるプラットフォームがあるので、それを使ってM&Aの会社を作りたいっていうことで、出資してもらって会社を作って。3年半程で何百万かの譲渡から2、30億のM&Aまで4、50件やりました。その中で色々な再生案件もやったりして、2008年のリーマンショックをきっかけに退社して、翌年の2009年に株式会社オプティアスを創業しました。もともと社会人になった当初は貿易会社に入って海外との取引をやっていたので、もっと海外と色々なことをやりたいなという思いもありましたし、何より帝国データバンクでの約8年間で数千社の中小企業の社長さんたちと仲良くなれましたので、そういうプラットフォームを使って、つなぐことで新しい価値を創りたいということを考えるようになったんです。

大澤 その頃から売った買ったの手法ではなく、「つなぐための手段」としてM&Aを捉えてたんですね。

萩原 そうですね。目的は「つなぐこと」であり、それによる価値創造なので、別にM&Aにこだわる必要もないんですよね。会社と会社をつなげるビジネスをやる。その手段の一つがM&Aだと最初から思っていたので、会社名にM&Aという言葉も入れませんでした。社名にハサミって入れたらハサミ使わなきゃいけなくなっちゃうでしょ。だから、会社の目的を「情報を使って社会の最適化をする」ことと考えて、最適化という意味のオプティマイゼーションという言葉が社名の由来になっています。

大澤 山内さんは税理士さんですが、いかがですか?

山内 私は税理士法人AtoYという会計事務所、税理士事務所の代表をやっています。税理士を目指したのがちょっと遅かったというのもあって、資格が取れたのは34歳の頃なんですが、実はそれ以前に28歳の頃に創業をしているんですよ。友人と共同で出資して会社を作って、潰れかけた学習塾を買ったんです。その塾を立て直してからは、小さなビル管理会社や飲食店など次から次へと拡大しました。共同経営だったので、規模拡大に伴って色々あったこともあり、そことは税理士の資格を取れた頃に別れてしまったんですが、今思うとそれがM&Aだったなと。逆の分社という経験もそこでしているんですよ。近くに大手ができたから学習塾を閉めたいと共同経営者が言い出したので、それは生徒さんが可哀想でしょということで、私が別会社を作って分離した学習塾を譲り受けたんです。

大澤 そうだったんですね。

山内 萩原さんと出会ったのは税理士になってからで、うちのクライアントさんのM&Aがきっかけでした。そこですごく良い経験をさせていただいて、税理士としてリアルにM&Aを手がけるようになったのはそこからですね。萩原さんというアドバイザリーに出会うことができましたし、そのクライアントさんにもとても感謝していただけて、今でもずっと良い関係が続いています。そういうことから、「感謝をされるM&A」の大事さを強く感じました。実際、感謝されないM&Aというのもありますからね。現在、別会社を立ち上げて創業支援もやっているんですが、それもこういった経験が繋がっているなと思います。個人的な話ですが最近自分が病気をしたこともあり、病気や亡くなってしまうことって誰にでも突然起こる可能性のあることで、だからこそ「今M&Aをする・しない」ではなく、手段の一つとして自分の会社を「M&Aできるような会社」にしておくことが大切だなと感じています。

大澤 確かに事業承継の話なんかでも、遠い話のように捉えている経営者さんも多かったりします。ですが、事業承継に限らず、何でも必要に迫られてから用意をするのでは遅いんですよね。いざ「その時」が来たら具体的にどうすればいいのか、どういう人を頼ったらいいのかといったことを予め備えるのが経営者の仕事ですし、スモールサンでもそういった情報や学びを提供したいと思っているので、すごく共感できるお話です。

