瀧本智恵のシネマ・ノート 2016年3月号
「サウルの息子」~わかった気になってはいけない。~サウルの体験1944年10月。サウル(ルーリグ・ゲーザ)はアウシュヴィッツの絶滅収容所で、ナチス親衛隊の指揮下、ユダヤ人の死体処理に従事する。移送されてきた多くの人々をガス室に誘導し、死体を運び出し、焼いたあとの灰を川に捨てる。彼もハンガリー系ユダヤ人。ゾンダーコマンドと称され、束の間の生を与えられるが、秘密保持のために数ヶ月後には殺される運命にある。 ある時、ガス室で死ななかった少年を見て、サウルは自分の息子と信じる。少年はナチスの軍医の手ですぐに殺されるが、サウルはその遺体の埋葬を決意し、解剖室から遺体を運び出す。そして、追悼の祈りを唱えてもら...