瀧本智恵のシネマ・ノート 2025年2月号
『敵』 「おひとりさま」をどう生きるか 穏やかな生活に起こる異変 フランス近代演劇史が専門の元大学教授、渡辺儀助(長塚京三)、77歳。退職して10年、妻を亡くして20年、子供はいない。講演や執筆で僅かな収入を得つつ、貯えが尽きる時が人生を終える時と決めている。遺言書もすでに書いた。古い日本家屋に住み、規則正しく丁寧な毎日を送る。長い一人暮らしで炊事洗濯掃除も手慣れたもの。たまに教え子がやってきて断捨離を手伝ってくれたり、バーとクラブの中間のような店「夜間飛行」で酒と会話を楽しむ。そこで出会った若い女性、歩美(河合優実)に慕われてまんざらでもない。また別の日にはやはり教え子の鷹司(瀧内久美)が訪ねてき...