スモールサンニュース大澤徳の“現場レポート”

「三重県松阪市:山口義行の個別企業相談レポート」


 三重県松阪市の中小企業へ、山口義行がオンラインで個別企業相談会を行いました。この相談会は、松阪市が”コロナ禍を乗り切り、新しい生活様式に対応するような独自の工夫・アイディアを支援する”目的で行う「令和2年度 小規模事業を支える応援・発信事業」の取り組みの一部です。
 スモールサン会員の皆様に、松阪の中小企業がどのような取り組みでコロナ禍を乗り越えようとしているのか、また、それらの取り組みついて、山口がどのような視点で助言を行ったのか、本記事にて概要を共有させていただきます。

 今回取り上げた業種と、似たような業種の方であれば、そのまま参考になる考え方もあるかもしれません。また、もし違う業種であったとしても、コロナ禍で変化した社会へどのように対応していくのかという視点でお読みいただけますと幸いです。

 今回、面談されたのは、下記の5社です。
酒類製造業   中山酒造株式会社
飲食店・ギャラリー レストラン・カルティベイト
呉服などの小売業  株式会社みなとや呉服店
木材販売・加工業 マルゴ株式会社
伊勢茶の製造小売業・喫茶店の運営 有限会社深緑茶房

 各企業の面談は1時間〜1時間30分ほどありました。今回の記事で共有させていただくのは各社の面談の中でごく一部、他の企業にとっても参考になりそうだと私が感じたところを抜粋して記事にしております。

中山酒造株式会社


 中山酒造は創業から今年で200年の歴史をもつ酒蔵で、2017年には酒蔵のほとんどを焼失する火災に見舞われたものの、多くのファンに支えられ新酒を醸造されたそうです。現在はコロナ禍を乗り越えるために、海外へ販売することを目指して、越境ECサイトを構築し販売力の強化を目指しています。

【過去に行われたクラウドファンディング】
火災を逃れた奇跡の酒。創業197年、中山酒造の再生を熟成純米酒「めざめ」で応援
https://www.makuake.com/project/nakayamasyuzo/

山口 コロナ禍での影響はどうでしょうか?

中山 今年はコロナの影響で、注文が大きく減ってしまいました。既存のお取引のある販売店から、販売店が更にその先で売っている外食などの飲食店での需要がなくなってしまいました。新たに販売先を確保しようにも、展示会は軒並み中止となってしまい、大切なPRの場所がなくなってしまいました。

山口 そこで、インターネット販売のチャネルを強化しようと考えられたのですね。

中山 そうなんです。ただ、お酒造りは基本的に私1人でやっているので、なかなか手が回らないところもあって大変なんです。

山口 貴社の取り組みを伺っていると、共感したくなるエピソードが沢山あります。「火災という災難からの復活」、「1人でこだわりのお酒を造る姿」そして「コロナ禍に負けずに海外販路の開拓に挑戦されようとする姿勢」。酒蔵の伝統を途絶えさせないために、取り組まれている姿は、全国の小規模な酒蔵にも勇気を与えるし参考になるお話しだと思います。
どうか、誰か外部のデザイナーやウェブサイト制作会社に一任するのではなく、ご自身でどんな想いや哲学を発信されようとするのか構想された上で、外部を調整しながら表現するようにしていって欲しい。

■中山酒造株式会社
創業 文政三年(1820年)
代表 中山 正昭
住所 三重県松阪市小阿坂町2532
電話 0598-58-2308

レストラン・カルティベイト


 松阪市の郊外にある農業倉庫を改装して、中華ベースの創作料理を提供する「レストラン・カルティベイト」。店名のカルディベイト(cultivate)は日本語で、「耕す」の意味で、「土を耕す、食を耕す、時を耕す」というコンセプトで、同店の1Fは飲食スペース、2Fにはギャラリーを運営されています。「地元の人が地元をより知ることで、町への愛着を深めてほしいと積極的に地域の食材を活用し、同時に全国へ三重の魅力を発信することを目指す。」と語るオーナーシェフの山本さん。

 ミシュランガイド愛知・岐阜・三重 2019 特別版のビブグルマンに選出されたことをきっかけに来店数が増加し、来店をお断りしなくてはいけない状況にもなっていたそうです。 ※ピブグルマン・・・ミシュランガイドの格付けのひとつ。「値段以上に満足できるおすすめ店」という意味。

山口 コロナの影響についてはいかがでしょうか?

