スモールサンニュース大澤徳の“現場レポート”

「中小企業にあった身のためデジタルトランスフォーメーション(DX)のすすめ【実際にどうやってすすめる?編】」


先月号に続き、中小企業が「デジタルトランスフォーメーション(以下、DX)」を目指す際に、どんな事を意識したらいいか、筆者が考えていることを共有させていただきます。
これまで2ヶ月の間、「中小企業を取り巻く環境」や「DXをどう捉えるか?」を連載でお伝えしてきました。
今回は、「DXを実際にどんな方法で進めるのか」という視点で、筆者の見解を共有させていただきます。

▶▶大澤徳の“現場レポート”!2021年1月号
▶▶「中小企業にあった身の丈デジタルトランスフォーメーション(DX)のすすめ【導入編】」

▶▶大澤徳の“現場レポート”!2021年2月号
▶▶「中小企業にあった身のためデジタルトランスフォーメーション(DX)のすすめ 【DXをどう捉えるか?編】」

ゼロリスク思考を捨てて、失敗を前提に成功を目指す

経営者が「DXについて何か考えて提案してみて欲しい」と指示した後で、従業員から「こんな提案いかがでしょうか?」と返答があったとき、「大丈夫?それやって、失敗しない?」「絶対失敗しないように!」なんて言っていないでしょうか?
このような「絶対に失敗を許さない!」という態度では、従業員は萎縮して「もしかしたらこんな技術でこんなことができるかもしれないのに」と思っていても、提案しなくなってしまうかもしれません。

また、外部のIT企業とのやり取りでも同じです。“まともな”IT企業であれば「この経営者はコミュニケーションがとれないから、ちょっと身を引こう」と思いかねませんし、“まともではない”IT企業の場合は「大丈夫ですよ」と安請け合いした後で、実際には「経営者が想定しているシステムが完成しない」「保守運用のメンテナンス費用が膨大にかかる」など自分が大変な思いをすることになるかもしれません。

そもそもDXに限らず、どんな新しい試みも全てが始めから100%うまくいくとは限りません。
特に、デジタル技術のような新技術を用いて新しい事に取り組むときには、最初から上手く使いこなして計画通りに利益に貢献できることは稀です。いっそのこと「失敗(チャレンジ)は、成功に至る過程での情報収集」と捉え、柔軟に様々な方法を試してみようという姿勢で、DXを進めていただくのが結局近道のように思います。
ただ当然ながら、失敗し続けるわけにもいきませんから、失敗してもいいと思える費用や期間など許容度を設けることも必要です。
多くのライバル企業が導入し、技術的にも費用的にも簡単になってから自社で導入するという選択肢もありますが、そうした姿勢ではデジタル技術を武器にすることはできず、むしろデジタル技術を武器にできた企業に淘汰される恐れさえあるでしょう。各企業が適切な範囲でリスクをとりながら、自社の競争力に繋げる技術開発としてDXを進めていけることを願っております。

筆者自身の意見ですが、スモールサン事務局では「デジタル技術を用いて業務効率化を進め、各事務局員の生産性を向上させる」という方針を掲げ、現在は昨今の時流に求められているITツールのほとんどを導入できているように思います。しかし、その方針を掲げたばかりの2013年頃は、紙での管理業務が膨大にあり、そもそも業務のフロー自体が確定しておらず、今でいうレガシーシステム(※)が跋扈する混沌とした状況でした。

そこで当時の私は、「最低でも3〜4ヶ月に1つ新しいソフトウェアを導入して、業務フロー自体を改善して、月間で1人当たりの労働時間を〇〇時間削減しよう。」という目標の立て方をしました。
他の事務局員や山口義行に何かを導入することを提案したときには、
「費用対効果は適切なのか?」
「クラウドってなに?クラウドとサーバーって何が違うの?」
「オンプレミスと、クラウドのメリット・デメリットは?」
「サブスクリプションと、継続課金(リカーリングモデル)って何が違うの?」
「情報セキュリティについて、どういう考え方をするのが適切か?」
「導入しようとしているシステムが今後なくなることはないのか?」
「個人情報の観点からみて、長期的に適切なツールといえるのか?」
「ウェブサイトリニューアルするときに、何を求めるのか?」
などなど、様々な質問が返ってきました。基礎的なITについての知識がないことが原因で、様々な変革のために多くの時間を要することになりました。一方で、スモールサン事務局全体が集団浅慮に陥り誤った方向に進まないためには、様々な議論をする土壌や、各々が理解していくプロセスは必要なものだったと思います。

