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大澤徳の“現場レポート”!2020年4月号
第11回 株式会社テリムクリ
今回のコロナ禍の影響で、企業では急速にテレワークの体制を構築することが求められています。そこで今回は、創業時から完全テレワークを実現している香川県丸亀市にある株式会社テリムクリを取材しました。
テレワーク導入で気になる社員の業務管理やコミュニケーションの取り方、テレワークに何ができて、逆に何ができないのか? IT企業という特殊性もありますが、今回お聞きした内容は、テレワークを検討される様々な業種の方にも参考になる内容です。「自社で活用するならどうするか?」を考える一助になれば幸いです。
なお、今回の取材は、コロナ禍の影響で外出や出張を控える方がいいだろうということで、オンライン会議のツールとして有名なZoomで行いました。非常にスムーズに取材することができ、これも様々な企業でご活用いただけるのではないかと思います。
【会社概要】
会社名:株式会社テリムクリ (Terimukuri Inc.)
所在地:〒763-0081香川県丸亀市土器町西1丁目540-3
代表取締役:牛尾 隆
設立:2015年1月15日
業務内容:Web制作、システム開発、Web系広告、サイトの運用、保守、管理
Webサイト:https://www.terimukuri.com/
顧客の課題をインターネットやデジタルの力を使って解決する
大澤 改めまして、御社の事業概要について教えていただけますか?
牛尾 お客様の課題をインターネットやデジタルの力を使って解決するというのが当社の仕事です。具体的には、香川県を中心に様々な業種の顧客に向けたWebの制作やシステムの開発など、最近ではWeb系の広告、サイトの運用、保守、管理を行っています。
大澤 実はスモールサンのWebサイトもテリムクリさんにお世話になっています。それでは、御社の特徴について教えてください。
牛尾 こういったWebやITの仕事というのはお客様が求める仕様ありきで、基本的にお客様から指示されたものをそのまま制作することが多いのですが、当社では制作に入る前の段階でお客様と密に話をして、その会社の戦略についても一緒に悩みながら制作を進めています。現在はどんな会社や団体でも戦略の主体がネットやITを使ったものに移ってきているので、そういった話がとても増えてきていますね。Webやシステム開発以前の経営相談なども割と多いんですよ。それに対する私たちのできることはITの範囲に限られてはいますが、そういった相談もできるだけ伺って、一緒にやっていけるところを模索しながら進めています。
大澤 ただの制作代行ではなく、経営の目線から戦略的にITをサポートしていただけるというのは、中小企業経営者にとって頼もしい味方ですね。具体的には、どのようなお仕事の依頼があるのでしょうか?
牛尾 例えば以前は実店舗を出していたけれど今は低コストでできるECサイトの方が始めやすいといったように、何か新しい事業を始めるにしても、これまでアナログで設備投資をしてやってきたことをWebやネットを使ってやるといったケースが増えてきていますね。
大澤 いろいろな業種がそうなってきているなという実感がありますね。
牛尾 また、IT業界、特にシステム開発では、当然ではありますが「ちゃんとシステムを動かす」ということが優先されますので、その一方で作ったシステムの見た目は二の次になってしまっているところが多いです。当社では、システムがちゃんと動くことは大前提として、見た目のきれいさや使いやすいデザインなど「美意識」を入れることも大切だと考えていて、それも特徴の一つになっていると思います。香川大学と共同研究で開発や実証実験をしたり、学生のアプリ制作を手伝ったりしているのですが、そこでもUI(ユーザーインターフェイス)やUX(ユーザーエクスペリエンス)といったデザインの要素を入れることでとても喜ばれています。
創業から完全テレワークを実践
大澤 テレワークはいつからはじめられたのですか?
牛尾 当社は現在6期目になりますが、創業時から現在まで完全テレワークです。そのため当社では始めからオフィスもありません。
大澤 確かに今回ZOOMで取材させていただいていますが、牛尾さんはご自宅の仕事部屋でお話しされていますね。そもそもテレワークでスタートしようと思ったきっかけは何だったのですか? 戦略的に決めたのか、たまたまそうなったのか……。
牛尾 私は起業する前から同じ業種の会社に勤めていたのですが、そこはテレワークではありませんでした。けれども、休憩時間も長いし移動も多い。朝早くに打ち合わせした後は事務所にいる時間もあまりなく、事務所を無駄だとずっと思っていました。在籍しているデザイナーやプログラマーも、必要なときにミーティングをするくらいで、みんな一日中デスクで画面に向かって作業しています。それって別に事務所である必要はないのではないかとずっと思っていたんです。そういった中で独立するタイミングがあり、「じゃあいっそのことテレワークでやってしまおう」と決めました。
大澤 思い切った判断でしたね。不安はありませんでしたか?