つなげることで価値創造する「M&A“思考”」の発想法
〜情報は「自分事化」「ナレッジ化」しなければ使えない〜

大澤 今回のテーマが「M&A“思考”」となっているのも、そういった意図からなんでしょうか。

萩原 世の中、M&Aっていうと「売る買う」「高い安い」といった刹那的というか短絡的な思考にすごく寄っているんですよ。そうすると、M&Aそのものが目的化してしまう。例えば、東京から福岡へ行くときに飛行機に乗るでしょ。でも、飛行機が速いからって横浜へ行くのに普通は飛行機使わないよね。でも、飛行機に乗ることが目的になっていると、横浜行くだけなのに「飛行機を使わなきゃ」って頭になるし、その内「横浜行くの止めよう」になっちゃう。これが当人は気づかず往々にして起こっているのが最近のM&Aの傾向なんです。

大澤 飛行機で考えると手段が目的化することのおかしさがよく分かりますね。

萩原 M&Aという言葉の意味は「Mergers(合併)and Acquisitions(買収)」だけど、じゃあ何のためにM&Aをするのかという話です。だから、業界に対するそういう問題提起的なところもありますね。手段としてのM&Aの向こうに、「何かと何かをつなげて課題解決・価値創造をする」という目的があることを忘れちゃいけない。僕らってつい目の前の物事にとらわれがちで、それに集中しちゃうと俯瞰的に物事を見られなくなったり、その業界の常識だけで考えてしまったりします。でも、実際には「隣の業界とつなげてみたら新しいビジネスにつながる」とか、「他の会社のやり方と組み合わせることで問題が解決する」ということが結構ある。そのためにM&Aの技術を使うことも確かにありますが、何より重要なのはこの「これをつなげると解決しないかな」という発想を得るための思考なんです。それをもっと意識的に応用しようというのが「M&A思考」です。

大澤 具体的にはどういった思考法なんでしょう。

萩原 例えば、日頃我々が見ているニュースだとか、誰かから聞いた話とかって、そのままだとただの「情報」として頭の中で散らばっているだけです。一方で自分の仕事のことや興味のある事柄についての情報は、「自分事化」して思考フレームの中に格納されていきます。その中で他の情報や知識とつなげられて「ナレッジ化」してようやく「知識」として活用できるようになる。一つの情報を「1」として、それがどれだけたくさんあっても散らばっているだけでは「1」は「1」のままです。情報を自分事化して知識(ナレッジ)として繋げることで「1+1」で「2」になるし、もしかしたら「3」にもなるかもしれない。こういうことってやっぱり優秀な経営者や営業マンとかはとっくに気づいて本能でやっていますよね。そういうのを意図的に狙えるように練習していくというのもM&A思考だと考えています。



大澤 なるほど。例えば売上を拡大したいとして、その商品を上手く売れそうな会社をM&Aするのか、または提携するのか、もしかしたら自社に営業マンを入れた方がいいかもしれないし、広告宣伝費をかけた方がいいかもしれない。手段にとらわれず、「何をつなげることで何が解決できるのか」という思考で経営戦略を考えた方が、効果を最大化することができますね。


M&A自体は最強の「手段」
〜会社の「成長」と「発展」の選択肢を増やす〜

山内 もちろん、売上を上げるために販売能力のある会社をM&Aするとか、高度な技術や技術者を得るために既存の会社をM&Aするなど、その方が早かったり、シナジーが生まれやすいといったことは多々あります。あくまでも「手段」という意味では、M&Aというものはすごく使い勝手のいい手法です。最近ちょっと増えてきているのがM&A起業というもので、それこそ先程の私の話のように、創業者がM&Aで会社を買って起業するという。アメリカなんかでは、学生でも出せるようなお金でM&Aして、それを自分で大きくするというのが一種のトレンドにもなっているようで、これから日本でもそういった利用がされていくんだろうなと思っています。

萩原 重要なのは考え方です。M&Aという字面に流されて、「これを使えば何とかなる」なんて考えは当然ダメですが、逆に「自分とは関係ない」と知ろうとしないのもダメですよね。どのように活用できるものなのかをちゃんと理解してしまえば、M&Aは「最強の戦略」にもなりますから。

大澤 山口義行の講演で、企業が質的に変化しないまま量的に増えていくのが成長で、量的には増えないけれど質的に変化していくのが発展だという話があるんですが、M&Aはそのどちらにも使える手段ですね。