山本 緊急事態宣言が発出された4月からかなり影響がありましたが、6月以降は回復傾向にあります。

山口 コロナ禍の影響で、自分が住んでいる場所から外に移動していた人たちが、移動を控えて、自分がいる場所の近くのお店に関心が向いているので、都心型の店舗は辛いですが、地域密着のお店は回復しやすい状況にあります。6月行以降に回復しているからといって、このまま回復するだろうと楽観して油断せず、今、地域密着店に吹いているこの追い風をどうやって活かすか、考えていく必要があると思います。

山本 現在、冷凍の担々麺を開発中で、インターネット通販とテイクアウトでご提供していくことを考えているのと、密を避けて食事をされる方に向けて、お店の外にテラス席を作っています。

山口 テラス席については「寒い時期にどうするのか」という批判的な指摘もあるようですが、私は外のテラスがあるというのは賛成です。大前提として、接客業はコロナ向けの安全対策は絶対的に重要です。厳しい言い方になりますが、万が一にもクラスターが発生したら、お店が閉店に追い込まれるかもしれない、すごいリスクと隣り合わせなんだと感じながら、営業する必要があります。また、コロナ対策が甘いなという風に感じられるお店にはリスクを感じるので、高齢者は怖さを感じるでしょうし、また、高齢者と同居しているなど高齢者と身近にいる方にとっても同様でしょう。
また、飲食店がコロナ禍への対応で「テイクアウトをはじめます」というのはよくある話ですが、コロナ禍でしょうがなくテイクアウトをはじめたというような消極的な対応というだけではなく、積極的な戦略への意味づけを考える必要があります。

たとえば、テイクアウトの担々麺を家庭でどうやったら美味しく食べられるかについて動画で配信すると、消費者は提供された情報を基に工夫してみればみるほど、実際に店舗で食べたらうなんだろう?と感じるでしょう。もちろん、全ての調理のノウハウを公開する必要ありませんが、単に提供メニューの写真を発信するよりも、料理へのこだわりや姿勢を発信して、お店のファンになっていただくくように務める。そういう顧客と濃密な関係を作る積極的な機会として、テイクアウトやオンラインショップを意識的に捉える方がいいだろうと思います。

消費者の感性が社会の中でどんな変化しているかを受け止めて、対応するのが経営者です。
今はなんとなく場所貸し的な飲食店経営をしていたところから、こだわりを持った商品を消費者に自覚的に選んでもらうような局面に変化したように感じています。

山本 従業員も少ない中、普段忙しくしているので、今回の面談でお話しする中で、世の中の状況や、コロナの状況を理解することができました。いろいろと詰めないといけないことは沢山あることを改めて気づきました。

■レストラン・カルティベイト
創業 2010年
代表 山本 祐也
住所 三重県松阪市嬉野下之庄町 1688-5
電話 0598-31-2088

株式会社みなとや呉服店


 創業から150年、みなとや呉服店の8代目代表を務める土井美香さん。コロナ禍の現在はウェブサイトを刷新し、店舗と同様に接客を重視したECショップを実現することを目指しています。

山口 コロナの影響はいかがでしょうか?

土井 新型コロナウィルスによる影響で来客数が減少しまして、オンラインショップを刷新する事にしました。

山口 オンラインショップを刷新される上で、何か強調して発信されたいポイントはありますか?

土井 “コーディネート力”です。私は20代の頃には、婦人誌「家庭画報」の編集部に所属し、パリのエレガントなファッションに触れて、センスを培いました。今は、着物という伝統の中にエレガントさを効かせるコーディネート力を活かして、お客様へ全身のコーディネートをご提案させていただきます。

山口 いいですね。素人がプロに頼みたくなる理由は”安心感”ですから、土井さんにお任せすると「コーディネートは大丈夫」と顧客が感じてくれるのは素晴らしいです。

土井 実際に店舗で接客させていただく中で、お客様とお話しできれば、商品の情報提供などを通して、納得して後購入いただけるのですが、現在展開しているオンラインショップだと中々きめ細かい対応ができずに、歯がゆさを感じています。今回のご支援で、SNSやチャット機能などのコミュニケーションツールを強化したECサイトを実現したいと思っています。