牛尾 当時はそういう事例もあまりなかったので、怖いところはありました。テレワークだとコミュニケーションが取りづらいですし、経営者の立場で普段何もかも見えない中でやるということの不安は感じましたね。ですが、幸い当社は創業時のメンバー皆がITリテラシーの高い人たちばかりだったので、実際にやってみて不安に感じていたほど大変なことというのはありませんでした。
大澤 もともとIT関係のお仕事ですもんね。テレワークをやるには、ある程度のITリテラシーを持っていることは重要ですね。
テレワークでのコミュニケーションで気をつけてること
〜週1雑談ミーティング、月に1回は実際に会って会議〜
大澤 とはいえ、ITリテラシーの高い人材が揃っていれば上手くいくかというとそうではないですよね。例えば、普通に事務所がある企業であれば、業務の合間に社員同士で会話したり、隣でお客さんと電話で話している内容が耳に入ってきたり、意識しなくても何となく社内で情報を共有できている部分があると思います。その辺りはテレワークだと無理ですよね。
牛尾 確かにそこはテレワークのデメリットだと思います。その場を共有していることによる情報共有やコミュニケーションはテレワークでは起きませんので、どうやって情報を円滑に共有するか、そしてどうやって皆とコミュニケーションをとるかといったことは強く意識しています。まず、テレワークだと画面上の画像や言語と音以外の情報は絶対に伝わらないので、コミュニケーションツールを活用しながら、きちんと伝えるように努力しています。同じ事務所にいると「ちょっとこの会議聞いておいて」という感じで何となく共有しておくということができますが、テレワークではそういうことはできないので、「伝えないといけないことははっきり伝える」ということが大切です。
大澤 伝える側が「何を伝えるべきか」をしっかり考える必要がありますね。業務の情報はそういった工夫で共有できるかと思いますが、それとは別に従業員間での雑談や空気感といったものは伝わりにくいですよね?
牛尾 そうですね。そのため、雑談できる時間というのを意識的につくるようにしています。当社では週に1回Skypeを活用して社員全員でミーティングをしているのですが、まずは「最近どう?元気?」とか、今ですと「コロナで大変だね」、「外出する機会が減って運動不足になってるよ」というような雑談を3~40分くらい、何となく全員で喋ってから、各々の仕事の状況を報告したり本題の業務の話に入るようにしています。
大澤 普通の事務所でお昼ご飯を食べながら話すような時間がないからこそ、雑談のためにしっかりと時間を割いているんですね。
牛尾 最近のトレンドがどうだとか技術的な話も出たりしますし、「こういうのを勉強したい」とか「こういうニュースを見た」といった話をしたり、あえて雑談をすることで普段の業務以外のところで最近お互いが何を考えているかということが分かるようになります。また、当社では月に1回は実際に会う機会も意図的に作っています。
大澤 実際に会うときは何をされるんですか?
牛尾 それも何となく雑談から始まって、週1回のミーティングよりももう少し案件ごとの深い話をしたり、技術的なアドバイスや自分が勉強したことを発表したり。特にこうと決めてはいなくて、自由に半日から1日を使ってみんなで集まって昼ご飯を食べて、という感じにしています。
大澤 なるほど。場を共有してなくてもツールを使うことで情報の共有はできる。一方で場を共有しなくてはできないこともあるから、そこはあえて時間を割いてでもコミュニケーションをとることが大切ですね。
テレワークにできること・できないこと
~「全てをオンライン」ではなく、オンラインとオフラインの役割を知る~
大澤 週1回のミーティングはSkypeということでしたが、オンライン会話ツールだと相手の空気感というか、感情が読みづらいと感じたりしませんか?
