スモールサンニュース大澤徳の“現場レポート”

「中小企業にあった身の丈デジタルトランスフォーメーション(DX)のすすめ【導入編】」


導入・なぜ今、中小企業にDXが求められているのか

 明けましておめでとうございます。本年もよろしくお願い申し上げます。
 2020年は、コロナと格闘する異例づくしの1年間でした。昨年から続く、コロナ禍の影響により、密を避ける消費者の行動パターンや、社内での働き方・コミュニケーションのとり方にも大きな変更が求められる状況は、残念ながら今年も続くと予測しています。

 こうした予測に基づけば、現在は、売上の一時的な減少を耐える時期から、ただじっと他力本願的な姿勢で景気回復を待つのではなく、企業自体も新しい売上を目指して、「”非接触”・“非対面”を前提にして、お客さまや従業員との“関係性の再構築“すること」が急務になってきています。
 具体的には、(中小企業にとっては業務や職種の都合上、限定的な範囲での運用にならざるを得ないことも承知の上で申し上げますが)テレワークや社内チャットツール、ビデオ会議ツールなど、様々な新技術・ツールを、(部分的にでもいいので)使いこなす(もしくは使おうとする)事が求められています。
 実際に社会の流れも、昨年後半から日本政府のデジタル庁設立の動きも相まって、「デジタルトランスフォーメーション(DX)」という言葉をニュースで見ない日がないといってもいいくらい、企業のデジタル化を推進する方向への期待感が高まっています。

 今月号から連載で、中小企業が「デジタルトランスフォーメーション(DX)」を目指す際に、どんな事を意識したらいいか、筆者が考えていることを共有させていただきます。初回となる今月号では中小企業を取り巻くITやデジタルにまつわる環境について主に取り上げています。

今の変化のイメージ
仕事が変わる → 暮らしが変わる → (お店の配置、住宅の場所など)社会が変わる → (個々人の)人生が変わる → 国(行政)が変わる

スモールサンにおけるITツールの導入
 〜アナログ作業の7割以上を自動化・省力化〜

 あらかじめお断りしておくと、私は、ITツールの導入や、ITツールの開発のプロフェッショナルではありません。この記事では、この数年間、スモールサンで、実際に様々なITツールを導入し、(時には失敗しながら)業務の効率化を推し進めてきた経験を、共有することを意図しています。

 感覚的な話ですが、ITツールを導入する前の業務を100とすると、だいたい30程度の負担まで業務を自動化・効率化できていると思います。
 スモールサンでこうしたITツールの導入を積極的に取り組んできたのは、ひとえに業務上の必要に迫られてきたからです。山口義行も私も出張が多く、お互いに実際に顔を合わせるのは数週間に1度というのも珍しくない。入社時から名古屋でテレワークで働く社員もいます。

 こうした環境下では、インターネットやデジタルツールの活用を前提にして、いつでも、どこでも、滞りなく、同じように業務を遂行できる体制を実現できなければ、事務局内の意思疎通もままならず、スモールサンの活動を維持できないという必要に迫られてきました。

 記事下部にスモールサンで取り組んできたITに関する業務の概要を載せておきますので、もしご関心のある方はご覧ください。(期間限定での公開とさせていただきます)

ITについての認識を問うクイズ

 まずはじめに、現在のIT環境について、現状認識を問う簡単なクイズをしたいと思います。

1、 スマートフォンを持ってる60代は?

 ①    約5割 ②約6割 ③約7割

2、LINEを使っている60代以上の割合は どのくらいでしょう?
 ①    約2割 ②4割 ③6割

3、ネットショッピングを利用している世帯はどのくらいの割合でしょう?
 ①約3割 ②約5割 ③約7割

4、都道府県別 で人口あたり検索回数が多いのはどこでしょう?
 ①北海道 ②宮城 ③東京 ④愛知 ⑤大阪 ⑥福岡

5、休日に20代がスマホでインターネットを利用している平均時間はどのくらいでしょうか?
 ①約1時間  ②約2時間 ③約3時間 ④4時間
 
6、中学校のプログラミング教育の必修化はいつからはじまる?
 ①2021年 ②2023年 ③2025年

 回答を選んでいただけましたか? 答えは次の項目で解説します。

クイズ回答

1、スマートフォンを持ってる60代は?


正解は③7割。
 ちなみに70代の約5割がスマホを所有している。職種でいうと、「自営業者」が「正規職員」「パートアルバイト」「専業主婦・主夫」に比べてスマートフォン比率は低いようです。

NTTドコモ 2020年一般向けモバイル動向調査
https://www.moba-ken.jp/whitepaper/wp20/pdf/wp20-21.pdf


2、LINEを使っている60代以上の割合は どのくらいでしょう?


