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大澤徳の“現場レポート”!2019年5月号
HILLTOP(ヒルトップ)株式会社 見学レポート
〜IT活用の背景にある、革新的な人材採用・育成の取り組み〜
スモールサン事務局長 大澤徳
2019年2月にディズニーやNASA、Uberなどと取引のあるHILLTOP(ヒルトップ)株式会社へスモールサン会員の皆様と一緒に企業訪問させていただきました。「利益率20%を超える鉄工所」、「24時間無人加工の夢工場」「世界トップ企業を含む3,000社と取引」と称される“現場”を実際に訪問し感じたことを、皆様にレポートせていただきます。
今回、HILLTOP株式会社へ企業訪問するにあたり、メンバー募集のメールを配信させていただいたところ、わずか数時間の間に満席になった事からも、多くの経営者の方が同社へ強い感心をお持ちである事を感じました。9月13日に予定している今年のスモールサン全国研修会では、山本副社長にお越しいただき、ご講演と山口名誉教授とのセッションを開催する予定ですので、ぜひ会員の皆様にはご参加いただきたく思っております。(全国研修会については近日ご案内予定です。)
HILLTOP株式会社については下記の2018年9月の巻頭情報でも取り上げております。よろしければ、こちらもご覧ください。
巻頭情報 2018年9月号 中小製造業の「成長戦略」を探る
~HILLTOP株式会社山本昌作副社長の発言から~
「利益率20%を超える鉄工所」、「24時間無人加工の夢工場」、「NASA、ディズニー、ウーバーなど世界トップ企業を含む3000社と取引」、「1社依存率14%以下という徹底した“脱下請け”経営」、「人手不足が叫ばれる今も、数人の募集に1000~1500人の応募者が集まる魅力的企業」。――これらはすべて京都府宇治市に本社を置くアルミ加工業「HILLTOP (ヒルトップ)株式会社」につけられた「形容句」である。
「汚い油まみれの鉄工所」が、一体どのようにして「年間2000人超が見学に訪れる先進的な会社」へと生まれ変わったのか。以下では、同社の実質的経営者である山本昌作副社長の発言から、その秘密を探っていきたい。HILLTOPが追求している“圧倒的なスピード”
前回の記事にあるように、HILLTOP株式会社は、アルミに特化した多品種小量の部品加工(切削加工)がメイン事業です。特筆すべきはそのスピードで、24時間365日無人で工場を稼働させて、過去に注文を受けた商品であれば、その時に書いたプログラミング通りに制作することで、納期を短くしているとのことでした。
たとえばアメリカ・シリコンバレーにある子会社を通して、日本時間の深夜に注文を受ける。すると日本時間の昼間にプログラミングを行い、その日の夜中には自動で加工、というスピード感。
このスピードを実現しているのは、2018年9月号にスモールサンニュースで取り上げたように「データの活用」が鍵となっていることはもちろんです。しかし、今回の企業訪問で筆者が感じたのは、そもそもどのようにして「データ活用」を実現できているのかーーそれはHILLTOP株式会社の「組織」や「人」の特徴によるものだということでした。
(HILLTOPアメリカ現地法人の取り組みについては、フォーブス2018年2月号「SMALL GIANTS 2019」でも詳しく特集されています。)HILLTOP株式会社 その社風をつくる人育て
山本副社長が「楽しくなければ仕事じゃない。知的作業を人が担い、ルーティン作業は効率よく情報化・機械化する。」とおっしゃっていたのが強く印象に残っています。
実際に、社員が目の前の仕事に飽きないように、担当している仕事に慣れてきたら早めに配置転換が行われることもあるようです。素直に考えると効率が落ちそうなところですが、効率よりも、新しい仕事を覚えさせることを優先しているとのことです。「慣れた仕事を放っておくと、ルーティンワークに支配されてしまう。何回もやってるから邪魔くさいと感じて、根が生えて、『仕方なくやっている』と感じるようになる。だから必死にルーティン作業に抵抗している。」とお話しされていました。
また、この早いサイクルでの配置転換には他にも効果があると仰っていました。一つは、多様な部署を短期間で経験する事で、誰かが休んでも仕事が回る体制作りができること。もう一つは、部署間の対立が起きにくくなることです。
こうした人事異動を実現するために、普段から業務について3つのことを徹底しているそうです。
①データ化・標準化 ②マニュアル化 ③人伝えで教えること
「人間がやっていること、人間の頭の中にあるものをコンピュータに入れて、情報の整理整頓をしておくことで、いつでも正しいものを取り出せるようになる。自分の保身を考えて、仕事を情報化しないのはNG。もし今後5年10年で、担当している仕事自体が自動化して困るのは本人なので、本当の保身とはなんであるかを丁寧に説明する」と仰っていました。
中には、今の仕事から抜け出すのが難しいと感じてる社員もいるでしょう。そういった社員に向けては「今の仕事を効率化できたら、こんな新しい仕事ができるよ」というように誘い水を出すそうです。
こうした取り組みの結果、ルーティン作業から解放され、従業員を常に新しい仕事に従事させられる体制を実現しているとのことでした。社内にいるIT人材の見つけ方・育て方