牛尾 ありますね。若い人はそういうのは感じていないみたいですが、自分で完全テレワークの会社をやっておきながら、実は私自身はあまりオンラインでのミーティングは好きではないんですよ。オンラインだからこその良い面もあれば、普通に会って話す方が良い場面も絶対にあります。
大澤 私自身はオンラインの会話だと、実際に会って話すときより無駄を省いて明確に用件や情報を伝えられることが多いように感じます。
牛尾 そうですね。逆に、重い案件でプロジェクトの計画をつくったり、一緒にアイデア出しをしたり、いわゆるブレインストーミングのような場面では実際に会って話した方が良いです。オンラインの打ち合わせでも不可能ではないですが、私はそこは会いたいなといつも思いますね。そういうときは、レンタルオフィスの会議室などを借りて、実際に会って会議するようにしています。
大澤 新人に教えたりとか、教育の面ではいかがですか?
牛尾 新卒を採用してテレワークで一から育てて、というのは難しいと思います。当社でも創業してから新しく採用した人はいますが、基本的に別の会社に勤めていたところから転職した人で、それ以前にも仕事で何回かやり取りしてコミュニケーションをとったことがある人です。当社は100%テレワークですが、普通の会社でしたらオフィスで教育できる環境を整えて、できる人はテレワークといった感じのハイブリッドでできると思います。
大澤 今後はテレワークが当たり前になると言われていますが、「当たり前になる」というのは何でもテレワークになるということではなく、テレワークにできること・できないことを知って皆が自分たちにあった形で活用するということですね。
ツールは低コスト、まず導入してみて文化は後からつくる
~テレワークでも文化はコミュニケーションの中で作られる~
大澤 ここからはもう少し細かいお話しを伺いたいですが、貴社でテレワークに使用しているツールを教えていただけますか?
牛尾 当社では下記の様なツールを使用しています。
用途 | ツール名 | URL | 補足 |
コミュニケーション
(テキスト・画像メイン)
|
Slack | https://slack.com/intl/ja-jp/ | 同様のサービスにMicrosoft teams、チャットワークなどがある。 |
コミュニケーション
(音声) |
Zoom | https://zoom.us/jp-jp/meetings.html | 同様のサービスに、Googleハングアウト、BellFace(ベルフェイス)などがある。 |
Skype | https://www.skype.com/ja/ | ||
ファイル共有 | Dropbox | https://www.dropbox.com/ja/ | |
顧客管理 | Kintone | https://kintone.cybozu.co.jp/ | |
プロジェクト管理ツール | Backlog | https://backlog.com/ja/ | 業務内容と進捗を“見える化” |
※各企業が取り扱う情報の種類によっては、上記のようなサービスを使用することが推奨されない場合もあるので、ICTツールを導入される上では各社の状況に合わせて慎重にご検討いただきたく思います。 |
大澤 それぞれのツール自体では、そんなにコストはかからないですね。上記のものを全て導入しても、アカウント数にもよりますが、最低ですと月額1万円以内の金額ですね。
牛尾 そうですね。一昔前ですと、自社にサーバーを置いて、社内でデータ管理を行うために停電用の非常用電源を用意したりと色々と費用がかかっていましたが、今はクラウド型のサービスが普及したことで安価にツールを導入することができます。当社では、kintoneは顧客管理、お客様との議事録など保管が必要な情報はこれに集約しています。各案件ごとのタスク管理はBacklogで、普段のやり取りはSlackとメール、オンライン会議はZoomかSkypeを使っています。他に、情報セキュリティや、システム開発するためのAdobeCreativeCloudなど各種の制作ツールは導入していますが、テレワークのためというと上記のツールになります。
大澤 これらのツールを使用する上で何か気をつけていることはありますか?
牛尾 私たちは日頃のコミュニケーションをslackというチャットツールを使っているのですが、メールよりも相手にメッセージを送る手間が少なくて効率がいいのと、各ツールと連携して自動で通知が来るように設定できるので、便利に使っています。例えば、「お休み」というトークルームを作成して、社員の休みの報告はここに投稿してもらうことにしています。オフィスと違ってテレワークだと誰が休んでいるのか見た目でわかりませんので。あとは、雑談するためのトークルームも作っています。
大澤 ここでも、あえて雑談するための場所を用意されているんですね。ちなみにこの雑談のトークルームでは、どういうお話をされてるんですか?
牛尾 例えば、当社で和太鼓をやっている子がいるんですが、その子に「今ローランドという電子機器メーカーが電子和太鼓を出したよ。あれ使ってみたらおもろいんちゃう?」って話したり、「お客さんがプレスリリース出したよ」とかもありますし、本当に雑談です(笑)。
大澤 普段、ちょっとした休憩時間に話すような会話ができるように工夫されているんですね。他に何か気をつけていることはありますか?