正解は③6割。
 家族とのやりとりで使用される方が多いようです。


3、ネットショッピングを利用している世帯はどのくらいの割合でしょう?
正解は② 5割。
 2020年4月から前年に比べて、約10%ほど利用している世帯が増えました。実際の店舗よりもインターネットで購入してることが読み取れます。



4、都道府県別 で人口あたり検索回数が多いのはどこでしょう?
正解は③東京都。



 このグラフから、東京は他の都道府県に比べて圧倒的に検索数が多いことが読み取れます。東京の一人あたり検索数を100とすると、2番目に検索が多い大阪でさえ東京の7割以下で、ほぼ全ての地域では東京の半分以下の検索数でした。ちなみに、このデータでは、最も検索が少なかったのは鹿児島で、東京よりも7割以上少ない。こうしたデータをみると、検索して情報にたどり着くというのは、案外限られた人だけなのかもしれません。

 この1つの図表からみても、東京とそれ以外の地域では、生活者のインターネットの利用時間や方法に大きな違いがある可能性があるように思います。故に、巷に広まっているインターネットを活用した広告・宣伝ノウハウというのは、東京近郊のみで効果が得られる、かなり限定的なノウハウの可能性があります。各地方でインターネットのマーケティングを進める際には、そのノウハウ再現性を慎重に見極めながら判断することが大切なように感じています。
 (一方で、地方には良いモノ・コトは沢山あるのに、東京へのインターネットを通した情報提供のノウハウがないために、もったいないなぁと感じる事も多々あります)


5、休日に20代がスマホでインターネットを利用している平均時間はどのくらいでしょうか?
正解は③約3時間。
 ブログやウェブサイト、SNS、動画サイトの視聴、オンラインゲームで、インターネットを利用しているようです。



 最近、Z世代(※)という単語もちらほら聞きますが、デジタルネイティブでITツールに苦手意識がなく、色んな事ができるじゃないか!すごい世代だ!という期待もあります。
 一方で、スマホを主に使ってきた世代なので、ブラインドタッチや、Office、メールなどのPCの基本的な操作に慣れていない、インターネットについて、調べ物や表現するというよりも、動画やゲームなどのエンタテインメントコンテンツを消費してきているので、そこまでZ世代が情報を生産する活動が得意というわけではない という見方もあります。


(※)用語集:Z世代とは?
Z世代とは、1990年代後半から2010年頃の間に生まれた世代と概ね定義されています。インターネットや携帯電話に子供のころから親しんでいたことから「デジタルネイティブ」であることに加えて、中高生からスマホでSNSを使いこなすため「ソーシャルネイティブ」と呼ばれます。2020年にZ世代は、世界全体では人口の4分の1を占める世代ともいわれています。Z世代は 2030年頃に20代になり社会に参画しはじめます。

6、中学校のプログラミング教育の必修化はいつからはじまる?
正解① 2021年。
 小学校は2020年から既に必修化がスタートしています。具体的な学習内容は、全国統一の新学習指導要領に基づいて、各市町村の教育委員会や各教育現場で詳細が定められていきます。まだ具体的なことははっきりわかりませんが、自治体ごとに教育の質にかなりの差が生まれそうです。都会には、プログラミングスクールも増えてきましたが、正直申し上げて 地方にはほとんど選択肢自体ありません。こうした教育格差が可視化されるまでには、もうしばらく時間がかかると思われます。

 ちなみに、2020年はノートパソコンの出荷台数が前年比250%と、激増しています。(※)
通常であれば、2019年にWindows7から10へ切り替え需要があったので、今年はパソコンの買い替え需要が落ちつく年だと思っていましたが、GIGAスクール構想、テレワークの需要増により増えていると思われます。

文部科学省 GIGAスクール 構想の実現について
https://www.mext.go.jp/a_menu/other/index_00001.htm
(※)一般社団法人 電子情報技術産業協会 2020年度パーソナルコンピュータ国内出荷実績
https://www.jeita.or.jp/japanese/stat/pc/2020/

 クイズはいかがでしたでしょうか?
 コロナ禍における企業の広報戦略を考える上で、最近の消費者のITをめぐる環境について理解することも重要ですし、今後の若手を雇用・育成する際に、それぞれの世代によって、ITの環境が全く異なることについて、理解を深めるきっかけになれば幸いです。

ITの環境は数年で大きく変わる

 クイズをされてみて、皆様が感じてらっしゃるところとデータ上の違いはあったでしょうか?
「ほとんど肌感覚とずれがない」という方もいらっしゃれば、「全然当たらなかった」という方もいらっしゃるのではないでしょうか。

 筆者自身は、1989年生まれですが、小学校(1997年ころ)に、お年玉でワープロを購入し、高校生(2004年)で自分専用のデスクトップPCを購入し、2011年にiPhone3Gsを就職活動のために購入するなど、比較的、様々なツールやソフトを試すのが早いほうだと思います。
こうしたITを取り巻く環境のデータをみるたびに、私の同年代の間では普及していることでも、様々な世代で俯瞰してみると、「まだ全然普及していないんだ」と感じてしまいます。

 ITやデジタルに抵抗感のない筆者ですら、最近の子ども世代に向けたプログラミング教育については、自分が勉強してきた5教科の科目と異なり、自分では教えられない知識を持っているという感覚をかなり強く持っています。
また、自分が知らない技術を勉強した若い世代が社会に出てくる事によって「生産性がどのくらい向上できるんだろう?」という期待が高まる一方で「自分は労働市場の中で価値を保ち続けられるのだろうか」「(一部の人が業務を自動化してしまうことによって)社会の格差はより拡がってしまうのではないか」という不安も同時に感じています。

