瀧本智恵のシネマ・ノート 2023年6月号
『怪物』 子供は大人を観察している 真実は見えない 湖に面した地方都市の郊外の町。ある日の夕方、原因不明の火事が発生。事故で夫を亡くして以来息子と二人暮らしの麦野早織(安藤サクラ)は、11歳になる息子・湊(みなと)(黒川想矢)と高台の自宅のベランダからその火事を眺めている。「豚の脳を移植された人間は豚?人間?」。湊が突然問う。そんな研究があると担任の保利(ほり)先生(永山瑛太)が話したと言うのだ。変なことを教えるもんだねと、さして気にも留めない早織。親子の他愛のない会話だ。それでも早織は最近の湊の様子から学校でのいじめを心配している。 ある晩、帰りの遅い湊を車で探し回った早織は、町はずれにある廃線...