牛尾 どのツールでどこまでの情報を保管・管理するかは気をつけています。二重管理になってしまうと非効率ですし、どちらを参照したら最新の情報が入っているのかわからなくなってしまっては困りますので。
大澤 目的と内容に合わせた情報のルート作りが大切ですね。こうしてお話を聞いていると、ツールの導入自体は費用的にも難しくはないと思うのですが、実際に各ツールを自社でどう運用していくか、テレワークの前提となる風土や文化作りにハードルがあると思うんです。御社ではこれまでどうやってツールを導入してきたのでしょうか。
牛尾 基本的にはまずツールの導入を始めてみて、現場で使いながらルールを作っていくような感じですね。もちろん情報セキュリティなど最低限守るべき事は大前提として、導入時にはあまり厳密にルールを決めてはいません。例えば、Backlogのタスク管理だったら、「期日を超えたらちゃんと依頼者に相談しよう」とかそのレベルです。最初からルールでガチガチにしてしまうと皆嫌がりますからね。それでも緩くしすぎてしまうと滅茶苦茶になってしまいますので、運用しながら皆とコミュニケーションをとる中で雰囲気を見つつ調整しています。
大澤 どこまで緩めるか、どこまで厳しくするか、そのバランスは難しいところですね。そういった調整においても、やはりコミュニケーションが重要なんですね。
社員の仕事状況はプロジェクト管理ツールで共有できる
~相手が見えない不安はツールでカバー~
大澤 テレワークでの心配事として、「社員がちゃんと仕事をしているのか分からないのでは」という声をよく聞きますが。その辺りはいかがですか?
牛尾 当社ではプロジェクト管理ツールで相互のタスクが共有されているので、案件の数やタスクの進捗状況を見れば、誰がどんな案件を抱えていて、どう仕事を進めているのかちゃんと分かるようになっています。ただ、やはり相手が目に見えないので、最初は不安になる時もありましたね。例えば、たまたま電話した時に繋がらなかったり、チャットを送ってもなかなか返事が返ってこない時など、最初はすごく気にしていました。でも、何年かすると全然気にならなくなりましたね。
大澤 やはり最初は心配なものなんですね。
牛尾 私も元からテレワークで働いていたわけではないので、自分で創業してお客様への納期もあってプレッシャーを感じている中で、社員とすぐに連絡が取れないというのは不安に感じる時もありました。相手の状況が分からないので、そこは本当に経営者の勇気だと思います。結局はその人を信用できるか、そこに尽きます。実際、会社に出社していてもバレないようにサボる人もいるでしょうし、そこはテレワークと同じだと思いますね。
大澤 コミュニケーションをとって信頼関係を築くこと、そして業務の内容については適切なツールでちゃんと共有・管理することが大切ですね。社員の評価はどのようにしているのでしょうか?
牛尾 厳密な評価制度はありませんが、半年に一度プロジェクトベースで実施しています。当社は完全テレワークですが、少人数組織なので、社員が関わった案件や売り上げが全て分かるからできていることではありますね。
大澤 確かにお話を聞いていて、少人数であれば互いにコミュニケーションをとったり、業務状態を把握することも十分に可能だと感じました。
テレワークの導入はどんな業種でも可能!
~重要なのは何ができて、何ができないかを知ること~
大澤 御社の場合はIT企業だからこそテレワークを問題なく運用されている部分もあるかと思いますが、他の業種でテレワークを導入することについてはどう思いますか?
牛尾 実際に工場で物を作るとか実店舗で商品を販売するなど、物理的にその場にいる必要がある業務を除けば、多くの業種でテレワークを活用することは可能だと思っています。
大澤 今回お話を伺って、テレワークの導入自体は決してハードルが高いものではないんだなと感じました。重要なのはテレワークで何ができて、また何ができないのかを知ることですね。何も全員をテレワークにしようとする必要はなく、「まずはこの業務から任せてみよう」、「この部門で試験的に導入してみよう」という感じでどんな会社でも自社にあった活用をすることができますね。
牛尾 はい。テレワーク自体には、例えばツールを操作するのに特別なスキルがいるとか、すごく導入コストがかかるということもないと思います。
大澤 こういった導入事例を参考に、実際にテレワークを運用するなら自社ではどの業務に活用できそうか、社員とのコミュニケーションはどうとっていくかなど、自社におきかえて考えてみていただけると嬉しいですね。本日はありがとうございました。