※・・・レガシーシステムとは、一般用語としては、時代遅れの古い仕組みのこと。情報システムにおいては主に技術革新による代替技術が広く普及した段階で旧来の技術基盤により構築されているコンピュータシステムのこと。

「やってみよう!」で あくまでスモールスタート


企業毎に応じた予算や人繰りの範囲内で、「まずはやってみよう!」とトライしてみることが大切だと思います。

いきなり大規模に導入したはいいけれど、
・請求書発行を自動化しようと思ったけど、請求書が発行できなくなってしまった
・顧客管理しようと思って顧客管理システムを導入したのはいいが、システム入力を徹底できず、正確なデータがわからなくなってしまった
など、ある程度の費用を払って社内にITシステムを導入したけれど、うまく使いこなす事ができず定着させられなかったという失敗をよく耳にします。それどころか、むしろ業務効率を下げてしまったので、組織内にITシステムへの嫌悪感や不信感を根付かせてしまったなんて事例も、企業規模を問わずよく聞きます。あまり公にはなっていませんが、上場企業でも数億円、場合によってはもっと多額のシステム投資を減損するというケースがあるようです。

まずは1人または数人が試しに使ってみる。それで問題がなければ、ある程度人数の範囲を拡げて導入してみる。そうしてITシステム導入の課題や解決策を検討した上で、こなれてきたら全社的に展開するというやり方がいいのではないかと思います。

もし中堅企業以上である程度資金的な余力があるのであれば、自社に合う業者を探してパートナーとして一緒に歩んでいく関係を作ったり、副業サイトなどを通して専門的な能力を有する方との協業を模索するのも選択肢の一つでしょう。
ただ、ITベンダーも玉石混交ですし、副業サイトの業務内容や単価をみてると「要求されている内容で、この金額でできる人はいないんじゃないかな?」って思ったりすることもあるので、それらを使いこなすにも経営者側の試行錯誤が必要なのだと思います。

DXで変えやすい分野・ジャンル

まず、DXを導入しやすい分野・業務を検討する上で、下記の2つは前提条件だと思っています。
①    業務についての情報がデータになっているか、もしくはデータ化できること
②    データを機械的に数字で判断できる業務であること
当たり前のことですが、数字で計算できる論理に落とし込めるものでないと、ITでは取り扱うことができません。
大雑把に「この辺りを自動化しよう」という姿勢ではなく、「この繰り返しの判断業務については、こういうロジックで判断してるから、デジタル化/自動化できるかもしれない」というような仮説を考える習慣を、普段から心掛けておくといいかもしれません。全ての業務をデータに基づいて自動的に判断するのではなく、例外についての対応はこれまで通り人が関わるという業務の作り方もあると思います。

具体的な分野でいうと、DXといえるような状態に持っていくためには、
需要を予測する/文字・音声の抽出・分析、応答する/個人ごとの推薦機能/不正を検知する/離反予測
といった機能を既存業務と織り交ぜていく視点が大切です。

とはいえ、全ての人がAIなどのデジタル技術について理解する必要はないと思います。
デジタル技術を理解し、自社の競争力の向上に繋げるためにどのように活用するか考える役割もあれば、既存の業務をよりよいものに変えていく役割、というような意識で分けておいた方が良いかもしれません。

おそらく上記の様な取り組みにおいて、具体的にAIやシステムをどうやって作るかということよりも、自社のどの部分のデータを貯めて、どんなデータをどんな視点で活用するのか、それによってどのくらい顧客価値が向上するのか、費用対効果があるのか、といったことを考える方が難しいでしょう。デジタルのことがわからないという技術の問題よりも、どのように経営課題に落とし込むかという問題こそが重要なのではないかと思います。

ただ、自社だけでそこまで細かく開発するのは、まだまだ難しいという企業がほとんどかと思います。そういった企業では、まず市販されているソフトウェアを組み合わせて、DXに向けてシステム導入するのがいいでしょう。
①    コーポレート部門 (人事・総務・経理)
②    営業領域 マーケティング/営業管理
③    生産領域
業界・業種、企業規模、予算などに応じて、それぞれの企業にとっての正解があると思います。

情報セキュリティについても忘れずに


さて、これまで試行錯誤しながら取り組んだ方がいいとお伝えしてきました。しかし、くれぐれもセキュリティや情報の取扱にはご注意いただきたいと思います。
(よくないことですが)電車やカフェでノートパソコンで仕事している人がいると、見積書や請求書などを、セキュリティ上リスクがあるといわれているクラウドサービスで使っているのが目に入ったりします。コストを抑えるためにフリーソフトを使う、従業員個人のPCで仕事をさせているのを黙認している(場合によっては推奨してる)というようなお話も聞きますが、そういった体制で問題ないのでしょうか?