 経営視点で考えてみて、ITの分野というのは、人事、労務、経理、税務、営業、などと同様に改めて勉強する科目、または 既に一部の企業ではそうなっていますが、適切な専門家と連携していく分野のように思います。現状は、総務の一部でITを担当しているような状態が多いと思いますが、いずれは各部署と同列の部署の1つとして、いや、むしろ戦略的にITの活用を重視して、位置づけられるかが鍵だと思います。
 今後は、上手にITを活用できる企業と、そうでない企業の間で、大きな差に繋がっていくだろうと思います。

適切な相談相手を選んでいますか?



 こちらのグラフは、平成30年に中小企業白書に、掲載されていたグラフです。こちらのグラフによると、社長がITについて相談しているのは、以下の順になるようです。
 ①    42.8% 地元のITメーカ・販売会社
 ②    26.1% 公認会計士・税理士
 ③    23.7% 地元以外のITメーカ・販売会社
 ④    12.0% 金融機関

 筆者がこのグラフをはじめて読んだ時に、「社長が相談している方々は『本当にITに詳しい方々なんだろうか?』」という疑問が浮かびました。
 誤解いただかないように念のためにお伝えしておきたいのですが、キレイなウェブサイトで、自称「新分野の専門家」を標榜している都会にあるIT企業が最新の情報を持っており、そういう企業に相談するほうがよいという短絡的な主張をするつもりはありません。もちろん中には、公認会計士・税理士でも、金融機関の方で、ITに詳しい方もいらっしゃると思います。

 スモールサンの事務局員として、スモールサン会員の社長が外部の専門家(コンサルタント)と協力する場面をこの数年にわたり拝見してきました。社長が専門家を選ぶ際には、その専門家の得意領域は何か、専門家の能力(実績・時間・方法論・マインド・予算など)を吟味した上で、どのような効果があるのか(良くも悪くも)想定した上で、慎重に判断されている方が多いように思います。外部の専門家を雇うというのは、経営に与える影響が大きい可能性があるので、慎重に考えるのは当然のことと思います。

 しかし、IT以外の分野では社長自身も書籍やインターネットで学びながら慎重に判断し、時には厳しい意見を専門家に投げかけ協力して進めていくのに、いざIT分野になると自分で勉強したり概論を把握する事なく、「専門分野だから」と丸投げ・放任し過ぎているような印象を持ちます。IT業界の方から「(依頼主の)社長から丸投げされても何を目標にしているかわかりずらいので、戻りが多くて大変だ」という声も聞いた事があります。

 ITの世界では日進月歩で、その分 技術の陳腐化・低廉化も凄まじく速い業界です。あくまで原価の話ですし、読者の皆様には極端な例のように感じられるかもしれませんが、数年前には年間1000万円以上の予算が必要だったことが、現在では月々数千円で可能になるということも珍しくありません。
 既に相当勉強されている社長には釈迦に説法で恐縮ですが、企業の意思決定者の方々には、IT・DXについてご自身でもある程度 勉強して、妥当な判断をする土台を整える、適切な専門家を見極める目を養う姿勢を大切にしていただきたいと切実に感じています。


【導入編】 まとめ

 今回の記事では、中小企業を取り巻くIT環境がどうなっているのか、共有させていただくことを重点に置いてきました。
 次回以降に、「DXとIT化の違い」「DXの進め方」や、「実際にどういう風に進めるか」など具体的な話を書いていきたいと思います。


【文末付録】
スモールサンで私が導入したツールや、ITに関して取り組んできた業務についての一覧です。概して、ツールや端末の選定、購入、導入よりも、実際に定着するまでに、業務プロセスを変更する方が大変でした。

社内業務について
・業務管理ツールを導入(カレンダーの共有など)
・チャットツールの導入
・各種クラウドによるデータ共有
・タスク管理/プロジェクト管理ツールの導入
・CRMの導入
・クラウド会計ソフトの導入
・クラウドソーシングの活用
・MicrosoftOffice パッケージソフトからサブスクリプションへ移行
・仮想デスクトップサービスの導入(クラウド上のWindowsPCにアクセスできるようにしてる)

ハードウェア
・各PCの設定・管理(Windows、mac両方)
・事務所の引越
・PCやコピー機などのネットワークの設定
・タブレット端末の導入

顧客接点
・決済方法の多様化(paypay、LINEペイ、パスマーケット)
・zoom/webExの導入
・オンラインチケット販売
・スモールサンスタジオの開設

SNS・ウェブサイト
・ウェブサイトリニューアル
・GoogleAnalytics の活用
・YouTubeチャンネルの運用
・各種SNSの公式ページの運用(Facebook、LINE公式アカウント、twitter)
・MEO(Map Engine Optimizationの略で、Google Mapを対象とした地図エンジンにおいて最適化を図ること)

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