人手不足が騒がれている昨今、「新卒採用しようと思っても応募してくれる学生自体を確保するのが大変だ」と経営者の皆様からよく伺います。IT人材となると更に獲得競争が激しいようですが、HILLTOP株式会社ではシステムエンジニアを自社内で育てているとのことでした。
一緒に見学に行かれた経営者の方が「ヒルトップシステムのようなシステムを構築したり、業務にITを取り入れて効率化しようと思っても、社内にIT人材はいないし、どうしたらいいでしょうか?」というご質問をされていました。それに対する山本副社長の回答は、「会社の中で、音楽や写真、絵が好きな人たちに注目して、彼らのポテンシャルを活かす」ということ。
たしかに音楽や写真、絵などをパソコンやスマホで編集している人の多くは、ITに対する抵抗感がありません。結婚式の動画を自分で編集したり、年賀状を自分で作ったり、自分の趣味を発信するためのウェブサイトを制作したりする人もいます。IT人材を見つける・育てるといっても、最初はイメージが湧かなかったのですが、そういった身近な事柄をポイントにすることで社内から適した人材を見つけて少しずつ育てていく、というのが身近な方法なんだろうと感じました。
HILLTOP株式会社では、年間6〜7本のプロモーションビデオを撮影して、編集や、動画に挿入する音楽を自分たちで制作しているそうです。
そういった活動を通して、普段の仕事の中では見えないけれど、「ピカッと光る何か」を持っている従業員を見つけて、彼らの能力を伸ばされているように感じました。
山本副社長は「監視されて、指示通り動くようにといえば、人は能力の5割も発揮しなくなる。やりたいという仕事をやらせてあげるだけで、2割くらいはその人の可能性が高まると思っている。企業が従業員ごとのゾーンを決めてはめてしまうのではなく、(彼らの能力を)活かす方法を考えないと企業が豊かにならない。」と仰っていました。人材採用についての考え方
HILLTOP株式会社が採用活動を行うと、数名の枠に対して、約1500名の学生から応募があるそうです。新卒採用時の応募の少なさを課題に感じている企業が多い中、これだけの応募がある事自体が驚きです。
採用について山本副社長が仰っていた言葉が印象に残っています。「5年後に潰れるかもしれないけど、(何かの分野で)一番の人材にできる自信がある。ルーティンワークは5年やろうが10年やろうが、成長はわずかしかない。弊社は毎日の業務が知的労働だから成長する。」
筆者自身、大学卒業後すぐにスモールサンという、いわゆる中小企業に入社した身です。大学や高校の同級生で大企業に入社した友人たちと比べると、中小企業ならではの様々な業務を体験し続けられる環境のおかげで、これまで飽きることも辞めることもなく業務に励むことができ、自分なりに工夫して仕事をしたいという姿勢を保ち続けられたような実感があります。
また、採用活動では、能力が高い一匹狼ではなく、チームで仕事ができる方――「知的体育会系」や「コミュニケーション能力が高い人」――を重要視しているとの事でした。
採用面接の時には、経営幹部のみならず社員も選考に深く関わるようにしているそうです。これによって、社員自身が新入社員に対して「自分が採用した」「入社後は面倒をみる」と感じられるような採用フローになっています。「(社員が採用に関わることで)『社長が選んだんじゃない、自分たちで選んだんだ』と思ってもらえると、社員が新卒を大切にするんですよ」と副社長が仰っていたのが印象的でした。売上の5%は儲からないことをやろう
スモールサンでも山口名誉教授が、「5%の新規性」について会員の皆様にお伝えしていますが、HILLTOP株式会社においても同様の考えを持っています。
「『5%』だけでもいいから、新しい事、楽しいことをやっていこう。受注型でいわれた通りの物をどうやって作るかを考えるよりも、『何を作るか』を考えてるほうが楽しいし、自分たちで何かを生み出せるやりがいがある。儲からないけど可能性を感じる、人の心をかき立てるようなもの。そんな面白いビジネスをしたい」というのが山本副社長の方針だそうです。
HILLTOPでは、民間による月面探査ミッション「HAKUTO」プロジェクトにて金属部品を対象にしたローバーのフライト品および試作品の機械加工部品を提供したりするなど、新しい挑戦を続けています。おわりに
今回、HILLTOP株式会社を訪問させていただいて感じた事は、「ITの活用が上手な会社」というのもさることながら、「社員の人間としての強みをどうやって引き出すか」ということを真剣に考えて経営されているという事でした。
山本副社長は「モノがモノを作っているのではなく、人がモノをつくっていく」と仰っていました。これからの時代、AIやRPAなど様々な分野でITによる自動化・効率化が進んでいく中で、ルーティン作業と知的労働に業務を分けて、社員の興味・関心をうまく捉えながら“人”として能力開発していくことの重要性を感じました。
また、様々な会社を訪問させていただく中で感じるのは、「どんなに大きな組織であっても、その社風は社長の想いや哲学が引き延ばされたものなんだ」ということです。
HILLTOP株式会社の歴史を辿ってみると、現社長である副社長のお兄様が聴覚障害者であることをきっかけに、「将来 聴覚障害者の兄でも生きていける場所を作ろう」という理由で設立された背景があるので、「誰かを想う心」が社風として強く残っていると感じました。
山本副社長には2019年のスモールサン全国研修会にお越しいただき、ご講演いただくことになっております。ぜひ、会員の皆様にはHILLTOP株式会社 副社長山本様のご講演や、山口とのセッションを聞いていただきたく思っております。