信じられないようなお話ですが、以下は実際にあったお話です。

とあるPCの納入業者が、とある企業向けにPCを納入しました。その企業は自社で手間取るのを避けるために、納入業者に対してPCの設定も頼んだそうです。最近のWindowsでは最初にMicrosoftアカウントの設定が必要なのですが、なんとこの納入業者は他に納入した企業とも共通のMicrosoftアカウントで設定していたのです。
1つのMicrosoftアカウントで数十台もしくは数百台のPCが繋がっている状態であり、ちょっと知識がある人ならMicrosoftのクラウドを通じて他社のデータを閲覧できてしまいます。これが自社のパンフレットなど社外に漏れても困らないようなデータであれば問題ないのですが、このケースでは会計事務所のデータが入っていました。つまり、全く知らない他社の見積書・請求書・決算書などを閲覧できるようになっていたのです。
※特定されることを避けるため、改変を加えています。

ここまでひどいことをしているIT事業者に対しては強い怒りを覚えます。
しかし、ITシステムについて技術的な心配もありますが、そもそも企業側にもある程度、情報セキュリティの知識や心構えがないと、何か異変が起きたときに気付くことすらできないということを忘れてはいけません。

終わりに

ITの世界は日進月歩ですので、筆者自身も情報収集のために、書籍や雑誌、様々な企業のウェビナーなど、様々な媒体に目を通しています。社会的に信頼できるとされている団体から発信されている情報ですら、一昔前の古い知識で、現時点では通用しないものが混じっていたりもします。誰かに丸投げしたり頼りきりにするのではなく、苦手意識を横に置いて、まずはこうして様々な情報に触れるところから始めるのもいいかもしれません。
一昔前のITは、「費用がかかるばっかりで、利益に繋がりにくい投資」というイメージもあるかもしれません。ですが、これからは「ITを活用してどうやって顧客価値を向上できるか」が問われていく時代だと思います。
今回の記事を書くにあたり、中小企業経営者の方にお伝えしたいことが沢山あったのですが、文字数の関係で、これで終わりにしたいと思います。各企業がITについて積極的に取り組み、他社に競争力をつけていただくことを願っております。

補論:日本政府の「新型コロナワクチンの接種記録を確認するシステム」ITベンチャーのミラボが3.85億円で受注

元の情報ソースはこちらです。
https://www.nikkei.com/article/DGKKZO69301930Z10C21A2EA2000/

接種管理、新興ITが受注 ミラボがシステム開発、マイナンバーと連携

選定過程ではNECや富士通など大手企業の名前もあがったが、従来型の開発体制を引きずり政府が求める「2週間」という短納期に対応できなかったもよう。ミラボとAWSは発注者である政府側がシステムの設計を決められるようにしたり、従量課金で利用料金を抑えたりするなど大手より好条件を提示し、今回の契約にこぎつけたもようだ。

このニュースの通り、日本政府がワクチン接種記録を確認するシステムを、創業7年のベンチャー企業が受注しました。
ワクチン接種情報とマイナンバーを管理するのを、(様々な自治体との取引実績はあるとはいえ)創業7年のベンチャー企業が受注するというのは、政府が要求する短納期での開発や効率の良い業務を遂行するためには、IT技術に頼らざるを得ない状況を政府自身も表しているように思います。
しかも、AWS(※)を活用しているというのを聞くと、日本企業が運用するクラウドではなぜダメだったのか?と気になってしまいます。AWSを活用する事で、規模を柔軟に設計でき、費用も従量課金のように最適化できるので、低価格を実現するということなのでしょうが、この国のITサービスは、海外の企業に頼りっぱなしで、大丈夫なのでしょうか・・・心配になります。

※AWSとは、Amazon Web Serviceの略でAmazonが提供するクラウドサービスのことです。Amazonはインターネット通信販売を営みながら、クラウドサーバ最大手の企業でもあります。

逆にいえば、海外の企業のクラウドサービスを使って、創業数年で政府と取引できる可能性もあるわけですから、各企業が所属している業界や、地域に根ざしたなにかしらのITサービス事業を立ち上げるのも夢ではないとも思いました。


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