山口 ぜひ単なるECサイトの構築ではなく、”お客さんと共に育む場所作り”を目指して欲しいです。ビジネスは”共育”だと思うのです。お客さんを育てる、自分だけ成長することだけじゃない、自分が育ったらお客さんを育てる、共に育つことが大切という視点です。自分だけが儲かることを考えると、一時期は儲かるれけど、マーケットが育っていかないんです。
たとえば、積極的に着物を着る機会を創出することや、着物好きのお客様同士のコミュニティ作りなど、で既存の着物愛好家向けのコンテンツを用意する事なんかもいいと思いますし、
着物に興味をもっていただくために、着物初心者向けのエントリーしやすい裾野を用意するなど。

土井 今、山口先生がおっしゃったような取り組みについて、はじめていることもあります。今回、山口先生とお話して、自分の考えていた事、やってきたことと合っているなと感じて、再確認できて、迷いがなくなった部分と 勉強になった部分があります。もっと勉強しないといけないと感じました。

■株式会社みなとや呉服店
創業 明治三年(1870年)
代表 土井美香
住所 三重県松阪市日野町787-2
電話 0598-21-1044

マルゴ株式会社


 寺社仏閣を中心とした建材の製材所としてスタートし、丸太を製材し数年掛けて自然乾燥させる高い技術が認められ、最近では大型の一枚板の製造販売にて、全国の工務店からご愛顧頂いているというマルゴ株式会社。
 コロナ前には海外展開を企画していたものの、海外との人的交流が難しくなり、インターネット上での情報発信を企画中です。

山口 コロナの影響はいかがでしょうか?

前川 コロナが流行る前には、台湾に家具を販売する試みを企画していたものの、コロナの影響で実際に台湾の方にお越しいただくのが難しい状況になってしまいました。そこで動画を制作し、ウェブサイトなどを通じて、情報発信を行う予定です。

山口 台湾から人を呼ぶという事ができなくなってしまったというのは仕方ないですね。動画を作って、ウェブサイトに載っけるということですが、どういうポイントを強調した動画を作成されるんですか?

前川
 飯田町の森には何世代にも亘り森を大切にしてきた歴史があるので、世界的に見てもSDGsにはまっているように思っているので、そのあたりを強調しようと思っています。

山口 なるほど。SDGsというのは良いテーマですが、SDGsというキーワードで発信すると、SDGsというキーワードの中に、貴社の取り組みが埋もれてしまう可能性があります。森を大切にしている地域は、世界の他の地域にも、日本の中にもあります。消費者からみて、なぜ“松阪の” なぜ“飯高町”の森を大切にするのか、という視点でお考えいただきたく思います。せっかく三重で神社仏閣のお仕事をされているのであれば、そういった歴史と絡めて海外に発信することも選択肢だと思います。

今は実際に体験させられないコロナ禍の状況で、インターネットを通して、イメージを伝えて共感してもらえる情報発信をする必要があります。

御社のような少人数の企業が、海外に向けて取り組みんでるというのは、他の会社を勇気づけることになりますし、日本の材木業界としても良い事例になる可能性があるので、そういう意識で頑張っていただいて欲しいと思っています。

■マルゴ株式会社
創業 1998年
代表 柳瀬 隆行 担当 営業部長 前川仁志
住所 三重県松阪市飯高町作滝107-1
電話 0598-46-1991

有限会社深緑茶房


 三重県飯南町で、自社の茶畑で収穫した茶葉を、自ら店舗にて販売する有限会社深緑茶房。過去には国内最高峰の「天皇杯」や「農林水産大臣賞」を受賞するなど、国内での評価も高く、世界基準の農業生産管理承認「ASIAGAP」を取得するなど安全性の確保にも努めてらっしゃいます。
 今回のコロナ禍により、オンラインショップで“新たな売上”を獲得するため、充実したおうち時間を実現する伊勢茶ティーバッグを開発し、販売力の向上を目指しているとのこと。

山口 コロナの影響はいかがでしょうか?