萩原 そういう観点もありますね。よくM&Aを活用した「成長ベクトル」の話をするんですが、これでいくと①で深掘りしていくのが成長で、②③④へ進んでいくのが発展ですよね、きっと。M&Aを手段として理解していると、自分が行きたい方向へ適切に、スピーディーに進むために活用することができます。最終的な手段が何になるにせよ、「これしか手がない」という状況と、複数の選択肢がある状況では結果にも違いが出ますよね。M&Aの知識があることで、「この会社を買収しよう」とか「ここの会社に出資しよう」といった発想が生まれて、その選択肢を増やすことができるわけです。



M&A税制でM&Aを「目的化」しないこと
〜「本質はどこにあるか」を考える〜


大澤 今話題になっている「M&A税制」なんかでも同じことが言えそうですね。

山内 そうですね。税制の面ではたしかにM&Aをしやすい環境を作ろうという国の姿勢が現れているんですけど、それこそM&Aありきというか、全てのものがM&Aで解決できるかのような税制でもあるので、私の中ではそれがちょっと嫌だなと感じています。

大澤 それこそM&Aが「目的」になってしまいかねない。

山内 M&A思考の中で、ちゃんと目的に対する手段としてM&Aを選択して、実行するために必要なことを学んだ上で、それが節税できるとか、優遇されるということになるのであれば良いんですけどね。今年度の税制改正で一番大きなポイントに「株式対価M&Aを促進するための措置」というのがあって、これは買い手側が売り手側に現金ではなく自社株を対価として渡すというものなんですが、今まではそれに対して株を受け取った売り手が譲渡益税を満額払わなきゃいけなかったのですが、この税制改正で課税が繰り延べされることになったり、対価のうち20%までは金銭等の混在対価が認められることになりました。どんどん株でやりとりしましょうよ、ということですね。その他にもM&Aの設備投資について特別償却ができるなど、買い手側に積極的に買おうよと働きかけているんですね。

大澤 アトキンソンではないですが、中小企業の数を減らそうという意図も見え隠れするような……。

山内 なぜこの時期に、というのも感じますよね。ただ、それはそれとして十分利用する価値はあると思います。実際にM&Aをするのなら、活用できるものは全部活用するべきですからね。

萩原 この背景事情には、今70歳を超える中小企業経営者の数が245万社になっていて、その半数の127万社が後継者がいないという、中小企業の事業承継問題がありますよね。その半分は赤字で倒産するだろうけど、もう半分の60万社はニーズがあるのに無くなってしまう。そういった無くなってしまう企業をM&Aで救わなきゃ、というのが中小企業庁の言い方ですよね。10年で127万社も潰れてたら大変だよと思うけど、毎年4、5万社ずつ廃業しているのは事実で、そこまで酷くないにしても10年で40万社ぐらいは減る訳です。一方で、アトキンソンが言っているような中小企業減らしの方向性に押し流しているんじゃないかと考えることもできる。

大澤 つまり、こういった税制改革なんかがあったときに、ただそれに飛びつくようではいけないということですよね。情報を得て知識に変えて、様々な判断の上で、自社にとっての最適解を出すのが経営者のやるべきことだと。

山内 それこそ大手さんなんかは、こういった話が出ると「M&Aしましょう」というのが前面にきますよね。負担がすごく減りますよ、助成金がありますよ、売りも買いもできるんですよ、といった風に。でも、本質はどこにあるのか。「楽に売り買いできるか」ではなく、「本当に売り買いする必要があるのか」というところを見極めなきゃいけないですよね。これは銀行の融資なんかでも同じことです。