松倉 コロナで実店舗の売上は減少しました。一方で、巣ごもり消費の影響かオンラインショップでは売上がアップしています。そこで、こだわりのティーバッグの開発を行いました。
一般的なティーバッグは、「出物(でもの)」と言われる、「お茶の樹の枝の皮」や「製造で発生する粉」を使っています。これは今までのお茶業界の常識として「ティーバッグでお茶を飲む人は品質にこだわらない」という考えがありました。ただ、私はペットボトル緑茶でも品質競争が生まれている現状をみると、ティーバッグでも美味しい物があったほうが売れるのではないかと考え、急須で飲むのと変わらないティーバッグの開発を進めてきました。そこで、今のコロナ禍の現状に合わせて、ティーバッグのデザインを、おうち時間を楽しむギフト用、ホテル用などパッケージのデザインなどを変えていきたいと思っています。

山口 美味しいお茶を手軽に飲めるというのはいいことですね。当たり前ですが、手軽で、かつ、美味しく飲めないと意味がないですよね。ティーバッグにして、“手軽“という部分を強調したくなりますが、あくまで「老舗のお茶屋さんが本気で美味しいティーバッグの開発に挑戦して、ある一定の美味しさを実現できたら販売・情報発信するようになったんだ」ということをきっちり消費者に伝えるようにしたほうがいいと思います。
また、ティーバッグを普及させていくことが、急須で飲むお茶の需要を増やすことにも繋がる可能性があると思います。たとえば、寿司業界の話ですが、回転寿司が普及しはじめた頃は「廻らないお寿司屋さんは閉店に追い込まれてしまうのではないか」という不安の声もありましたが、実際には回転寿司が普及したことで、「いずれは廻らないお寿司に行ってみたい」と思う消費者が増えました。
今回のお茶についても、まずはお茶を飲む習慣を増やしていく、裾野を拡げておいた方がお茶業界全体のビジネスが安定するように思います。

せっかく自社の畑でとれた茶葉を実際に店舗で販売し、喫茶店スペースまで作っている珍しい生産法人なんだから、これまでのストーリーや商品へのこだわりを、丁寧に発信していく事が大切だと思います。

特に今回のオンライン面談のように、インターネットの双方向性を活用して、消費者にお茶の淹れた方を教えるイベントを開催するなど、消費者と距離の詰め方はいろいろな方法があるので、ぜひチャレンジしてください。コロナ禍が終わっても元の状態に戻らないものもあると考えた方が良いと思いますので、まずは経営者自身が今回のコロナ禍で普及しはじめたzoomのオンライン通話など新しいツールを試してみて体験するのが大切です。

■有限会社深緑茶房
創業 1999年
代表 松倉 大輔
住所 三重県松阪市飯南町粥見4209-2
電話 0598-32-5588

まとめ

 今回の面談を通し、コロナ禍が引き起こした変化のうちで、自社にどういった影響があるのかを見極めて、次にどう動いてくか一歩引いて考えることが第一歩だと感じました。コロナが流行してから現在までは、売上減やそれに伴うキャッシュフローの悪化に反射的に行動して、金融機関からの融資を受ける、固定費を削減する、次に売上をどうやって戻すのか、など緊張感を保ちながらスピードが要求される場面だったように思います。今このタイミングで社会や消費者の変化を捉え直し、これまでの“受け身的なコロナ対応 “から、コロナによる変化を追い風にするための”積極的なコロナ対応”にモードを切り替えて、自社の目指す方向や戦略を考え直す。そんな時期に来ているように思いました。

 特に今回のコロナ禍の影響で対面でのビジネスに大きな制約が加わり、商品の情報提供や販売方法を大きく変える必要に迫られています。コロナ禍において、オンラインで顧客と繋がりを増やし販売を伸ばすことができた企業は、仮にコロナが落ちついても継続して新たな顧客を獲得できる可能性があります。それは逆にいえば、今までライバルだと全く思っていなかった地域の企業が、自社のマーケットに攻めてくる可能性もあり得る状況ということだと思います。

 一方で、いくらオンラインの顧客接点が重要になったとはいえ、単純にITのツールを導入する、ウェブサイトやECサイト作ればいいというわけでもありません。自分達の強みや消費者に発信したいことを整理し、ちゃんと相手に伝わる形で発信するという基本を大切にしながら、経営判断をしていくことが重要だと感じました。

 こうした社会の変化に対して、中小企業ならではの意思決定のスピードや、細かいニーズを見つける力を活かしながら、会員の皆様がコロナ禍を乗り越えられることを切に願っております。
今回面談した企業の皆様の今後の展開が気になりますので、機会があれば、また改めてご報告させていただきます。


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