全ての経営者が備えるべき教養“ビジネス・リベラルアーツ”
〜「M&A思考」が発想のヨコ展開を可能にする〜

萩原 このM&A思考って、経営者にとっての「リベラルアーツ」だと思うんです。

大澤 リベラルアーツというと、「教養」ですか。

萩原 言葉の由来は古代ギリシャ・ローマ時代です。非自由民というのが奴隷で、奴隷以外の人が自由民と呼ばれていた時代にあった「自由であるための技術」というのがリベラルアーツ、日本語でいう教養です。奴隷にならず自由であるためには、天文や音楽、修辞、文法などの「こういうことを学んでなきゃいけない」という7科があって、いつしかそれが教養と呼ばれるようになっていったと。これを現代に置き換えると、貧困層と富裕層だと思うんです。じゃあその二つの層を分けるものが何かと考えていくと、やはり経営や金融、投資の知識なんですよね。

山内 例えば、香港とかシンガポールに行くと、日本人は「ワーキングプア」です。すごく働くんだけどリターンがない。あちらでは働いたら働いただけリターンがあるので、皆さん「ワーキングリッチ」という感覚でいる。その差が何からきているかというと、金融の知識の差なんです。かつては後進国だと言われていた国が、今では小学校の頃から金融や投資の話をきちんと勉強するので、サラリー以外の部分でも所得を上げていくのが当たり前になっている。ところが、日本ではそもそもそういった学びの場がない。経営と金融の知識を持ち、それを活用することができるか否かで格差ができてしまうんです。だから、私たちは学ばなければいけない。

萩原 日本は技術力で産業立国しましたが、どんなに優れた技術を持っていても、会社を大きくするのは経営の知識を持っている人なんです。テスラとトヨタ自動車もそうですよ。技術力で言えばトヨタの方が格段に上なのに、テスラの方が何倍も時価総額が高くて、資金をばんばん調達して次のビジネスにも展開できるじゃないですか。技術や専門的な知識はすごく強固なものですが、それをビジネスとして有効に使うためには、物事を俯瞰的に把握できることや、自社の業界だけでなく多岐にわたる様々な情報を自分事化して身につけて活用できることがすごく大切ですよね。この技術をビジネスにするために必要なのが経営や金融の知識であり、それがM&A思考というビジネス・リベラルアーツなんです。

大澤 経営者の仕事は、判断することとも言います。何かを正しく判断するためには活用できる知識を増やすことが大切で、それがビジネスの教養なんですね。

萩原 そこにはやっぱり世界の動向だとか、海外のビジネスが今後どうなっていくかといったことも重要です。こういったビジネス・リベラルアーツがあるか無いかで、戦略も相当変わってきますよ。これはタラレバの話ですが、例えばビジネスユースにおける飛行機の本当の価値は、「移動」ではなく目的地における「面談」だと理解できていたら、オンライン会議システムは航空会社の出資による航空ビジネスの発展の一形態としてあったかもしれない。現時点での自分たちのビジネスの本当の価値を見極めたときに、M&A思考はその価値の軸線上に発展的な異なるビジネスを載せることができるわけです。こういう発想のヨコ展開というのは、日頃から様々な情報を自分事化してナレッジとして落とし込んでいないとなかなか出てこない。そのためのビジネス・リベラルアーツです。



山内 このM&A思考を鍛えるのは、山口先生の言う「成長」と「発展」、両方に対するヒントを与えてくれる時間でもありますね。M&A思考において「M&A」は一手段なので、学んでいく中でM&Aの変わりにFCでも同じ効果、目的を達成できるかもしれないといった考え方ができるようになる。また、これは投資の感覚とも同じなんです。経営者が事業投資や金融投資するものに対して、どういったリターンがどのくらいあるのかという測定ができるようになります。このリターンはお金に限った話ではなく、冒頭で萩原さんが仰ってたような自社の課題解決や新たな価値の創造、それこそ社会貢献でもいい。実際にはそういったリターンをちゃんと測定できていない人が多いので、これはものすごく大事なポイントの一つだと思います。

大澤 日本の中小企業は目の前の技術に集中して磨き上げていくのは得意ですし、これまでそうやってきた方が多いのかなと思います。でも、これからはそれだけではダメで、広く社会全体を見てその中で自社の資本やリソースをどう動かしてビジネスにしていくかを考えることが求められているのだと感じました。本日はありがとうございました。


追記

文字数の関係から、今回の記事に収めきれなかった情報がたくさんありました。
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